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2019年12月23日月曜日

第19回 勉強会の勧め その2



(前のページの続きです。→その1はこちらです。


3 勉強会を開く際の注意点

 答案の書き方は人によってさまざまですが、メンバーが個々の方法論に従って自由に意見を言うだけだと、勉強会の効果が薄くなってしまいます

 それは、
・答案の書き方や基本的な議論の流れが自分と大きく異なる相手に対しては、「どこをどう改善すればよいと思うか」を指摘し辛い
・「自分とは大きく異なる方法論に従って言ってもらった指摘」を自分の方法論の中で位置付けるのに苦労することになる
といった理由からです。


 したがって、勉強会をする場合、そのメンバーの間で、ある程度の基本的な答案の書き方が共有できている方が理想的です。

 そこで、合格者の講演・予備校の先生方が書いた本・当ブログで紹介している書き方など、何でも良いですから、ある程度の基本的な答案の書き方をメンバーで共有したうえで勉強会をすることをお勧めします。



4 私の場合

 参考までに、私の参加していた勉強会のうちの一つは、以下のような感じでした。前のページで説明した3点についてかなり勉強になったと思います。

メンバー:クラスメイト数人程度
内容:本試験過去問の研究発表+相互答案添削(事前に答案を見せ合っておいたうえで、勉強会において口頭でコメントし合う)
頻度:週1回
基本的な答案の書き方:本試験合格者による答案の書き方講義(メンバー全員受講済み)

※実はこれ以外にも別のメンバーと勉強会をしていたことがあったのですが、そちらでは答案の書き方についての考え方が共有できておらず、私個人としてはあまり身にならなかったと感じています。そのような経験もあって、上記のとおり、基本的な答案の書き方について共有することをお勧めします。


5 勉強会ができる環境にない場合

 例えば大学・ロースクールを卒業して下宿から実家に戻った、とか、社会人でまとまった時間を取りづらい人たちなど、勉強会ができる環境にない場合もあるかと思います。

 このような場合は、どこのものでもよいですから、予備校の答練や模試等を必ず受けるようにすることをお勧めします。これらを受ければ、合格者に自分の答案を読んでもらったうえで、添削コメントがもらえますから、前の記事で述べたような勉強会のメリット①②③の一部ないし全部を得ることができます。このように自分の答案を人に見てもらって意見をもらう機会は、必ず確保するべきです。

 なお、確かに答練や模試等は、添削者一人にしか答案を見てもらえませんし、「自分がどういう意図でそのような論述をしたか」を含めて相談するといった双方向的な機会は得られません。しかし、合格者による添削コメントが得られるという点では、より効率よく自分の不足部分を洗い出すことが期待できるというメリットもあります。(「自分の答案の悪い部分」が不明のまま終わってしまう確率が相対的に低い。)


6 まとめ

 以上のとおり、可能なのであれば、仲間たちと勉強会の機会を設けることをお勧めします。

 その際には、

・勉強会で何を得たいのか(書くことの選別、表現の修正、あてはめの相場観など)を意識すること
・基本的な答案の書き方を共有できているメンバーで勉強会を組むこと

等に留意するのが良いでしょう。

 そして、どうしてもグループで勉強会をするのが難しい場合は、必ず答練・模試等を受けるようにするのが良いです。




2019年12月8日日曜日

第19回 勉強会の勧め その1


1 概要

 司法試験受験生の中には、自宅での独学メインで勉強している人もいるかもしれません。しかし、可能であれば、勉強会等で、仲間と一緒に勉強する機会を確保することをお勧めします。

 そして、内容的には、少なくとも「答案を実際に書き、見せ合い、互いに意見を出し合う」といった勉強会をするのをお勧めします。もしもどうしてもその仲間が得られない場合は、予備校の答練や模試など、とにかく人に答案を見てもらう機会を確保するべきです。

 すでに勉強会を開いている人や、答練等を受講している人にとっては今回のお話はあまり参考にならないかもしれません。

 なお、後にも触れますが、勉強会を開く場合は、できれば「答案の書き方の方法論」について、ある程度グループ内で共有することをお勧めします。



2 勉強会をお勧めする理由

 勉強会をお勧めするのは、大まかに言うと、

①みんなが書くような内容を書けるようになる(書く内容の選別)
②自分の表現の不十分な部分を改善する(表現の修正・調整)
③あてはめの相場観を養う

ために勉強会がとても役立つからです。


(1)①書く内容の選別について

 「一生懸命書いた法律構成や論点が、模範答案では簡単に済まされていたり、そもそも触れられていなかった」という経験のある人も少なくないと思います。

 前回の記事でも触れましたが、実務法学は説得の学問ですから、「皆が悩む論点について」厚く論じることが求められます。(積極的な誤りでないならば、自分だけが気になるような論点を論じても別に構いませんが、加点にはつながりませんし、時間も紙幅も奪われて本来書くべきことが書けなくなってしまいます。)

 ですから、書く内容が独りよがりになってしまわないよう、「皆はどういう部分を気にするのか」に絶えず気を配っておく必要があります。


 実を言うと、書くべき内容を考える際には、例えば刑法で「より重い罪である強盗殺人が成立しうるからまずはこれを検討し、ひとまず殺人罪は検討しない」とか、刑訴法で「被疑者の同意が得られなかったからこそ強制処分である検証がされたのだから、任意捜査の原則は問題にならない」など、論理的に選別できる場合は多いです。

 しかし、実際には、「自分は気になるが、解説や参考答案では触れられていない」という点について、「なぜ触れられていないのかの理由」を自分で考えるのはそう簡単ではありません理由がわからないからこそ自分はそれを答案に書いたのですし、参考答案や解説でその点について触れられていない以上、なぜ触れないのかのヒントを得るのも難しいからです。

 こんな時、自分が気になる論点について、勉強会で話題に出してみれば、それに触れない理由についてのヒントを仲間から得ることが期待できます。(なお、答練でも、「何故それを書く必要がないのか」の理由について添削コメントで指導してもらえることはあるかと思います(少なくとも私が添削する場合はそこまでコメントしています)が、十分なコメントをもらえずにスルーされてしまう恐れもありますので、仲間と議論する機会も持つ方が良いです。)

 また、記載内容を論理的には選別しづらい場面であったとしても、周りの反応から、「ああみんなも全く気にならないわけではないが、教科書等で論点化されていないからひとまずこの点は無視しているようだ」とか、「ああこれはそもそも自分以外誰も気にしないことなのだ」などが分かります。それを積み重ねれば、相場観のようなものもできてきます

 以上のような理由から、勉強会を開くことは、記載内容の選別にとても役立ちます。



(2)②表現の修正・調整について

 書くべき内容を適切に選別することができ、正確な論点知識があったとしても、「それを答案上に適切に表現できるか」はまた別の問題です。

 まして司法試験では、限られた時間内で限られたスペースに答案を書く関係上、どうしても表現は雑になりがちなので、絶対に略してはいけない部分を略してしまったりする恐れもあります。例えば、行政法答案で「裁量処分であっても逸脱濫用がある場合には違法となる。これを本件について見る・・」などといった表現にとどめてしまい、「行訴法30条の指摘」や「どのような場合なら裁量逸脱濫用になるかの判断基準定立」といった点を書き洩らしたりするような恐れです。

 通常、自分の答案は、「自分が必要十分だと思った表現」で書いていますから、自分一人で答案を見直してみても、「必要十分な表現がされているじゃないか」と思ってしまう可能性が大きく、一人で表現を修正・調整するのはやや困難があります。(もちろん、とりわけ注意深い人であれば自分一人でも可能だとは思います。)

 このような場合、互いに答案を見せ合うことで、表現が誤っている部分、曖昧な部分、言葉足らずな部分などについて、互いに指摘し合うことができます。このような点でも、勉強会はとても役立ちます。



(3)③あてはめの相場観の養成について

 事例問題で結論を導くには「本件あてはめ」が必要で、あてはめの際には事実評価が必要となることが少なくありません。そして、事実評価とは、「あなたがその事実にどのような意味付けをするか」ですから、答案作成者個々人で異なってくることがあるのは当然です。

 しかし、だからと言ってあまりに無理のある事実評価をすることは避けるべきです。「読み手を説得するための」答案を書くのですから、「考え方によってはなるほどと思える」ような答案を書く必要があります。そのため、自分以外の誰も(またはほとんどの人が)納得しないようなあてはめは、避けなければなりません。

 具体的には、例えば「夜間無人の工事現場で、被害者が逃げられないようにバットで両足を強打し、首元にナイフを突きつけながら金品を要求した」という事例で、「被害者の両手は無傷で空いていた以上、手持ちの防犯ブザーで人を集めたり、携帯電話で警察に通報するなどの反抗の余地が残されていた。したがって、反抗抑圧に足る暴行があったとは言えない。(よって強盗罪の『暴行』は認められない。)」などという事実評価をするのはさすがに無理があります。ここまで無茶な評価をする人は少ないと思いますが、筆が乗るとつい乱暴な事実評価をしてしまうこともあります。

 そこで、このようなことを避けるため、勉強会で、自分の事実評価、みんなの事実評価を見比べることで、あてはめの相場観を養っていくのが良いです。



(次のページでは、勉強会を開く際の注意点等に触れます。)


2019年12月1日日曜日

第18回 悩みどころ/悩むべきでないところ その2



(前の記事の補足です。→その1はこちらです。


3 補足

 なお、「教科書を見ても論点化されていないけれども自分は気になる」点が出てきたときに、よく調べてみると実は最新の議論では問題提起されていた、ということがあります。

 また、本試験の現場で「見たこともないような論点」の検討が必要となることも多少はあります(例:通常の判例学説による処理だと不公平・不当な結果が導かれる場合で、一定の修正が求められる場面など)。

 このような場面があるのなら、やはり個人的な疑問点も大切にすべきではないのか?と思われるかもしれません。

 しかし、まずは「個人的な疑問・関心」はとりあえず脇に置いて勉強を進めるのをお勧めします。

 その理由は、以下の2つです。

・個人的な疑問は、自分以外誰も悩まないようなものである可能性が小さくないため、これにいちいち勉強時間・紙幅をつぎ込んでいると、効率が良くないこと
・①司法試験の出題では未知の論点のウェイトは大きくないし、②司法試験は相対評価であるため、みんなが書くようなことをしっかり書いていれば普通に合格できること


 「みんなが書くところをしっかり書く」ためには、「みんなが書けるところを落とさないこと」だけでなく、「みんなが書かないようなところに時間・紙幅をつぎ込んでしまわないこと」が重要です。ですから、自分の個人的な疑問点等はひとまず脇に置いておき、「受験生みんなが知っているような論点を全て自分も書けるようにし、他の受験生に書き負けないようにする」ことを目指していくのが効率的・現実的でしょう。


 受験生であればどこかで聞いたことがあるかもしれませんが、「すごい答案を書く必要はない」のです。




2019年11月24日日曜日

第18回 悩みどころ/悩むべきでないところ その1




1 概要

 答練を受けたり問題集や過去問の参考答案を見たりしていると、「自分の思ったのと異なる法律構成・論点が厚く論じられている」とか、「規範定立部分で悩みを見せて厚く書いたが、その分あてはめが薄くなってしまい、答練で悪い点が付いた」など、いったいどこを悩むべきでどこは簡単に書くべきなのかよくわからなくなってくることがあるかもしれません。

 今回はこれについての一般的な話です。(精神論に近い抽象的な話ですし、かなりニッチな話だと思うので、人によっては参考にならないと思います。)

 簡単に言うと、

・みんなが同じように考えるところは、簡単に書けばよい。
・みんなが悩むところは、悩みを見せつつ厚くしっかり書く必要がある。
・自分は気になるけれど、みんなはそもそもそんな所を気にしない、という部分は、書かなくてよい。

ということになります。

 たとえば「殺害目的を秘して住居に立ち入った」という事例なら、みんな特に悩むことなく満場一致で住居侵入罪を成立させるでしょうから、その論述は簡単に済ませればよいです。そこで省いた時間と紙幅は、他の論点等につぎ込むべきです。
 他方、「強盗の手段たる暴行脅迫がされてから数時間後、かつ何10キロも離れた場所でされた行為から致傷結果が生じた」という事例での強盗致傷罪の成否では、「強盗が人を負傷させた」といえるのかについて、手段説・機会説等のいずれの見解を採用するのかや、事実関係をどう評価するかで結論が変わりえますから、これらについてみんな悩むことになります。そのため、ここはしっかり厚く論じる必要があります。

 なぜこのように「みんな」を強く意識する必要があるのでしょうか。それは、「法学、特に実務法学の目的が、相手(みんな)の説得だから」です。

 この点は、司法試験を目指す方のうち大部分はすんなり理解できるのではないかと思います。ここまで読んで「そんなことは当然だ」と思える方は、今回のお話はスルーしていただければと思います。



2 実務法学は、相手を説得できるかが全て

 実務法学においては、裁判所としては「敗訴当事者や国民が納得できるような(少なくとも反論できないような)判決書を書く」、当事者としては「裁判所を説得して自分の望む判決を得る」などを目指すことになるので、「誰かを説得する」ことが不可欠になってきます。

 例えば自然科学の世界であれば、誰からも理解してもらえない独自の理論であっても実験室で結果を出すことができることもあるかもしれません。

 しかし、実務法学の世界では、人を説得せずに結果を出すことはそもそも不可能です。(説得失敗の典型的場面は、判決文で見かける「・・所論は独自の見解を言うものであって、採用できない。・・・」とかいうアレです。)

 このように、実務法学の世界では、誰かを説得して初めて結果になります。したがって、説得が必要な部分はしっかり書く必要がありますし、逆に、説得するまでもないこと(誰も反論しないようなこと)はあまり書く必要がありません。

 この点については生まれつき理解できている人が多いかと思いますが、あまり意識できていない人もいると思います。

 かく言う私は、勉強し初めたころはこの点があまりよく分かっておらず、無意味な部分にこだわって勉強時間や答案の紙幅を使ったり、逆にみんながしっかり書く論点を簡単に済ませてしまったりするようなことがありました。例えば、暴行罪の「暴行」の定義は「不法な有形力の行使」と解されていますが、「不法とはどんなのを言うのだろう?判断基準は要るんだろうか?」などと無意味に悩んでしまったりするなどです。

 しかし、あるとき気づきました。「みんなが悩まないことなら自分も悩まなくてよい。」

 例えば「常に一義的に正解が決まる」数学的思考や、「実際にモノで結果が出せる」自然科学系の思考になじんでいる人の一部には、「みんながどう考えるか」などという曖昧フワフワなものによって答案に何を書くべきかが変わってくることは奇異に映るかもしれません。言葉は悪いですが、クソゲーに見えるかもしれません。

 しかしそうではありません。目的が異なるから手段が異なるだけです。「人を動かす」ことが目的だから、「相手(皆)が関心を持つ論点について、相手(皆)の理解できるロジックで論じる」ことが手段になるのです。(受験生時代、「周りのみんなが書くような答案を書け」というような趣旨の指導を受けたことがありますが、それはこういう意味も含んでいたのだと思います。)

 数は多くないかもしれませんが、これまでこの点を意識してこなかった人たちも、意識してみてください。



 実務法学の世界では、独自の視点で独自の見解を叫んでも、何も変わりません。相手を説得できないからです。

 相手(みんな)を説得するためには、仮に個人的に多少納得できない部分があったとしても、「みんなと同じこと」を書けばよいのです。実務法学は哲学ではありませんから、「真に正しい法解釈」(そんなものが存在するのかわかりませんが)など気にしなくてかまいません。誰が見ても住居侵入が成立する事例なら、平穏説と新住居権説の論争など真面目に論じる必要はありません。みんなが「暴行」の定義を「不法な有形力の行使」と解して、「不法」の意味をそれ以上具体化せずに済ませているのだから、そこはそれ以上悩まなくてよいのです。

 悩まなくてよいところをいくら悩んで見せても時間と紙幅を取られるだけで加点にはつながりませんし、もしも他の部分と論理矛盾が生じる記述などしてしまえば減点さえされうることになってしまいます。

 悩まなくてよいところは悩まず、みんなが悩むところで悩みを見せてしっかり書くべきです。


(次の記事に続きます。)



2019年11月10日日曜日

第17回 行政裁量統制の処理方法(行政法) その4


(前の記事の続きです。→その1はこちらです。






4 補足・・審査基準、処分基準といった行政内部の裁量基準がある場合の位置付け


(1)このような基準の法的性質

 前の記事でも少し触れたとおり、行政内部においては、裁量権行使の基準として、審査基準、処分基準といったものが定められていることも少なくありません。


 このような場合、これ自体は「裁量処分において、『裁量をどう行使するか』についての行政内部での見解」を定めたものにすぎませんから、法規としての性質はありません

 では、実際に裁量逸脱濫用の検討をする際には、このような審査基準等をどのように位置づけたらよいでしょうか。



(2)裁量逸脱濫用の議論の中での位置づけ

 上記のとおり、こういった裁量基準は法規ではありませんから、裁量逸脱濫用があるかの検討の際にはこれを無視して、普通に事実誤認や考慮不尽等の有無を検討すればよいだけのようにも思えます。

 しかし、裁量基準が公表されている場合には、原則としてそれに従った裁量権行使がされるべきです。そうでないと、国民の予測可能性を無視したり、平等原則違反になってしまうからです。

 そこで、裁量基準の位置づけとしては、「処分が裁量基準に従わずにされた場合、そのことに合理的な理由がない限り、平等原則違反となる」といった形で、裁量逸脱濫用の考慮要素の一つとなる、と考えることができます。



(3)答案での書き方

 答案では、例えば

①「考慮不尽、多事考慮・・・等や、平等原則違反があることにより、その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合、裁量権の逸脱濫用したものとして違法となると解する」など、平等原則違反も意識した規範定立をする
 ↓
②「本件では〇〇という裁量基準が定められているところ、~という理由から、このような基準は、裁量の範囲を超える不合理なものとは言えない。」
 ↓
③「そして、本件においては、・・・であり、裁量基準の機械的適用を避けるべき合理的理由は見当たらない。」
 ↓
④「したがって、本件で裁量基準に従わずに本件処分をしたことは平等原則違反であり、その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものといえるから、裁量逸脱濫用の違法がある。」


といった書き方が考えられるでしょう。





5 まとめ

 以上述べてきたとおり、行政裁量については、

裁量逸脱濫用を論じる前に、そもそも「裁量があるのかどうか」を論じる必要があること
・裁量逸脱濫用審査においては、主に判断過程の審査(考慮すべきことを考慮したか、等の審査)を行い、判断代置は行わない、ということ
・裁量逸脱濫用の考慮要素としては、「考慮不尽、事実評価の誤り、平等原則違反」など、さまざまなものがあるが、判断基準定立の際には、自分が答案のあてはめで書きたい要素も含めておくこと

などに留意して、論理の流れを明確にして答案を書くようにすると良いでしょう。




2019年10月30日水曜日

第17回 行政裁量統制の処理方法(行政法) その3

(前の記事の続きです。→その1はこちらです。

今回は、裁量逸脱濫用の議論の流れのうち、

①問題とする行政処分の根拠条文を特定する

②当該判断について裁量権があることを論証する

③裁量があるとしても、裁量逸脱濫用がある場合には違法(取消事由)となる旨の宣言(行訴30条)

④裁量逸脱濫用の判断基準の定立  ←ココ

⑤本件の検討(あてはめ)  ←ココ

⑥結論  ←ココ


についての話です。)



(4)④判断基準の定立について

ア 基準定立の必要性

 単に行訴30条を指摘して「裁量逸脱濫用がある場合には違法となる」とだけ述べてみたところで、「どんな場合ならば裁量逸脱濫用があったといえるのか?」はわかりません。

 このように条文上の要件が不明確である以上、解釈して内容を具体化する必要があります。(「第1回 法適用の基本構造」等でこれまでに繰り返し触れてきたとおりです。)


イ 定立する基準について

 裁量逸脱濫用を判断する際の考慮要素についてはいくつもあるのですが、司法試験答案で書く、という場合の実用性を考えると、まずは、「事実誤認、考慮不尽、他事考慮、事実評価の誤り、などにより妥当性を欠く判断がされたどうか」に着目する基準を使えるようになっておくべきです。

 具体的には、例えば、「考慮すべき事実を考慮せず、または考慮すべきでない事項を考慮した場合や、事実評価の明白な誤り等により、社会通念上著しく妥当性を欠く判断がされた場合は裁量逸脱濫用があったものと言うべきである」(☆)といった基準です。(より丁寧には、最判平18.11.2民集60-9-3249など参照:リンクは裁判所サイト)

 事例にもよりますが、このような基準は、使用頻度が高く、また、あてはめもしやすいので、まずはこれをしっかり身に付けておくのが良いでしょう。

 なお、裁量逸脱濫用の検討においては、このような考慮要素の他にも、比例原則違反ではないか、平等原則違反ではないか、といった点を拠り所にして判断することもあります。そこで、問題文の事例において「行政上の必要性に比して処分の内容がやりすぎ」「他者と比べて差別的に処分されている」といった場合には、このような観点も加えて規範定立すると良いです。

 いずれにせよ重要なのは、「あてはめで使う視点を判断基準の部分にも入れておく」ということです。



(5)⑤本件の検討(あてはめ)について

 これは、普通に事実関係を指摘して、規範にあてはまるかどうかを検討するだけです。

 本試験においては、問題文中にある事務所の会議録や、相談者(処分の違法を主張する依頼人)の主張内容などから、「どういう部分が裁量逸脱濫用だと言いたいのか」は、示されることが多いと思います。

 したがって、それをベースに、「考慮すべきなのに考慮されていない」「考慮すべきでないことを考慮している」「重視すべき事実なのに軽視されている(事実評価の誤り)」などを具体的に指摘して、規範に当てはまることを述べればよいです。

 なお、その際には、「なぜそれを考慮すべきなのか」「なぜそれを重視すべきなのか」などもできるだけ具体的に指摘すべきです。

 例えば令和元年本試験問題を例にすると、「本件事業認定については、法20条3号により『土地の適正かつ合理的な利用への寄与』が要件となっているところ、土地の適正かつ合理的な利用という観点からは、土地収用による防災への影響も考慮すべきといえる。しかるに、本件事業認定処分の際には、本件事業により、周辺の防災目的の井戸が枯れてしまうのではないか、といった影響については調査されていない。ゆえに、この点に考慮不尽があり社会通念上著しく妥当性を欠く判断がされたといえる。」などといった書き方です。(一応、本問をまだ解いていない方へのネタバレ防止のため、文字の色を反転させておきます。ドラッグしてお読みください。)



 ところで、(4)で定立した☆規範には、「社会通念上著しく妥当性を欠く判断がされた場合」という部分もありますが、この部分は、あてはめにおいては上記例の下線部のとおり、簡単に結論を書くだけでよいと思います。理由は、「考慮不尽等があるにもかかわらず処分した、という時点で社会通念上著しく妥当性を欠く判断だと評価することが可能だから」です。(議論が浅いかもしれませんが、試験で合格答案を書く、という観点からはこの程度の思考整理で十分です。)



(6)⑥結論について

 これについては、「以上から、本件処分には裁量逸脱濫用の違法がある(取消事由がある)。」などと述べればよいです。



 なお、先にも述べたとおり、「法〇条の要件を満たすかどうか」自体を検討しているわけではないので、答案上で、「本件では法〇条の要件を満たさない」といった結論にするのは避けた方がよいです。「本件で法〇条の要件を満たすとした行政庁の判断には裁量逸脱濫用の違法がある。」といった書き方のほうがよいでしょう。

 細かい書き方にまで常にこだわる必要がある、というわけではないのですが、裁量統制の議論においては、「判断代置をするのではなく、判断過程審査をしているのだ」ということは答案上でもしっかり明示しておくべきです。



(次の記事で、補足とまとめに触れます。)





2019年10月21日月曜日

第17回 行政裁量統制の処理方法(行政法) その2


(前の記事の続きです。→その1はこちらです。


2 論述の基本的な流れ(要件裁量を念頭に説明します。)

 裁量統制の論述の大きな流れは以下のとおりとなります。

①問題とする行政処分の根拠条文を特定する

②当該処分について裁量権があることを論証する

③裁量があるとしても、裁量逸脱濫用がある場合には違法(取消事由)となる旨の宣言(行訴30条)

④裁量逸脱濫用の判断基準の定立

⑤本件の検討(あてはめ)

⑥結論



3 手順ごとの詳細

(1)①処分の根拠条文の特定

 処分の適法性を検討するわけですから、まずは処分の根拠となる法律を特定しないと議論が始まりません。したがって、根拠条文の特定が必要です。

 そして、根拠条文は、法律だけではなく、法律が委任した政令等までしっかり拾って示す必要があります。
(なお、「審査基準」「処分基準」などの行政内部の裁量基準がある場合、「そのような基準に基づいて処分の許否を決める」ということ自体が裁量権行使そのものなので、これらについては処分の根拠法規としての指摘は要りません。)



(2)②裁量権の論証

ア 裁量権論証の必要性

 裁量逸脱濫用の問題になるのは、当該処分が裁量処分の場合です(行訴30条)。つまり、裁量権があって初めて裁量逸脱濫用の問題になります。したがって、まずは当該処分につき行政に裁量権がある、ということを論じる必要があります

 そして、行政裁量は法律により与えられるものですから、根拠法律を解釈して行政裁量の有無を論じる必要があります。ここは、当たり前のことではありますが、書き忘れないように注意が必要です。


イ 論証のポイント

 法律による行政の原理という前提がありますから、行政裁量を支える根拠は、「法律がそのように定めた」ということです。

 そして、法律が行政裁量を認めているといえる根拠は、大きくは、

・条文が裁量を許すような抽象的な書き方になっている(形式的根拠)
・処分の際に専門的技術的な判断を要し、行政の裁量を認めざるを得ない(実質的根拠)

の2点です。答案で裁量権の論拠を書く際は、この二つを書けば必要十分です。

 実際に書く場合は、例えば、単に「法〇条は抽象的な文言を用いており・・」とするだけでは、どこがどう抽象的なのかわかりませんから、「法〇条は『土地の高度利用のために必要がある場合には』といった抽象的な文言を用いており・・」など、具体的な文言も指摘する必要があります。

 また、例えば、「本件処分には専門的技術的判断が必要であり・・」とするだけではやはりどこがどう専門的なのかわかりませんから、「本件処分においては、個々の土地利用の相互関係まで考慮して、地域全体の土地利用をいかに図るかについて総合的判断が必要であり、専門的技術的判断を要する」など、具体的な根拠も指摘する必要があります。


(3)③行訴30条の指摘

 ここは行訴法の条文どおりなので、「もっとも、裁量があるとしても、裁量逸脱濫用がある場合には違法(取消事由)となる(行訴30条)。」など、簡単に書けば足ります。ただし、絶対に書き落としてはいけません行訴30条こそが当該裁量処分の違法性を支える直接の法的根拠だからです。(ここを書き洩らしてしまった場合にどれほどの致命傷になるかはわかりませんが、減点になることは間違いないと思います。)


(次の記事に続きます。)

2019年10月9日水曜日

第17回 行政裁量統制の処理方法(行政法) その1




 行政裁量の司法的統制(裁量逸脱濫用の議論)については頻出論点なので、答案の書き方をしっかり確立し、準備しておく必要があります。

 裁量には大きく要件裁量、効果裁量がありますが、今回は、「要件裁量の逸脱濫用」の場面を念頭に解説します。



1 裁量処分の司法審査の対象

 具体的な処理方法の話に入る前に、大前提として、「裁量処分の司法審査の際には、いったい何が審査対象となるのか」を説明しておきます。


(1)要点

 以下で長々と説明していますが、要点を言うと、「裁量処分の司法審査においては主に判断過程を対象に審査を行い、判断代置は行わない」ということです。


2)裁量処分の司法審査の規律

ア 行政事件訴訟法30条の規律

 裁量処分の司法審査について定めている行訴30条では、「裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその逸脱があった場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる」と規定しています。すなわち、裁量処分については、「裁量逸脱濫用があったこと」が処分の違法事由であり、裁判所の司法審査の対象は「裁量逸脱濫用の有無」ということになります。

 ここで注意が必要なのは、「処分の根拠条文の要件該当性自体は裁判所は審査しない」ということです。(より具体的には、行政庁が行政庁なりに根拠法令を解釈して「本件が要件に該当する」、と判断したのなら、その「要件該当性」自体については、裁判所は異論をはさまない、ということです。)


 具体例

 たとえば、「土地の合理的かつ健全な高度利用を図る必要がある場合には、・・処分をすることができる」といった条文に基づいて裁量処分がされた場合を考えます。

 このような場合、他の科目と同じような通常の法適用の思考だと、答案では、「本件で『土地の合理的かつ健全な高度利用を図る必要』(☆)があったのかどうか」を検討したくなってしまうこともあるかと思います。

 しかし、上記の行訴30条の規定から考えると、これは誤りです。同条からすると、審査の対象とすべきは、「☆要件に該当するか」ではなく、「裁量逸脱濫用があったかどうか」ですから、あくまで「☆要件該当性アリとした行政庁の判断に裁量逸脱濫用がなかったか」が問題となることに注意が必要です。

 以上のとおり、「裁量を認める」ということは、結局、「条文の要件を満たすかどうかの判断自体は行政に任せ、裁判所としては審査しない」ということです。この点について、次に述べる判断代置と対比してはっきりと理解しておく必要があります。


3)判断代置について

 もしも仮に、ある裁量処分の適法性について、「裁判所としては、本件では『根拠法令の要件に該当しない』と判断します。そして、要件に該当しないにもかかわらずされた本件行政処分は、違法です。」という内容の判決を下すとしましょう。

 そうすると、結局のところ、「(要件該当性について)裁判所の判断と異なる判断をした行政処分は、全て違法」ということになってしまいます。(このように処分の適法性審査をすることを、「判断代置」などと言います。「裁判所の判断を以て、あるべき行政判断だったとみなす」ということです。)

 しかし、このように言ってしまうと、行政庁は「裁判所がするであろう判断」に拘束されることになり、結局、行政庁の裁量は認められない、ということになってしまいます。

 裁量のない処分(羈束行為)の場合は、他の科目の法適用と同様にこのような判断代置方式の議論でよいのですが、裁量処分の場合には、判断代置をするのではなく、あくまで裁量逸脱濫用を論じるのだ、ということを意識しておく必要があります。


(4)裁量逸脱濫用審査の内実

 以上述べてきたとおり、裁判所は、裁量処分においては「法律上の要件該当性の有無」は審査しないことになりますが、では、「裁量逸脱濫用の有無」の司法審査においては、具体的にどのような事情に着目して審査すればよいのでしょうか。

 ここで出てくるのが、判断過程審査という発想です。すなわち、「事実の考慮不尽や、他事考慮、また、事実評価の誤り等があったか」といった判断過程を審査する、ということです。つまり、「裁判所は、本件が要件に該当していたかどうか自体には口を出さないが、判断過程がおかしかったのではないかについては審査する」ということです。


※なお、ここでは試験対策との観点から特に判断過程審査をクローズアップしていますが、裁量逸脱濫用の審査については、この他にも、平等原則違反、比例原則違反等、行政の判断内容に着目するものもあります。




(5)答案で問題提起、結論を書く際の注意点

 したがって、答案上でも以上の意識を正確に示す必要があります。具体的には、

(a)「本件では法〇条の要件を満たさないのではないか」といった問題提起
(b)「法〇条の言う要件Aは、『・・・』を言うと解する。これを本件についてみると、~という事実からすれば、・・・に当たらない。したがって、本件処分は要件非該当にもかかわらずされたものであり、違法である」といった規範定立及びあてはめ

(c)「以上から、本件では法〇条の要件を満たす/満たさない」といった結論


のような書き方は、いずれも不正確です。(特に(b)の書き方などは、致命傷といってよいでしょう。)


 正確には、

(A)「本件処分の際に法〇条の要件を満たすとした判断に裁量逸脱濫用がないか検討する」という問題提起
(B)「本件では、・・・という事実を考慮すべきであるのにこれを看過しており、裁量逸脱濫用がある」といったあてはめ
(C)「以上から、法〇条の要件を満たすとしてされた本件処分には裁量逸脱濫用の違法がある」という結論


などという書き方になります。

 あまり細かい表現にまで神経質になる必要はありませんが、上(特に(b))のように不正確な書き方をしないように注意する必要があります。



(次の記事に続きます。)


2019年9月27日金曜日

第16回 憲法答案(14条・法令違憲)の基本構造 その3



(前回の記事の続きです。→その1はこちらです。


7 答案のフォーム例

 後段列挙事由に基づく差別がされている場合を例にすると、以下のような答案の流れになります。

 やや思考停止感がありますが、以下の、~、・・、〇の部分を埋めるだけで、一応の答案になります。


①「法〇条は、~という属性に着目して・・に差別的取り扱いを設けており、これは憲法14条1項に反し、違憲ではないか」
   ↓
②「14条1項は法適用の平等のみならず、法内容の平等も保障している。」
   ↓
③「また、同条は、相対的平等を定めたものであり、合理的差別を許容するものと解する。」
   ↓
④「そこで、合理的差別か否かの判断基準が問題となる。
   ↓
 本件法は・・・という属性に着目して取り扱いを異にしているところ、・・・は14条1項後段列挙事由に該当する。そして、後段列挙事由は歴史的に不合理な差別がされてきた事由を特に定めたものであり、これに着目した差別は違憲の疑いが強いことから、その合理性は厳格に審査すべきである。
 また、本件法により、Xは~という不利益を受けるところ、これは、・・・という点で憲法上重要な権利に対する差別的取り扱いであるから、この点からも、その合理性審査は厳格にすべきである。
 以上から、差別の目的が必要不可欠で、かつ、当該差別を設けるのが必要最小限度の手段といえる場合に限り、合理的差別と認める基準を用いるべきと解する。」
   ↓
⑤「これを本件についてみる。
ア 目的審査
 法〇条が差別を設けた目的は~であり、これは、・・・という観点からすれば、必要不可欠である。
イ 手段審査
 手段についてみると、本件法〇条により、・・・となることからすれば、上記の~という目的達成に資することは否定できない。
 しかし、単に~という目的を達成するのであれば、・・・という、より緩やかな手段によっても達成できるのであるから、本件法〇条は、手段として過剰であり、目的達成のための最小限度の手段とは言えない。」
  ↓
⑥「以上から、法〇条は、憲法14条1項に反し、違憲である。」



※後段列挙事由以外による差別の場合

 後段列挙事由以外による差別の場合の④(審査基準定立)の部分は、例えば以下のような書き方になります。この場合でも、簡単に緩やかな基準にしてしまうのではなく、生じる不利益の性質(差別される権利の性質)なども考慮して説得力を持たせるところがポイントです。

(論述例)
「本件差別は、後段列挙事由による差別ではないから、この点から、緩やかな基準が妥当するようにも思える。
 しかし、本件差別は、・・・という憲法上重要な権利に対して差別的制約を設けるものであり、その権利の重要性にかんがみれば、比較的厳しい基準で審査すべきと解する。
 よって、①本件差別を設ける目的が重要で、かつ、②本件差別という手段が、前記目的との間に実質的関連性がある場合に限り、合理的差別として許容されるものと解する」




8 まとめ

 以上述べてきたとおり、平等権の処理の場合は通常の人権処理の手順とは流れが少し変わってくるので注意が必要です。

 特に、基準定立の際や、あてはめの際などに、「権利制約自体が合理的かどうか」ではなく、「差を設けることが合理的かどうか」の問題を議論するのだ、ということを意識することが重要です。









2019年9月20日金曜日

第16回 憲法答案(14条・法令違憲)の基本構造 その2


前回の記事の続きです。→その1はこちらです。

今回は、平等権処理の手順のうち、

①問題とする差別の特定
②14条が法内容の平等も要求しているか(通常は省略可。)
③14条の平等が相対的平等であること(合理的差別を許容すること)の論述
④合理的差別かどうかの判断基準の定立 ←ココ
⑤あてはめ ←ココ

⑥結論 ←ココ


の解説です。)



4 審査基準の定立

(1)基準定立の論拠について

 平等権侵害の審査基準定立の際には、主に、①属性の性質、②差別を受けることとなる権利の重要性、③立法裁量の広狭、等を考慮します。


ア ①について

 ここは、平等権特有の論拠です。具体的には、後段列挙事由に当たる属性に基づく差別的取り扱いの場合には原則として基準を厳しくするべき、という方向での論拠として考慮します。

 このように基準を厳しくすべきであるといえる理由は、端的に言うと、「かつて不合理な差別をされてきた事由だから、多分、今回も不合理な差別なのだろう」ということです。もう少し丁寧に言うと、「後段列挙事由の各属性は、歴史的に不合理な差別がされてきた属性であり、これに着目した差別は、不合理である可能性が高いから、その合憲性はより厳しく審査すべき」ということです。

 この点は平等権特有の論拠となるので、忘れずに書く必要があります。

 実際に書く際には、「後段列挙事由に該当するかどうか」、また、「(列挙事由そのものには該当しないとしても)歴史的に不合理な差別がされてきた事由かどうか」、といった点に着目して基準を厳しくする/緩める論拠として提示していくことになります。


イ ②③について

 上記①に対して、②権利の重要性、③立法裁量については、通常の自由権の審査基準定立の論拠と概ね同様です。

 重要な権利への差別が生じるのなら基準を厳しく、立法裁量が広いのなら基準を緩く、といった形で議論の方向性を導き出すことになります。



(2)定立する基準について

 最低限度の合格答案を書く、という観点からは、基本的に、通常の自由権の場合の目的手段審査の基準とパラレルに考えればよいです。

 具体的には、例えば、①当該差別を設ける目的が必要不可欠であり、かつ②当該差別を設けることが目的達成のために必要最小限度の手段といえる場合に限って合憲とする、といった基準です。


 ここで注意が必要なのは、問題としているのは、「差別(ある属性に着目して取り扱いを異にしていること)」であり、「権利を制約していること」そのものではない、ということです。つまり、「権利制約自体」の目的手段の合理性を問題としているのではなく、「権利(制約)に差を設けていること」の目的手段の合理性を問題としている、ということです。
 この点の理解を誤ると、あてはめの際に「差を設けること」ではなく「権利を制約すること」の目的手段の合理性を検討してしまうことにもなりかねないので、注意しなければなりません。
 例えば、平等権侵害の審査基準で、「本件権利制約の目的が必要不可欠であり、かつ本件権利制約が必要最小限の手段といえる場合には合憲となる」といった書き方は誤りになります。(「差を設けていること」の合理性を検討できる基準となっていないからです。)



5 あてはめについて


(1)目的審査

 上記のとおり、「差別を設ける目的」の合理性を検討することになります。

 例えば前記の改正前民法900条4号但書の問題であれば、「非嫡出子の法定相続分を(絶対量として)減らす」ということではなく、「非嫡出子の法定相続分と嫡出子のそれとに差異を設けることの目的の合理性を論じることになります。

 この例で言えば、「法律婚の尊重」といった目的が考えられるので、このような目的の合理性を論じることになります。


(2)手段審査

 上記のとおり、「そのような差異を設けるという手段」の相当性を検討することになります。

 例えば上記の改正前民法900条4号但書の問題であれば、(1)と繰り返しになりますが、「非嫡出子の法定相続分を(絶対量として)減らす」ということではなく、「非嫡出子の法定相続分と嫡出子のそれとに差異を設けることとしたという手段の相当性を論じることになります。

 この例で言えば、「非嫡出子の法定相続分を相対的に減らしたところで、その不利益は親ではなく子にかかるものであるから、親が法律婚をするようにとの誘因にはなりにくいし、非嫡出子の発生防止に資するものでもない。よって、前記目的達成のための手段としてそもそも役立たない。したがって、手段の相当性は認められない」などといった書き方をしていくことが考えられます。



6 結論

 これは単純に、自身の基準であてはめをした結果を宣言すればよいです。


(次の記事では、答案の定型フォーム例を紹介します。)


2019年9月14日土曜日

第16回 憲法答案(14条・法令違憲)の基本構造 その1




0 議論の大枠について


 典型的な自由権侵害等の法令違憲答案の流れについては以前の記事で説明しましたが、今回は平等権侵害の法令違憲の場合の答案の書き方の説明です。

 平等権問題の処理は通常の自由権等とやや異なる手順となりますが、その大きな流れは以下のとおりになります。(以下、「平等権処理の手順」と呼びます。)

①問題とする差別の特定
②14条が法内容の平等も要求しているか(通常は省略可)
③14条の平等が相対的平等であること(合理的差別を許容すること)の論述
④合理的差別かどうかの判断基準の定立
⑤あてはめ
⑥結論


 各手順について、以下具体的に説明します。




 問題とする差別の特定

(1)概説

 議論の最初には、まずは差別の特定、すなわち、

・何法何条により(法令)
・どのような属性に基づいて(属性)

・どのような差別が設けられているか(差別内容)

を特定することになります。



2)法令の特定

 法令違憲を主張する以上、平等権を侵害している法令が何なのかを特定する必要があります。これは当たり前のことではありますが、忘れないように注意が必要です。



(3)属性、差別内容の特定が必要な理由

 14条違反の主張は、「特定の属性(何らかのカテゴリー(範疇)に属すること)」を理由に「一定の差別的取り扱いがされている」ことの違憲性を言うものです。

 したがって、「どのような属性に着目して」「どのような差別的取り扱いがされているか」を特定することが議論のスタートラインになります。

 例えば「非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする」としていた改正前民法900条4号但書で言うと、「非嫡出子という属性」に着目して「法定相続分を嫡出子の2分の1とするという差別的取り扱いがされている」ということを指摘することになります。



(4)論述例

 上記から、答案上では、「民法900条4号は、非嫡出子であることに理由に法定相続分を嫡出子の2分の1とするという差別的取り扱いを設けている。原告としては、これは憲法14条に反する、と主張することが考えられる。」などと書くことになります。



(5)補足:どのような属性を問題とすべきか

 後の議論の先取りになりますが、問題とする属性によって審査基準の厳しさが異なってきます。(例えば、「門地」といった後段列挙事由に当たる属性に着目した差別であれば、厳しい基準で審査されることになる、と見るのが原則です。)

 したがって、原告の主張を構成する場合は、基準を厳しくできるような属性を問題とするべきです。(基準を厳しくした方が違憲の結論を導きやすくなりますので、原告には有利です。)



2 法内容の平等が求められることについて

 上記のとおり、ここは略してもよい部分です。

 なぜなら、今時、本気で「14条は法適用の平等のみを定めたものである」などと主張する人はあまりおらず、このような(あまり反論が予想されない)議論については、厚く論じるメリットがないからです(読み手を説得する必要がない論点は厚く論じる必要がない、ということです。)

 そこで、書くとしても、「14条は法内容の平等も要求しているものと解する」などと自説の結論を書くだけでよいでしょう。




3 14条の「平等」が「相対的平等」であること(合理的差別を許容すること)

 ここも特に争いの生じるような部分ではありません。
 そこで、「個々人の差を無視して一律の取り扱いをすることはかえって個人の尊重(13条)に反するので、憲法14条は相対的平等を定めたものであり、合理的差別は許容されると解する。」など、普通の論証を書けば足ります



(次の記事に続きます。)


2019年9月6日金曜日

第15回 あてはめの基本構造 その3


(前の記事の続きです。→その1はこちらです。

前の記事での、

(3)②事実評価が必要な場合
ア 「問題文の事実関係をもとにして、一定の経験則に照らして事実を推認する必要がある場合
イ 「そもそも規範自体が評価的・抽象的であるなどの理由から、各事実がどのような意味・価値を持つのかを指摘する必要がある場合

の続き(イの例)からです。)







【例2 事実の持つ意味・価値を指摘する必要がある場合(イの例)】

 たとえば、「警察が、公道からは見えない被疑者宅の中庭を、近傍の高層マンションの屋上から、高精度の望遠レンズで撮影した」という行為が刑事訴訟法197条の「強制の処分」に当たるかが問題となる場合を考えます。

 規範としては、「意思に反して」「重要な権利を制約する」という見解で考えましょう。

 このうち「重要な権利を制約する」という部分のあてはめを考えます。

 仮に問題文でそのまま「警察は、甲の重要な権利を制約して本件撮影を行った」などと書かれていればあてはめも簡単ですが、そのようなことは、まずありません

 また、このような「重要な権利」というのは評価的かつ抽象的な規範ですから、あてはめの際には、問題文の事実を指摘して、それがどういう意味(価値)を持つ事実なのかを自分なりに評価したうえであてはめることが必須となります。

 そこで、ここでも問題文に書かれている事実をもとにし、一定の経験則や法原則等に照らして、当該事実の持つ意味(価値)を指摘していくことになります。


 この例であれば、以下のような書き方が考えられます。

 「本件で警察は、公道からは見えない被疑者宅の中庭を、近傍の高層マンションの屋上から、高精度の望遠レンズで撮影している。ここで、通常、公道から見えない部分についてはプライバシーへの期待が強いことや、その場所を高所から見られることがあったとしても、あくまで肉眼での視認にとどまり、高精度望遠カメラで撮影されることまで予測することは困難であることに照らせば、かかる撮影をされないプライバシーは重要な権利であるというべきである。よって、本件行為は重要な権利を制約するものと言える。」


 上記下線部を述べることで、「単に事実を指摘する」にとどまるのではなく、「その事実がどのような意味を持つのか」まで導き出し、そのうえで規範にあてはまることを指摘する、という流れです。


 なお、このように「事実の持つ意味(価値)」という評価的なものを導き出す場合は、前の記事で触れた例1のようにその思考過程を答案上で省略してしまうことはできません。なぜなら、このような導出過程は「価値判断」を含むものであり、「価値判断」は答案作成者一人一人のものだからです(すなわち、採点者との間で当然のものとしては共有されていない、ということです。採点者との間で共有できていない事項は、省略してはいけません。)。
 したがって、このような場合、「『どのような事実をもとに』『どのような経験則等に照らして』『その事実がどのような価値を持つと判断したうえで』あてはめをしたのか」を、省略せずに、はっきりと明示する必要があります。




3 まとめ

 上に述べてきたとおり、あてはめは、

①問題文の事実指摘 
②事実評価(場合によっては省略可)
③本件が、定立した規範に文字通りに当てはまることの宣言


という流れを取ります。


 実際の問題では、②の検討が要らないような要件も少なくありませんが、逆に、ここをしっかり書く必要がある場合も多いです。

 ②が必要な場合には、「当該事実がどのような意味(価値)を持つのか」といった事実評価を省いてしまったりしないように注意が必要です。(答練の添削コメント等で「あてはめが単なる事実の列挙となってしまっている」などといった指摘をされた経験がある場合は、特にこの点に注意するとよいでしょう。)



 手持ちの答案集などで、

・どのような事実が指摘されているか(①)
・事実評価のやり方(②)
・定立した規範とあてはめの結論部分との文字通りの対応があること(③)


の3点を確認し、特に②でどのような経験則や価値判断等を用いて事実評価を行っているかを見てみると勉強になると思います。








第15回 あてはめの基本構造 その2



(前の記事の続きです。→その1はこちらです。

前の記事では、

2 あてはめの基本構造

(1)概要
①事実指摘
②事実評価

③定立した規範に文字通り当てはまることの宣言


(2)基本的な考え方

(3)②の事実評価が不要な場合

まで説明しました。今回はその続きです。)




4)②の事実評価が必要な場合

 上記とは異なり、問題文に明示されている事実関係だけではあてはめができない場合もあります。

 このようなことが生じる代表的な場面としては、

ア 「問題文の事実関係をもとにして、一定の経験則に照らして事実を推認する必要がある場合

イ 「そもそも規範自体が評価的・抽象的であるなどの理由から、各事実がどのような意味・価値を持つのかを指摘する必要がある場合

などが考えられます。
(便宜上、典型的な2つの場合に分けて指摘していますが、整理の仕方によれば他の場面も出てくるかと思います。要するに、「問題文の事実そのままでは規範に当てはまるかの判別が不可能であり、『その事実から何が言えるか』まで指摘して初めてあてはめが可能になる場合」ということです。)


 抽象的に言うだけではイメージがしづらいと思うので、具体例を示します。



【例1 経験則に照らした事実推認が必要となる場合(アの例)】

 たとえば、住居侵入罪の「侵入」要件が問題となる場合を考えます。

 規範としては、「『侵入』とは、住居権者の意思に反する立ち入りをいう」という見解で考えましょう。

 仮に問題文に、「甲は、Vの意思に反してV宅に立ち入った」という事実が明示されていれば話は簡単です。問題文の事実をそのまま写して「本件で、甲は、住居権者Vの意思に反してV宅に立ち入っているから、『侵入』にあたる」などと書けばよいことになります。上記で言うと、①(事実指摘)と③(規範に当てはまることの宣言)だけであてはめが終わることになります。

 しかし、実際の問題文では、ここまではっきりと「意思に反して」などとは書かれておらず、例えば「甲は、Vを殺害する目的でV宅に立ち入った」(☆)などという事実指摘にとどまっているのが通常です。

 このような場合、単に問題文の事実(☆)を書くだけでは、「住居権者の意思に反したのか」の判断ができません
 そこで、問題文に書かれている事実をもとにし、一定の経験則に照らして推認できる事実を導き出すことが考えられます。

 この例であれば、「甲は、V殺害の意思を持ってV宅に立ち入っている。ここで、通常、人は自身を殺害する目的の立ち入りを受け入れない、という経験則に照らせば、本件甲の立ち入りは、Vの意思に反していたものと言える。したがって、甲の立ち入りは、『侵入』にあたる」などと書くことが考えられます。

 上記下線部を述べることで、問題文からは明らかでない事実(「甲の立ち入りが住居権者Vの意思に反していた、という事実」)を導き出し、そのうえで規範にあてはめる、という流れです。


 なお、上記下線部の経験則は言うまでもないような当たり前のこととも言えますし、紙幅も限られていますから、そのような場合は、答案では、「甲は、V殺害目的を持ってV宅に立ち入っており、これは住居権者Vの意思に反するといえるから、『侵入』にあたる」などとコンパクトに書いてしまうのも構わないでしょう。

 ただ、「当たり前」とまで言い切れない経験則の場合は、略さずにきちんと明示する必要があります
 また、仮に略すとしても、思考過程としては、上記のように、「『どのような事実をもとに』『どのような経験則に照らして』『何を導き出したうえで』あてはめをしたのか」を意識することが重要です。



(次に続きます。)



2019年9月4日水曜日

第15回 あてはめの基本構造 その1




1 今回の趣旨

 あてはめのやり方がよくわからない、という人もいると思います。例えば、答練の添削などで、「あてはめが事実の羅列になっている」「規範とあてはめが対応していない」などという指摘を受けたりしたことがあるかもしれません。

 当ブログでは、これまで「あてはめ」という言葉を特に断りなく使ってきましたが、あてはめのやり方、すなわち、実際に何をどう言えばあてはめをしたことになるのかには踏み込んでいませんでした。

 今回はここについての話です。



2 あてはめの基本構造


(1)概要

 あてはめにおいては、

①問題文に書かれている事実を指摘する

②当該事実を評価する(①の事実から何が言えるのか、①の事実がどのような意味を持つのかを、経験則等に照らして指摘する)

③事実または事実評価により、定立した規範に文字通り当てはまることを宣言する


というのが基本構造になります。
(要件の性質や当該問題での事実関係によっては、②が不要となる場合もあります。)

 以下、詳しく述べます。



(2)基本的な考え方

 これまでに法適用の基本構造の説明などでも触れてきたとおり、「あてはめ」は、「本件の事実関係が、定立した規範に文字通りあてはまるかどうか」を確認する作業です。

 したがって、あてはめ作業においては、

「①本件の事実を指摘」
したうえで、
「③それが定立した規範に文字通りあてはまることを宣言する」

というプロセスが基本になります。

 本当はこれだけであてはめを終えられれば一番良いのですが、問題文で明示されている事実関係だけでは「定立した規範に文字通りに当てはまるかどうか」の判別ができない場合もあります
 このような場合については、さらに「②事実評価」というプロセスも必要になってきます。


 以下、事実評価の要否に分けて説明します。



(3)②の事実評価が不要な場合

 上に述べたとおり、問題となる要件や、問題文での事実関係の適示の仕方によっては、上記の②(事実評価)が不要となることもあります。

 たとえば、民法の詐害行為取消権の要件のうち、「被保全債権が詐害行為以前に成立したものであること」という部分について考えてみましょう。(令和2年施行民法では、被保全債権が詐害行為よりも「前の原因」に基づいて生じたことが要件とされましたが、ここでは現行民法解釈を前提に解説します。)



 この要件検討においては、「詐害行為がいつされたか」と「本件の被保全債権が何年何月何日に成立したか」が特定できれば一義的にあてはめが可能です。そして、詐害行為日、被保全債権の成立日は、いずれも通常、問題文から特定できますから、答案では単純に①問題文の事実を指摘し、③定立した規範に文字通りに当てはまることを宣言すれば足りることになります。

 具体的には、例えば、「本件詐害行為は平成〇年〇月〇日にされているところ、被保全債権である〇〇債権は、平成〇年〇月〇日に成立している。したがって、本件被保全債権は、詐害行為以前に成立していたといえる」などとあてはめればよいことになります。


 なお、上記の下線部に示しているとおり、あてはめの結論(末尾)部分は、必ず「定立した規範を文字通りに繰り返す」形になっていることが必要です。そうでないと、論理的に書いたことになりません(詳細は、「第11回 『論理的思考』『論理的に書く』とは」の「キーワードのリンク」参照)。この点は、事実評価が必要となる場合でも同様です。



(次の記事に続きます)





2019年9月3日火曜日

第14回 刑事訴訟法答案の基本構造 その4

(前の記事の続きです。→その1はこちらです。



(3)伝聞法則・伝聞例外の答案上での実際の書き方

 伝聞法則の基本構造・伝聞例外の思考整理の仕方は前記のとおりですが、これだけでは実際の書き方のイメージがわきにくいかもしれません。

 答案での書き方は、これと決まった形があるわけではありませんが、大きく分けて、

伝聞証拠の定義及びそれが原則として証拠排除されることの指摘
どの供述部分を問題とするのかの特定
・当該部分が伝聞か非伝聞かの検討
・伝聞に当たるならば、伝聞例外の条文特定及び要件検討

(・再伝聞がある場合は、324条適用ないし準用の可否の指摘)

という4つ(または5つ)の情報が含まれている必要があります。

 前記の例で言えば、以下のような書き方が考えられます。各要件の論証部分など、省略している部分もありますが、特に太字で示した部分(議論の起こし方、議論のつなぎ方など)に着目すると参考になると思います


______事例(確認のため再掲)_________

法廷に提出された証拠:
「『AがVに日本刀で切りつける場面を撮影した防犯カメラ映像を見た』とBが言っているのを聞きました」という内容のCの供述書

立証趣旨:
「AがVに日本刀で切りつけたこと」

______論述例_________________



(1)Cの供述書全体について、伝聞証拠として証拠能力が否定されるのではないか。320条1項に当たるか問題となる。


 供述は知覚・記憶・叙述の過程を経て作成されるところ、その各過程には誤りの恐れがある。そのため、その供述を要証事実認定のための証拠とするためには、かかる誤りの有無を反対尋問によってテストする必要がある。
 そこで、320条1項によって原則として証拠能力を否定されることとなる伝聞証拠とは、反対尋問を経ない供述で、要証事実の立証には供述内容が真実であることが必要となるものを言うと解する。 


 本件では、・・・であることからすれば、Cの供述書の内容は、要証事実の立証にはその供述内容が真実であることが必要であるといえるから、伝聞証拠に当たり、原則として証拠能力は認められない




(2)では、伝聞例外が認められないか。321条1項3号を検討する。
→各要件の検討

(3)以上から、Cの供述書全体は、伝聞例外に当たり、証拠能力が認められる。



(1)もっとも、Cの供述にはBの「・・・」という供述が含まれているところ、この部分がさらに伝聞証拠に当たるのではないか。
 この点、・・・であることからすれば、Bの「・・・」という供述内容は、要証事実の立証にはその供述内容が真実であることが必要であるといえるから、伝聞証拠に当たる。

(2)かかる再伝聞の場合も各伝聞過程について伝聞例外が認められる場合には、伝聞例外が認められる(324条)
 そして、324条は公判「供述」について規定するものであるが、本件ではCの供述書は上記のとおり伝聞例外に当たり、伝聞法則との関係ではCが法廷で供述したのと同等に扱われることから、かかる供述代用書面の場合にも、324条2項が準用されるものと解する

(3)では、このBの「・・・」という供述部分に伝聞例外が認められるか。321条1項3号を検討する。
 →各要件の検討

(4)以上から、Bの供述部分は、伝聞例外に当たり、証拠能力が認められる


3 なお、Bの供述内容には、防犯カメラによる撮影・再生過程が含まれているが、これは機械的に行われるものであるから、供述ではない。したがって、この部分は再伝聞には当たらない。


4 以上から、Cの供述中のBの供述部分について、証拠能力が認められる。


以上
____ここまで論述例_______________








4 まとめ

 以上のとおり、刑事訴訟法においても「法適用の基本構造」どおりに検討するのが基本ですが、伝聞法則等、独特の思考整理を要するものもありますので、条文をスタートラインにおきつつ、思考を整理しておくとよいと思います。




第14回 刑事訴訟法答案の基本構造 その3


(前のページの続きです。→その1はこちらです。


(2)B 伝聞例外に当たるかの検討


ア 伝聞例外の基本構造

 これは、基本的には各伝聞例外の条文上の要件を一つずつ検討すればよいです。要件を列挙して各要件を検討する、という、法適用の基本構造」どおりの処理です。

 例えば321条1項3号であれば、「供述不能」「必要不可欠」「絶対的特信情況」(さらに場合によっては「署名押印」)の要件について、必要に応じて規範定立してあてはめる、という流れになります。




イ 再伝聞、再々伝聞・・の場合の思考整理について


(ア)概説

 再伝聞が含まれる場合の伝聞例外については混乱しやすい部分があるので、思考整理方法について触れておきます。すでに自分なりの整理方法が確立されているのであれば別ですが、そうでない場合は、参考になるかと思います。
(なお、ここでは、各伝聞過程の伝聞性が、伝聞例外によって払拭されるのであれば、324条の適用または準用により再伝聞等も認められる、という見解を前提に議論します。)


 大まかに言うと、

・伝聞過程の有無を検討し、各伝聞過程ごとに伝聞例外で橋渡ししていく
・伝聞例外で橋渡ししていくのは、「法廷に一番近い供述から」順番に行う

という思考整理です。



(イ)伝聞過程の特定

 伝聞法則の趣旨は、「その供述成立に至る知覚記憶叙述の中に過誤が生じる恐れがあり、その有無を反対尋問でチェックする必要があるから、それができない伝聞証拠の証拠能力を原則として否定する」というものです。

 したがって、伝聞過程を特定する際には、「その供述成立に至る知覚記憶叙述の中に過誤が生じる恐れがあり、その有無を本来は反対尋問でチェックする必要があるような過程」かどうかに着目することになります。
(ちなみにこれは、条文で言うと320条1項の『供述』文言の要件該当性の問題です。通常ここまで文言にこだわって答案上に示す必要はありませんが、意識はしておくと良いです。)


 では、再伝聞、再々伝聞等が存在する場合に、実際にどのようにして伝聞過程を特定したらよいでしょうか。上記の着眼点からすると、「一番最初の原体験から法廷供述(または供述書面)に至るまでの間に介入している、知覚記憶叙述の過程を探す」という方法をとることになります。


 例として、「『AがVに日本刀で切りつける場面を撮影した防犯カメラ映像を見た』とBが言っているのを聞きました」という内容のCの供述書がある場合を考えてみましょう。

 この供述の内容となる一番最初の原体験は「AがVに日本刀で切りつけた」というものですが、ここから法廷に提出されたCの供述書までには

(ⅰ)防犯カメラが現場を知覚・記録・再生
(ⅱ)Bが防犯カメラ映像を閲覧し、それを知覚・記憶・叙述して発言
(ⅲ)CがBの発言を聞き、それを知覚・記憶・叙述して書面化


という各過程を経ます。

 このように分解したうえで、伝聞過程がどこにあるかを調べましょう。

 (ⅰ)については、知覚・記録・再生は機械的に行われるものであり、類型的に過誤の恐れはない、といえますから、ここは伝聞過程には当たりません。


 (ⅱ)(ⅲ)については、B、Cがそれぞれ人力で知覚記憶叙述するわけですから、ここに過誤の入る恐れがあり、反対尋問によってこれをチェックする必要があります。
 より具体的には、(ⅲ)であれば、「本当にCはそのようなBの発言を聞いたのか?」という点で知覚記憶叙述の過誤が入りえますし、(ⅱ)であれば、「本当にBはそのような防犯カメラ映像を見たのか?」という点で知覚記憶叙述の過誤が入りえます。したがって、この二つは伝聞過程にあたります。
 そこで、この二か所を伝聞例外によって橋渡しする必要があることになります。



(ウ)伝聞例外の議論の進め方

 こういう場合には、法廷に一番近い伝聞過程から順番に伝聞例外を検討するとよいです。

 上記の例では、まず、「Cの法廷供述の代わりのCの供述書」というところが伝聞過程となります(Cは法廷には出てこないから、「本当にCはそのようなBの発言を聞いたのか?」を反対尋問でチェックできない、ということです)。したがって、321条1項3号の伝聞例外が認められないかを検討することになります。

 そして、仮にこの部分が伝聞例外によって橋渡しできたとすると、Cが法廷で「『AがVに日本刀で切りつける場面を撮影した防犯カメラ映像を見た』とBが言っているのを聞きました」と供述したのと同等になります

 すると、次に「Bの法廷供述の代わりのCの法廷供述」というところの伝聞過程が残ります(Bは法廷には出てこないから、「本当にBはそのような防犯カメラ映像を見たのか?」を反対尋問でチェックできない、ということです)。したがって、これについて、324条準用(※)、321条1項3号によって伝聞例外を検討することになります。
(※なお、直接適用とはならない理由については、次のページの答案例で示します。)

 この二つが橋渡しできると、このCの供述書及びその中のBの供述部分に証拠能力が認められることになります。

 この例で触れたように、伝聞例外が認められた場合には、(伝聞法則との関係では、)「その内容の法廷供述がされたのと同等になる」と考えると思考が整理しやすいと思います。



(エ)補足

 ところで、今回の例では「Cの供述書」を使いましたが、これが「Cの供述録取書」だとしたらどうなるでしょうか。

 供述を録取する過程を考えると、

・Cが話した内容を警察官等が聞いて、書面に書く


という過程を経ることになります。

 すると、「警察官がCの話を知覚・記憶・叙述して書面に書く」という過程が加わってきます。そこで、この部分の伝聞性(本当に警察官はCが話したとおりに書面に書いたのか?)が問題になりますが、この点は、321条1項柱書の「署名押印」によって正確性が担保されている、と考えればよいです。


(オ)小括

 以上述べてきたとおり、伝聞例外の検討の際には、どこに伝聞過程があるのかを特定し、各過程を伝聞例外によって橋渡しする、という意識で思考を整理することが有益です。


(次のページで答案での具体的な書き方に触れます。)


2019年8月31日土曜日

第14回 刑事訴訟法答案の基本構造 その2


(前の記事の続きです。→その1はこちらです。


3 伝聞法則(320条1項)答案の基本構造

 伝聞法則の検討の流れは、


A 伝聞証拠に当たるかどうかの検討
 ↓
B 伝聞証拠に当たるとして、伝聞例外に当たるかどうかの検討
 ↓
結論



となります。


 条文で言うと、Aは、320条1項の要件検討です。Bは、各伝聞例外条文の要件検討、となります。


 以下で、A、Bのそれぞれの構造について触れたうえで、最後に実際の答案での書き方の例を説明します。




1)A 伝聞証拠に当たるかの検討



ア 伝聞法則の基本構造

 通常の「法適用の基本構造」通り、320条1項の要件を検討することになります


 具体的には、

①法的根拠である320条1項の指摘
 ↓
②要件「公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすること」の指摘
 ↓
③解釈して規範定立「反対尋問を経ない供述で、要証事実との関係でその供述内容の真実性が問題となるものを言うと解する。」(☆)
 ↓
④本件あてはめ
 ↓
⑤結論


というのが基本的な流れになります。

(※さらに言うと、③のところで「なお、『供述』とは、『その供述成立に至る『知覚記憶叙述』の中に過誤が生じる恐れがあり、その有無を本来は反対尋問でチェックする必要があるようなものに限られる』」という限定が付きますが、常にここまで規範定立する必要はありません。写真・映像等の機械的に作成される証拠の場合等に答案上に示せば足ります。)


 思考整理が曖昧だと、つい条文も指摘せずに唐突に「伝聞証拠とは・・・」などと議論を始めてしまったり、☆の定義を伝聞例外の検討の中で触れてしまったりして答案が混乱することがあります。ここは、「320条1項の要件を満たし、原則として証拠排除されるかどうか」の検討であることを意識して整理しておく必要があります。



 ただし、320条1項が「書面」と「伝聞供述」で分けて規定している関係上、条文上の文言にこだわって答案に書くと紙幅を無駄に取られてしまいます。そこで、実際には上記②③の代わりに、「320条1項で原則として証拠能力を否定される伝聞証拠とは、☆を言うと解する。」など、少し大雑把な書き方をするのがお勧めです。(この書き方でも理解は十分に伝わります。)





 以下、「④本件あてはめ」の検討の流れを説明します。


イ 要証事実の特定

 「要証事実との関係で」考える以上、まずは要証事実の特定があてはめのスタートラインになります。

 これは基本的には検察官の言う立証趣旨のとおりでよいですが、そのように解すると当該証拠の存在価値がない場合などは、要証事実を合理的に解釈する必要があります。(例えば平成21年本試験問題、最決平成17年9月27日刑集第59巻7号753頁など参照)


ウ 供述内容の真実性が問題となるかどうか

 たとえば同一人の自己矛盾供述を弾劾証拠として用いる場合には、当該伝聞証拠の内容の真実性自体は問題になりません(自己矛盾供述の存在自体が当人の供述の信用性を弾劾します)。

 したがって、「当該伝聞証拠の内容自体が真実であって初めて立証に役立つ(例えば、検察にとって有利な認定ができる)」場合に限ってこれに当たることに注意が必要です。


エ 反対尋問を経ないこと

 伝聞供述や供述書面であればこの要件を満たしますので、簡単に指摘すれば足ります。



(次の記事に続きます。)


第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その3

(前のページの続きです。→その1は こちら です。) 4   再現答案、参考答案の読み方②・・ 論証、あてはめ等の実際の書き方/文例 の 仕入れ  答案の法理論的な骨組みが分かったとしても、実際の試験では、見出しだけ並べるのではなく、文章の形で答案を書かな...