1 総論と具体例
民事訴訟法においても、法適用の基本構造のとおりに論じるのが基本です。
例えば「甲の主張は、『時機に遅れた攻撃防御方法・・・』(民訴157条)に当たるとして却下されないか」を論じる場合には、
①法的根拠である157条の指摘
②「故意または重大な過失」「時機に遅れて提出」「訴訟の完結を遅延させる」要件の指摘
③「『時機に遅れて』とは・・・をいうと解する」などと規範定立
④本件あてはめ
⑤結論
となります。
しかし、次に述べるように、民事訴訟法では条文から議論をスタートできない場面も数多く出てきます。したがって、この構造を前提にしつつも、注意すべき点があります。
2 民事訴訟法の特質
(1)明文のない法理論の重要性
民事訴訟法では、明文上の根拠がない論点や法理論が少なくありません。すなわち、条文の個々の文言を解釈することで要件・効果を明らかにするのではなく、「要件・効果ともに解釈から導き出されるもの」が少なくないのです。(こういった法理論は、複数の規定または民事訴訟法全体についての解釈論から導かれる、とみてもよいのでしょうし、伝統的にそう解釈されてきたものが不文の規範となった、とみてもよいのでしょう。)
例えば、代表的なものは、「弁論主義の第1テーゼ」です。これは「当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならない」というものですが、これを規定する明文はありません。
争いはあるものの、反射効や争点効などといった、明文上の根拠のない法理論は他にも少なくありません。
また、弁論主義や反射効のように明確な呼び名のある法理論以外にも、例えば、
・「訴え提起時にすでに原告に訴訟能力が欠缺していた場合で、第一審の棄却判決に対して、訴訟能力欠缺を看過していたことを理由に訴訟無能力者が控訴した場合に、控訴を不適法却下すべきか」
・「主位請求棄却・予備的請求認容判決に対して被告だけが上訴した場合で、上訴審で主位請求に理由アリとの心証となったときにどう判決すべきか」
以上のように、民事訴訟法においては、「明文上の根拠がなく、要件効果ともに解釈論から導き出される」というものが少なくないため、条文のみの思考で答案を作ることはできません。これはどの科目でも多少はあることですが、民事訴訟法においては特に頻発するので注意が必要です。
(次の記事で、このような場合の思考過程の整理と、書き方の例について触れます。)
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