(今回は、前回の記事の続きで、定立すべき規範の条件のうち、
①あてはめに耐えるだけの具体的基準が示されていること
②判例・学説のいずれかで採用されている規範であること ←ココ
③判例を考慮したうえでの規範定立であること ←ココ
のお話です。)2 ②判例・学説のいずれかで採用されている規範であること
(1)本試験での論理性重視
そもそも論点において見解が分かれるのは、何が正解か一義的に決められないからです。
また、試験委員はそれぞれの見解を持つ学者・実務家であるところ、司法試験は、どの試験委員に当たっても不公平にならないよう採点されているはずです。
さらに、出題の趣旨等でも再三触れられているとおり、論理性が重視されています。
以上から、「論理的な規範定立ができているならば、どの見解を採用するかは点数に影響しない」と考えられます。(※ただし、憲法でよくある「Xのすべき主張を論ぜよ」のように、ポジショントークが求められる場面では別です。第5回その2参照。)
このような点からは、論理的でありさえすれば、見たこともないような独自の見解で書いても問題ないと考えられます。
(2)判例または学説で書くべき理由
しかし、以下のとおり、不適切な(無理のある)規範定立を避けるために、答案上では判例学説をベースとした規範を定立すべきです。
判例・学説の見解は、その論拠及び規範が、すでにこれまでに提唱されたうえで議論されてきています。言い換えると、「学界での批判にさらされたうえで生き残ってきた歴史がある」ということです。
見解自体に大きな論理矛盾がある、抽象的過ぎて基準として機能しない、典型的に想定される事例をカバーできない、あまりに結論の妥当性を欠く、などといった致命的な問題のある見解はすでに淘汰されてきたと考えられます。したがって、これまでに提唱されてきた学説等を採用することで、そのような危険を避けることができます。
つまり、単純に独自の見解で議論をすると致命的な問題のある規範を立ててしまう恐れが少なくありませんが、判例学説をベースにした規範を採用することで、これを避けることができる、ということです。
このように、不適切な規範定立を防止するため、判例・学説ベースでの規範定立が適切であると考えます。
なお、上記の事情からすれば、あまりに強い批判がされている判例については、自説としての採用は避ける方が無難でしょう。
3 ③判例を考慮したうえでの規範定立であること
すでに繰り返しているように、司法試験は実務家登用試験ですから、「実務(=判例)がどうなっているか」を無視することはできません。
裁判官の仕事で言うと、先例重視・判例ベースで判断をしていくのが基本になります(裁判は公務ですから、事件ごと/裁判所ごとに判断があまりにバラバラでは不平等・不当です)。
また、弁護士・検察官の仕事で言っても、判例を前提に動いている裁判所を説得することが必要になりますから、判例を無視して独自の見解を主張しても、裁判所を説得して勝訴を勝ち取れる可能性はあまりありません。
以上から、判例への理解を答案上で示すことは重要です。常に判例の見解を採用せよ、ということはもちろんありませんが、大きな論点では、判例と異なる見解を採用する場合には判例の見解にも言及すべきでしょう。
以上から、判例への理解を答案上で示すことは重要です。常に判例の見解を採用せよ、ということはもちろんありませんが、大きな論点では、判例と異なる見解を採用する場合には判例の見解にも言及すべきでしょう。
4 結論
ある要件について規範定立しなければならないときに、判例学説を思い出せなければ自分なりに考えて何らかの規範を立てる、ということもあるかもしれません。
しかし、このような対処はあくまで最終手段とみるべきです。
上に述べてきたように、各論点について判例学説を正確に覚え、可能な限り、判例学説どおり(またはその修正で)規範定立するべきでしょう。
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