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2019年5月22日水曜日

第1回 法適用の基本構造


0 概要

 具体的な事例に法律を適用する際には、基本的な議論の構造(書き方)があります。ここは司法試験論文答案を作成するための大前提と言えるところなので、必ず理解しておく必要があります。
 そもそも答案をほとんど書いてみたことがない人や、答練等で「請求の法的根拠の指摘がない」「どの要件の議論をしているのかが不明である」「規範定立がないままにあてはめをしている」などといった指摘を受けたことがある人には、特に参考になるかと思います。


1 司法試験で問われること

 本試験においては、旧試験時代のような一行問題の出題はなくなり、ほぼ事例問題ばかりが出題されるようになったことからもわかるとおり、現在の司法試験論文では、法律を具体的な事例に適用する能力が問われています。
 これは、「実務においては日々具体的事例に法律を適用することが求められること」、及び、「司法試験が実務家登用試験であること」からも自然なことです。



2 「法律を適用する」ということ/「法的三段論法」について

(1)法律を適用する、ということ

 通常、法律には、「要件」と「効果」が規定されています。ですから、法律を適用する、ということは、「本件が法律の要件を満たすかを検討する(そして、適用されるのならばその法律効果を宣言する)」ということになります。したがって、基本的な議論の構造としては、

①根拠条文を指摘する
②条文の文言上の要件を列挙する
③文言を解釈して、どのような場合なら当該要件を満たすかの判断基準を定立する
④本件で各要件が満たされるかを判断する
⑤法律が適用されるのならその法律効果を、適用されないのならその旨を宣言する

という形になります。どの科目でも基本的にこれが議論の基本構造となります(ただし、憲法をはじめとして、科目や出題によってはやや異なる構造での議論となることがあります。この点は後の記事で触れます)。
 次に述べるとおり、この基本構造の中に、「法的三段論法」が組み込まれています


(2)法的三段論法について

 法的三段論法は、大前提(法規)に小前提(事実)をあてはめて結論を出す、というものです。より具体的には、「法律の要件はこうなっている」(大前提)→「事実はこうなっており、法律の要件を満たす」→「よって当該法律が適用され、その効果を生じる」(結論)という流れをとります。
 これは、上記の流れで言うと、根拠法規に関する①②③が「大前提」、本件事実に関する④が「小前提」、⑤が「結論」、にあたります。
 単に「三段論法」というと3段階の思考で終わるような気もしますが、実際に答案の書き方を考える際には上記5段階の思考で考える方が整理しやすいと思います。



3 なぜ要件解釈(上記③)が必要になるのか

 条文の要件が文言上一義的に明確であれば、要件解釈は必要ありません。極端な例でいうと、仮に「満20歳の誕生日を経過した者は、国に100万円請求できる」という規定があったとすれば、その要件は「満20歳の誕生日を経過したこと」だけですから、具体的事例でこれが満たされるかどうかは一義的に明確です。したがって、何ら解釈は必要ないことになります。

 しかし、通常、条文の要件は、文言上その内容が一義的に明確ではありません。そこで、「本件で本当に当該要件が満たされるのか」を判断する前提として、文言を解釈して、要件を具体化することが必要になってきます。(この際にしばしば、判例、通説、少数説などの各種の考え方が出てきます。「論点」と呼ばれるものの多くは、この要件解釈論に当たります。)

 例えば、民法192条の即時取得による所有権主張を考えてみます。同条による即時取得が認められるには、「取引行為」「平穏」「公然」「動産」「占有の開始」「善意無過失」の要件をすべて満たす必要があります。
 例として、この中の「占有の開始」要件について考えると、その内容は、条文の文言からは明らかではありません。
 具体的には、

・「占有」とはどのような範囲の占有を言うのか?占有改定も含むのか?それとも現実の引渡しが必要なのか?

といった問題が生じます。

 そこで、「192条の『占有』とは、占有改定では足りず、現実の引渡しを受けることを要すると解する」などとその内容を具体化して初めて、本件でこれを満たすかの判断ができることになります。このように、要件を具体化する作業は、「規範定立」などと呼ばれたりします。



4 まとめと具体的な書き方

 以上述べてきたとおり、論文答案を書く際には、上記①~⑤の基本構造を意識して書いていく必要があります。具体的な書き方としては、例えば

①甲は乙に対し、〇法〇条により、~を請求することが考えられる。
②同条の要件は、「A」である。
③ここで、「A」とは「・・・」をいうものと解する。
④本件でこれが満たされるかを見ると、~という事実から、「・・・」に当てはまるといえる。
⑤よって、〇法〇条の要件が満たされるから、甲の請求は認められる。

といった流れになります。

 ①根拠条文→②要件指摘→③要件の具体化→④あてはめ→⑤結論、という大きな流れがポイントです。
 これが法適用の基本構造であり、議論のひとまとまりになります。





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