第6回 憲法で、原告の主張、反論、私見に何を書くべきか
本試験の公法系第1問では、「原告の憲法上の主張を述べよ」「国の反論を想定しつつ・・あなた自身の見解を述べよ」といった指定があり(※ただし、平成30年度の出題などはやや異なる形式のようです)、どこで何をどれだけ書くかを迷うことがあるかもしれません。
以下に、お勧めの整理の仕方と、その理由を説明します。
1 お勧めの整理の仕方
(1)原告の主張
第5回で述べた人権処理の手順をすべて書く。
(2)被告の反論
原告の主張の②~⑥のうち、特に反論がある部分について、その反論の要旨だけ書く。この際、「憲法解釈論上のどの段階の話をしているのか」(権利性、権利制約、審査基準、あてはめ等のどの話をしているのか)を明示する。
例えば、原告の主張する厳格審査基準に反論する場合に、「被告としては、規制態様が弱いことや、立法裁量を重視すれば、緩やかな基準、具体的には合理性の基準を採用するべきと反論することが考えられる」などです。
(3)私見
原告の主張、被告の反論を考慮したうえで、前回述べた人権処理の手順をすべて書く。
このとき、原告被告で特に争いのある部分については、自身がその見解を採用する理由も含めてしっかり書く必要があります。他方、争いのない部分は、「権利性については争いはない」などと簡単に書けば足ります。
2 なぜ上記の整理を勧めるのか(法令違憲事例を想定して説明します)
(1)原告の主張について
まず、大前提として、(語弊を恐れずに言うと、)「国会が制定する法律は、おそらく合憲」です。それは、国民から選挙で選ばれた議員が、合憲性も含めて議論を重ねたうえで制定するのが法律だからです。
したがって、原告としては、「おそらく合憲」なはずの法律の違憲性を主張することになりますから、「なぜそれが違憲なのか」を憲法解釈論の思考過程に沿って積極的に主張する必要があります。
そのためには、権利性、権利制約、審査基準、あてはめ等、人権処理の手順をすべて主張すべきです。実際問題、裁判で「法〇条は違憲だと思います」とだけ原告が主張したとしても、争点も何も決まりませんから、裁判所としては判断の下しようもありません。
以上から、原告は、自己の憲法上の主張を理由あらしめるすべての主張(要するに、第5回で紹介した人権処理の手順①~⑦すべて)をすべきと考えます。
(2)被告の反論について
本試験の設問文には、「反論を想定しつつ・・・あなた自身の見解を述べなさい」といった形式での出題が多く、あくまで「あなた自身の見解」が主眼であり、反論は、「想定」するにとどめることが求められていると考えられます。
したがって、紙幅の関係もありますから、反論については、その要点の指摘にとどめるのが適切と考えます。
ただ、憲法上の主張に対する反論をするわけですから、それが憲法解釈論上のどの段階の主張に対する反論なのかが明確でないと議論がかみ合いません。したがって、権利性、権利制約、審査基準、あてはめ等のどの段階の話をしているのかを明示する必要があります。
(3)私見について
これは、原告被告両者の主張を考慮したうえでの判断が求められており、いわば「判決を下す裁判所の立場」からの判断を求められていると考えられます。
このとき、「憲法を事例に適用して、合憲/違憲についての判断(結論)を下す」ということになりますから、その結論に至る憲法解釈論上の思考過程(すなわち人権処理の手順)も全て示す必要があります。
ただ、裁判は主として争いのある部分についての判断を下す場所ですから、争いのない部分については、簡単に触れておけば十分です。
逆に、争いのある部分については、原告の主張、被告の主張、第三の見解のいずれを採用するのかについて、しっかりと理由を付して論じる必要があります(でなければ敗訴した側は納得できないからです)。
以上から、私見では、人権処理手順をすべて書く、争いのない点は簡単に書く、争いのある部分は厚く書く、というのが適切と考えます。
以上、第5、6回で、憲法論文答案の基本的な書き方の紹介は終わりです。これに沿って書けば、14条以外の人権の法令違憲問題については、答案の形にできるはずです。
比較的利用頻度が低い14条や適用違憲等の書き方や、実質的に(内容的に)どのようなことを論じるべきか、といった内容面に関することなどは、また別の機会に触れられればと思います。
「条文、論点知識を覚えても、それを答案のどこにどう書けばよいのかわからない」「問題集、答練の解説が今一つピンとこない」という人向けに、答案の書き方を紹介するブログです。「何を書くのか」「なぜ書くのか」「どう書くのか(具体例)」を解説します。
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2019年6月3日月曜日
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