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2019年9月6日金曜日

第15回 あてはめの基本構造 その2



(前の記事の続きです。→その1はこちらです。

前の記事では、

2 あてはめの基本構造

(1)概要
①事実指摘
②事実評価

③定立した規範に文字通り当てはまることの宣言


(2)基本的な考え方

(3)②の事実評価が不要な場合

まで説明しました。今回はその続きです。)




4)②の事実評価が必要な場合

 上記とは異なり、問題文に明示されている事実関係だけではあてはめができない場合もあります。

 このようなことが生じる代表的な場面としては、

ア 「問題文の事実関係をもとにして、一定の経験則に照らして事実を推認する必要がある場合

イ 「そもそも規範自体が評価的・抽象的であるなどの理由から、各事実がどのような意味・価値を持つのかを指摘する必要がある場合

などが考えられます。
(便宜上、典型的な2つの場合に分けて指摘していますが、整理の仕方によれば他の場面も出てくるかと思います。要するに、「問題文の事実そのままでは規範に当てはまるかの判別が不可能であり、『その事実から何が言えるか』まで指摘して初めてあてはめが可能になる場合」ということです。)


 抽象的に言うだけではイメージがしづらいと思うので、具体例を示します。



【例1 経験則に照らした事実推認が必要となる場合(アの例)】

 たとえば、住居侵入罪の「侵入」要件が問題となる場合を考えます。

 規範としては、「『侵入』とは、住居権者の意思に反する立ち入りをいう」という見解で考えましょう。

 仮に問題文に、「甲は、Vの意思に反してV宅に立ち入った」という事実が明示されていれば話は簡単です。問題文の事実をそのまま写して「本件で、甲は、住居権者Vの意思に反してV宅に立ち入っているから、『侵入』にあたる」などと書けばよいことになります。上記で言うと、①(事実指摘)と③(規範に当てはまることの宣言)だけであてはめが終わることになります。

 しかし、実際の問題文では、ここまではっきりと「意思に反して」などとは書かれておらず、例えば「甲は、Vを殺害する目的でV宅に立ち入った」(☆)などという事実指摘にとどまっているのが通常です。

 このような場合、単に問題文の事実(☆)を書くだけでは、「住居権者の意思に反したのか」の判断ができません
 そこで、問題文に書かれている事実をもとにし、一定の経験則に照らして推認できる事実を導き出すことが考えられます。

 この例であれば、「甲は、V殺害の意思を持ってV宅に立ち入っている。ここで、通常、人は自身を殺害する目的の立ち入りを受け入れない、という経験則に照らせば、本件甲の立ち入りは、Vの意思に反していたものと言える。したがって、甲の立ち入りは、『侵入』にあたる」などと書くことが考えられます。

 上記下線部を述べることで、問題文からは明らかでない事実(「甲の立ち入りが住居権者Vの意思に反していた、という事実」)を導き出し、そのうえで規範にあてはめる、という流れです。


 なお、上記下線部の経験則は言うまでもないような当たり前のこととも言えますし、紙幅も限られていますから、そのような場合は、答案では、「甲は、V殺害目的を持ってV宅に立ち入っており、これは住居権者Vの意思に反するといえるから、『侵入』にあたる」などとコンパクトに書いてしまうのも構わないでしょう。

 ただ、「当たり前」とまで言い切れない経験則の場合は、略さずにきちんと明示する必要があります
 また、仮に略すとしても、思考過程としては、上記のように、「『どのような事実をもとに』『どのような経験則に照らして』『何を導き出したうえで』あてはめをしたのか」を意識することが重要です。



(次に続きます。)



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