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2019年9月3日火曜日

第14回 刑事訴訟法答案の基本構造 その3


(前のページの続きです。→その1はこちらです。


(2)B 伝聞例外に当たるかの検討


ア 伝聞例外の基本構造

 これは、基本的には各伝聞例外の条文上の要件を一つずつ検討すればよいです。要件を列挙して各要件を検討する、という、法適用の基本構造」どおりの処理です。

 例えば321条1項3号であれば、「供述不能」「必要不可欠」「絶対的特信情況」(さらに場合によっては「署名押印」)の要件について、必要に応じて規範定立してあてはめる、という流れになります。




イ 再伝聞、再々伝聞・・の場合の思考整理について


(ア)概説

 再伝聞が含まれる場合の伝聞例外については混乱しやすい部分があるので、思考整理方法について触れておきます。すでに自分なりの整理方法が確立されているのであれば別ですが、そうでない場合は、参考になるかと思います。
(なお、ここでは、各伝聞過程の伝聞性が、伝聞例外によって払拭されるのであれば、324条の適用または準用により再伝聞等も認められる、という見解を前提に議論します。)


 大まかに言うと、

・伝聞過程の有無を検討し、各伝聞過程ごとに伝聞例外で橋渡ししていく
・伝聞例外で橋渡ししていくのは、「法廷に一番近い供述から」順番に行う

という思考整理です。



(イ)伝聞過程の特定

 伝聞法則の趣旨は、「その供述成立に至る知覚記憶叙述の中に過誤が生じる恐れがあり、その有無を反対尋問でチェックする必要があるから、それができない伝聞証拠の証拠能力を原則として否定する」というものです。

 したがって、伝聞過程を特定する際には、「その供述成立に至る知覚記憶叙述の中に過誤が生じる恐れがあり、その有無を本来は反対尋問でチェックする必要があるような過程」かどうかに着目することになります。
(ちなみにこれは、条文で言うと320条1項の『供述』文言の要件該当性の問題です。通常ここまで文言にこだわって答案上に示す必要はありませんが、意識はしておくと良いです。)


 では、再伝聞、再々伝聞等が存在する場合に、実際にどのようにして伝聞過程を特定したらよいでしょうか。上記の着眼点からすると、「一番最初の原体験から法廷供述(または供述書面)に至るまでの間に介入している、知覚記憶叙述の過程を探す」という方法をとることになります。


 例として、「『AがVに日本刀で切りつける場面を撮影した防犯カメラ映像を見た』とBが言っているのを聞きました」という内容のCの供述書がある場合を考えてみましょう。

 この供述の内容となる一番最初の原体験は「AがVに日本刀で切りつけた」というものですが、ここから法廷に提出されたCの供述書までには

(ⅰ)防犯カメラが現場を知覚・記録・再生
(ⅱ)Bが防犯カメラ映像を閲覧し、それを知覚・記憶・叙述して発言
(ⅲ)CがBの発言を聞き、それを知覚・記憶・叙述して書面化


という各過程を経ます。

 このように分解したうえで、伝聞過程がどこにあるかを調べましょう。

 (ⅰ)については、知覚・記録・再生は機械的に行われるものであり、類型的に過誤の恐れはない、といえますから、ここは伝聞過程には当たりません。


 (ⅱ)(ⅲ)については、B、Cがそれぞれ人力で知覚記憶叙述するわけですから、ここに過誤の入る恐れがあり、反対尋問によってこれをチェックする必要があります。
 より具体的には、(ⅲ)であれば、「本当にCはそのようなBの発言を聞いたのか?」という点で知覚記憶叙述の過誤が入りえますし、(ⅱ)であれば、「本当にBはそのような防犯カメラ映像を見たのか?」という点で知覚記憶叙述の過誤が入りえます。したがって、この二つは伝聞過程にあたります。
 そこで、この二か所を伝聞例外によって橋渡しする必要があることになります。



(ウ)伝聞例外の議論の進め方

 こういう場合には、法廷に一番近い伝聞過程から順番に伝聞例外を検討するとよいです。

 上記の例では、まず、「Cの法廷供述の代わりのCの供述書」というところが伝聞過程となります(Cは法廷には出てこないから、「本当にCはそのようなBの発言を聞いたのか?」を反対尋問でチェックできない、ということです)。したがって、321条1項3号の伝聞例外が認められないかを検討することになります。

 そして、仮にこの部分が伝聞例外によって橋渡しできたとすると、Cが法廷で「『AがVに日本刀で切りつける場面を撮影した防犯カメラ映像を見た』とBが言っているのを聞きました」と供述したのと同等になります

 すると、次に「Bの法廷供述の代わりのCの法廷供述」というところの伝聞過程が残ります(Bは法廷には出てこないから、「本当にBはそのような防犯カメラ映像を見たのか?」を反対尋問でチェックできない、ということです)。したがって、これについて、324条準用(※)、321条1項3号によって伝聞例外を検討することになります。
(※なお、直接適用とはならない理由については、次のページの答案例で示します。)

 この二つが橋渡しできると、このCの供述書及びその中のBの供述部分に証拠能力が認められることになります。

 この例で触れたように、伝聞例外が認められた場合には、(伝聞法則との関係では、)「その内容の法廷供述がされたのと同等になる」と考えると思考が整理しやすいと思います。



(エ)補足

 ところで、今回の例では「Cの供述書」を使いましたが、これが「Cの供述録取書」だとしたらどうなるでしょうか。

 供述を録取する過程を考えると、

・Cが話した内容を警察官等が聞いて、書面に書く


という過程を経ることになります。

 すると、「警察官がCの話を知覚・記憶・叙述して書面に書く」という過程が加わってきます。そこで、この部分の伝聞性(本当に警察官はCが話したとおりに書面に書いたのか?)が問題になりますが、この点は、321条1項柱書の「署名押印」によって正確性が担保されている、と考えればよいです。


(オ)小括

 以上述べてきたとおり、伝聞例外の検討の際には、どこに伝聞過程があるのかを特定し、各過程を伝聞例外によって橋渡しする、という意識で思考を整理することが有益です。


(次のページで答案での具体的な書き方に触れます。)


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