(前の記事の続きです。→その1はこちらです。)
(2)明文のない法理論を使う際の思考過程・書き方
第1回で指摘したとおり、法適用の基本構造は、
①根拠条文(法的根拠)を指摘する
②条文の文言上の要件を列挙する
③文言を解釈して、どのような場合なら当該要件を満たすかの判断基準を定立する
④本件で各要件が満たされるかを判断する
⑤法律が適用されるのならその法律効果を、適用されないのならその旨を宣言する
という流れを取ります。
明文のない法理論を使う場合に、これを「法適用の基本構造」の思考過程の中で整理するなら、「①法的根拠」の部分に、当該法理論が入ってくることになります。
例えば、弁論主義の第1テーゼであれば、
①根拠となる法理論の要件効果を指摘(「当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならない」など)+当該法理論が認められる根拠の指摘(「何故なら、私的自治の訴訟法的反映からである」など)
↓
(②判決の基礎にできなくなる要件(「当事者の主張しない事実」)を指摘)
↓
③「事実」の範囲が一義的に明確でなく、「間接事実であっても第1テーゼの適用があるのか」が不明なので、要件を解釈して具体化する(「・・であることから、第1テーゼは主要事実のみに適用されると解する」など)
↓
④本件あてはめ(「本件で裁判所が心証を得た〇〇事実は・・という点で間接事実にすぎず、弁論主義は適用されない」など)
↓
⑤結論(「よって、裁判所は、当事者の主張がなくても〇〇事実を判決の基礎とすることができる。」など)
という流れになります(※①の中で要件指摘もすることになるので、このような場合は②は略してかまわないでしょう)。
ここで注意すべきなのは、「①法的根拠」の部分で、条文ではなく法理論を指摘する場合には、
・「要件(これこれの場合には)」だけではなく、「その効果(こう処理する)」も指摘すること(=上記の例なら、「判決の基礎としてはならない」も指摘する)
・当該法理論が認められる根拠を提示すること
の2点が必要である、ということです。
単に要件を指摘するだけでは、「その要件を満たしたから何だというのか?どういう処理になるのか?」がわかりませんから、効果まで指摘する必要があります。
また、法律家のよりどころは、第一次的には、条文です。にもかかわらず根拠なしに法理論を指摘するだけでは、「条文に書かれているわけでもないことを、何をさも当然のように答案に書いているのか?」となってしまいますので、当該法理論の根拠も示す必要があります。
このように、「条文にない処理の検討をする場合」は、条文に書かれていない以上、その法理論の要件・効果・根拠を答案上に明示する必要があります。
先に述べたように、民事訴訟法においては、条文にない法理論が「①法的根拠」の部分に来ることが少なくありません。その際には、このように「当該法理論による要件と効果」「当該法理論(処理)が認められる根拠」を共に指摘する必要がある、ということを意識しておくことが重要です。
(3)補足
答案の「書き方」という話からは少し外れますが、上記のように、条文上にない法理論を使って問題を解く場合、その法理論(「条文上は明示されていないが、これこれの状況ではこのように処理する」)を知っていないと答えられない問題がかなり多くあります。
このような問題の場合、条文上にはあまりヒントがありませんから、もしも知識がなければ手も足も出なくなってしまうことも少なくありません。これは、「どう書くか」以前の、知識の問題です。
したがって、民事訴訟法においては、「条文上は明示されていないが、解釈論上、これこれの状況ではこのように処理すると解されている」というタイプの知識も特に意識的にストックしていくのが良いでしょう。
(4)まとめ
以上のとおり、民事訴訟法においても「法適用の基本構造」どおりに書くのが基本ですが、その際、「①法的根拠の指摘」の部分で、明文にない法理論がかなり出てくる、ということに注意する必要があります。
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