(2)一義的なあてはめの困難さ
前記のように、「処分」のような定義が明確でないものについてはその考慮要素(権利制約の強さ、権利救済の必要性など)も念頭に置く必要があります。
しかし、このような考慮要素を指摘したとしても、結局「どの程度の強さの権利制限があればよいのか」「権利救済の必要性がどの程度強ければよいのか」は出てきません。
これは、そもそも「処分」の判断基準が、一義的なあてはめが可能なほどには具体化されておらず、程度問題として柔軟に判断されていることに由来するものと思われます。
ここでは、「・・・施行地区内の宅地所有者等は,事業計画の決定がされることによって,前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ,その意味で,その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべき・・」などと判示されています。
判決ではこれ以前の部分で、建築制限や換地処分を受けるべき地位など、「宅地所有者等がどのような制限を受けることになるのか」について列挙したうえで、このように「法的地位に直接的な影響(☆)が生ずる」と言っており、☆を決定的な理由(の一つ)として処分性を認めているものとみられます。
しかし、☆が認められるには、「どのような制限」が必須要件なのか。例えば、「換地処分を受けるべき地位に立たされることにはなるが、建築制限等は課されない場合」にも☆が認められるのかは判示からは不明ですし、実際問題、「法的地位に直接的な影響」といってみたところで、「法的地位」と「事実上の不利益」との境界や、「直接的」「間接的」の境界はあまりはっきりしません。したがって、実際のあてはめの際に、「なぜ『事実上』ではなく『法的』地位といえるのか?」「なぜ直接といえるのか?」に対してダイレクトに答えるような論拠を挙げるのは困難です。
以上のように、「処分」のように定義に幅のある要件のあてはめにおいては、一義的なあてはめが困難であることを意識する必要があります。(行政法でいえば、他にも「原告適格」要件も同じ類のものといえるでしょう。)
(3)答案でのあてはめのやり方
では、以上のように、一義的なあてはめが困難な状況で答案に説得力を持たせるにはどうすればよいでしょうか。
一つに、「議論の方向性に着目したあてはめをする」ということが考えられます。より具体的には、「考慮要素を広く指摘して、自分の結論に沿う要素を特に強調したうえで、根拠なしに『だから〇〇を満たす』などと言ってしまう」という書き方などです。
これは、「結論に至るダイレクトな根拠がない」という点は仕方ないこととして受け入れるのを前提にします。その上で、「法的に意味のある事実関係についてはしっかり考慮しましたよ」ということを示すことで、できるだけ説得力を持たせよう、とするものです。明確な根拠は言えなくても、考慮すべき事実を考慮することはできるのだから、せめてそれを論じることで、可能な限りの最善を目指そう、ということです。
具体的には、例えば上記の☆(「法的地位に直接的な影響」)についていえば、☆該当性を肯定するべき事情と否定するべき事情にそれぞれ触れたうえで、自身の結論に方向性が合致する事情を強調していく、というやり方です。
これは、「結論に至るダイレクトな根拠がない」という点は仕方ないこととして受け入れるのを前提にします。その上で、「法的に意味のある事実関係についてはしっかり考慮しましたよ」ということを示すことで、できるだけ説得力を持たせよう、とするものです。明確な根拠は言えなくても、考慮すべき事実を考慮することはできるのだから、せめてそれを論じることで、可能な限りの最善を目指そう、ということです。
具体的には、例えば上記の☆(「法的地位に直接的な影響」)についていえば、☆該当性を肯定するべき事情と否定するべき事情にそれぞれ触れたうえで、自身の結論に方向性が合致する事情を強調していく、というやり方です。
☆を肯定するのであれば、種々の権利制約の内容に触れたうえで、「権利制約が多いこと」「権利制約の程度が強いこと」などを強調したうえで、「以上から、法的地位に直接的な影響を生じるというべきである。」などと言ってしまう、といった書き方が考えられます。つまり、「どこまでの権利制約があれば☆が認められるのかは明言できないから、それ自体は諦めて、☆肯定方向の事情の評価の際に権利制約の強さ・多さ等を強調したうえで、根拠なしに『よって☆を満たす』との結論を出してしまう」といった書き方です。
例えば「建築制限等・・・の制約を受けることになり、これは所有権への強い制約といえる。また、手続きが進めば換地処分により権利自体が当然に変動することになる点で、所有権に対して決定的な影響を持つものである。以上からすると、法的地位に直接的な影響を生じるといえる。」などといった書き方です。このように議論の方向性を強調すれば、論旨が明確になり、より説得力のある論述になるかと思います。
なお、このように議論の方向性に着目した論述、というのは憲法の違憲審査基準定立の際にも触れたもので、「一義的な論証が難しいとき」に役立ちます。他にも、民法の無承諾転貸で「背信的行為と認めるに足らない特段の事情」のあてはめの際など、使える場面は少なくありませんので、意識しておくと役立つと思います。
例えば「建築制限等・・・の制約を受けることになり、これは所有権への強い制約といえる。また、手続きが進めば換地処分により権利自体が当然に変動することになる点で、所有権に対して決定的な影響を持つものである。以上からすると、法的地位に直接的な影響を生じるといえる。」などといった書き方です。このように議論の方向性を強調すれば、論旨が明確になり、より説得力のある論述になるかと思います。
なお、このように議論の方向性に着目した論述、というのは憲法の違憲審査基準定立の際にも触れたもので、「一義的な論証が難しいとき」に役立ちます。他にも、民法の無承諾転貸で「背信的行為と認めるに足らない特段の事情」のあてはめの際など、使える場面は少なくありませんので、意識しておくと役立つと思います。
(4)暗記事項について
前記のとおり、「処分」のような要件については、その考慮要素まで念頭に置く必要があります。
また、上記のとおり議論の方向性に着目したあてはめをするにしても、答案であまりに常識感覚からズレた判断を下すことは避けるべきです。
以上から、
また、上記のとおり議論の方向性に着目したあてはめをするにしても、答案であまりに常識感覚からズレた判断を下すことは避けるべきです。
以上から、
・「判例はどのような要素を考慮したか」(=考慮要素の参考としての判例)
・「判例は、具体的に『どの程度の事例で』要件該当性を認めたか」(=『程度問題』の線引きの目安としての判例)
の2点で、重要判例を参考にすべきです。「処分」のような一義的でない要件についての判例知識をインプットする際には、上記2点を意識するのが良いでしょう。
3 まとめ
3 まとめ
行政法の答案でも法適用の基本構造の繰り返しが基本になります。
その際、「処分」「原告適格」等、一義的なあてはめが困難な要件については、③規範定立/④あてはめの際に、「考慮要素を念頭に置いたうえで」「議論の方向性に着目したあてはめをする」ということを意識することが有益です。
その際、「処分」「原告適格」等、一義的なあてはめが困難な要件については、③規範定立/④あてはめの際に、「考慮要素を念頭に置いたうえで」「議論の方向性に着目したあてはめをする」ということを意識することが有益です。
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