第10回 行政法答案の基本構造 その1
1 行政法答案の基本構造
行政法においては、取消訴訟の訴訟要件の有無(処分性、原告適格等)、義務付けの訴えの要件、裁量逸脱濫用による違法事由の有無、その他、条文上の要件の検討が直接求められることが多く、このような場合、当ブログで述べてきた法適用の基本構造の繰り返しで答案の大枠ができあがります。
例えば、わかりやすいところで言うと、「義務付けの訴え」の可否の検討が求められる場合、
①根拠条文である行訴37条の2を指摘する
↓
②同1項「重大な損害」、第3項「法律上の利益を有する者」、等の要件を列挙する
↓
③(例えば「重大な損害」要件で言うと、)「重大な損害」の判断基準が不明確だから、解釈する。この際、同2項に「回復の困難の程度を考慮するものとし・・・」という判断方法が書かれているので、これも指摘して規範定立する
↓
④本件あてはめ
↓
(他の要件についても「③規範定立→④あてはめ」を繰り返したうえで)
⑤結論の指摘
となります。これが基本的な形です。行政法でも、基本的にはこれを繰り返せば答案の形になります。
2 行政法答案の特質(規範が不明確であること)
(1)行政法の規範定立の特質(定義の曖昧さと考慮要素の重要性)
行政法では、条文上の要件の定義がやや曖昧で、それだけではあてはめるのが難しいものがあります。
例えば、代表的なものは「処分」です。これは、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」をいうと解されています。
しかしこのような定義を示したとしても、特に後半(法効果性等の要件)部分について、「直接・・権利義務を形成し・・範囲を確定する」とはどのようなことか?「直接」とはどういうことか?権利義務に対してどのような影響があれば、「形成し・・・範囲を確定」することになるのか?が曖昧なままです。
そこで、法効果性等を判断する際には、その考慮要素として、「生じる権利制限の強さ」「当該行政行為の段階での権利救済の必要性」などを念頭に置いていく必要があります。(このような考慮要素については、答案上の規範定立部分で常に明示する必要がある、とまでは言えませんが、少なくとも念頭に置いている必要があります。そうでないとあてはめができないからです。)
このように、行政法分野では、「条文の文言の具体的意味(定義)は言えても、それで直ちにあてはめができるとは限らず、さらに具体的な考慮要素を念頭に置いておく必要がある」という場面が少なくありません。
※補足
なお、上記では「法効果性について詳細な検討が必要となる場合」を念頭に置いています。
逆に、例えば土地区画整理事業の換地処分のように、その法的効果が「権利の消滅」(土地区画整理法104条1項)や「土地の(所有権の)取得」(同条9項)等のような形で定められ、「権利義務の形成確定」であることが明らかな場合は、端的にその旨を述べて法効果性を認めれば足ります。
(次の記事で、「実際のあてはめのやり方」などに触れます。)
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2019年6月27日木曜日
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