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2019年9月4日水曜日

第15回 あてはめの基本構造 その1




1 今回の趣旨

 あてはめのやり方がよくわからない、という人もいると思います。例えば、答練の添削などで、「あてはめが事実の羅列になっている」「規範とあてはめが対応していない」などという指摘を受けたりしたことがあるかもしれません。

 当ブログでは、これまで「あてはめ」という言葉を特に断りなく使ってきましたが、あてはめのやり方、すなわち、実際に何をどう言えばあてはめをしたことになるのかには踏み込んでいませんでした。

 今回はここについての話です。



2 あてはめの基本構造


(1)概要

 あてはめにおいては、

①問題文に書かれている事実を指摘する

②当該事実を評価する(①の事実から何が言えるのか、①の事実がどのような意味を持つのかを、経験則等に照らして指摘する)

③事実または事実評価により、定立した規範に文字通り当てはまることを宣言する


というのが基本構造になります。
(要件の性質や当該問題での事実関係によっては、②が不要となる場合もあります。)

 以下、詳しく述べます。



(2)基本的な考え方

 これまでに法適用の基本構造の説明などでも触れてきたとおり、「あてはめ」は、「本件の事実関係が、定立した規範に文字通りあてはまるかどうか」を確認する作業です。

 したがって、あてはめ作業においては、

「①本件の事実を指摘」
したうえで、
「③それが定立した規範に文字通りあてはまることを宣言する」

というプロセスが基本になります。

 本当はこれだけであてはめを終えられれば一番良いのですが、問題文で明示されている事実関係だけでは「定立した規範に文字通りに当てはまるかどうか」の判別ができない場合もあります
 このような場合については、さらに「②事実評価」というプロセスも必要になってきます。


 以下、事実評価の要否に分けて説明します。



(3)②の事実評価が不要な場合

 上に述べたとおり、問題となる要件や、問題文での事実関係の適示の仕方によっては、上記の②(事実評価)が不要となることもあります。

 たとえば、民法の詐害行為取消権の要件のうち、「被保全債権が詐害行為以前に成立したものであること」という部分について考えてみましょう。(令和2年施行民法では、被保全債権が詐害行為よりも「前の原因」に基づいて生じたことが要件とされましたが、ここでは現行民法解釈を前提に解説します。)



 この要件検討においては、「詐害行為がいつされたか」と「本件の被保全債権が何年何月何日に成立したか」が特定できれば一義的にあてはめが可能です。そして、詐害行為日、被保全債権の成立日は、いずれも通常、問題文から特定できますから、答案では単純に①問題文の事実を指摘し、③定立した規範に文字通りに当てはまることを宣言すれば足りることになります。

 具体的には、例えば、「本件詐害行為は平成〇年〇月〇日にされているところ、被保全債権である〇〇債権は、平成〇年〇月〇日に成立している。したがって、本件被保全債権は、詐害行為以前に成立していたといえる」などとあてはめればよいことになります。


 なお、上記の下線部に示しているとおり、あてはめの結論(末尾)部分は、必ず「定立した規範を文字通りに繰り返す」形になっていることが必要です。そうでないと、論理的に書いたことになりません(詳細は、「第11回 『論理的思考』『論理的に書く』とは」の「キーワードのリンク」参照)。この点は、事実評価が必要となる場合でも同様です。



(次の記事に続きます)





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