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2019年8月25日日曜日

第14回 刑事訴訟法答案の基本構造 その1

第14回 刑事訴訟法答案の基本構造 その1


1 刑事訴訟法答案の基本構造

 刑事訴訟法答案においても、基本的には、法適用の基本構造通りに書くことで答案の大枠が出来上がります。

 たとえば、逮捕に伴う捜索差押の適法性が問題となっている場合であれば、

①法的根拠である220条1項の指摘
②「逮捕の現場」「逮捕する場合」等の要件の列挙
③各要件を解釈して規範定立
④本件で各要件が満たされるかの検討
⑤結論

という流れです。

 問題となる条文ごとに、この流れを繰り返すことで答案の形になるのは他の科目と同様です。


 ただ、「任意捜査の原則」「強制処分法定主義に反しないか」「任意処分の限界」といった論点や、伝聞法則関係の論点など、典型論点中の典型論点でありながら思考過程の整理が曖昧になりやすいものもあるので、今回はこれらの点についても補足しておきます。(他の論点についてはまた機会をみて触れられればと思います。)



2 捜査についての一般的原則(強制処分法定主義、任意捜査の限界等)の議論



(1)各種の原則と、法的根拠の整理


 捜査については、

①任意捜査が原則である
②もしも強制処分に当たるなら、法定が必要である
③強制処分に当たらないとしても任意捜査の限界を超えないことが必要である


とされています。


ア ①任意捜査の原則の根拠

 この根拠は、197条です。
 すなわち、197条1項本文では、「捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。」とし、この条文は、「必要な取調」について、その取調(=捜査)は許される、と定めています。
 これと但書の「但し、強制の処分は・・・」を合わせると、「必要な捜査は許されるが、任意捜査が原則である」ということになります。



イ ②強制処分法定主義の根拠

 この根拠は、197条1項但書です。
 すなわち、同但書では、「但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。」とし、法定のない強制処分が許されないことを定めています。



ウ ③任意捜査の限界の根拠

 これについては、刑事訴訟法の明文上の根拠はありませんが、警察比例の原則によって、任意捜査にも限界があると解されています。



2)検討の流れの大枠

ア 実際に書くべき論点

 「強制制処分法定主義」や「任意捜査の限界」の論点が試験で問題になるのは、通常、「法定のない捜査がされた場合で、当該捜査が適法かどうかを問われたとき」です。
 この検討においては、②「強制処分法定主義に反しないか」③「任意捜査の限界を超えないか」が主な問題となってきます。

 なお、①「任意捜査の原則に反しないか」については、通常の事例問題では、独立には論じる必要がありません。何故なら、たとえば検証と実況見分で考えると、「被疑者等の同意があるのなら、警察は実況見分を選択しているはずなので任意捜査の原則に反しない」し、「被疑者等の同意がないのなら、強制処分である検証によるしかないのでやはり任意捜査の原則に反しない」といえるので、いずれにせよ「任意捜査の原則への抵触」は事実上問題にならないからです。


イ 議論の流れの大枠

 この②③の検討の流れは、以下のように考えることになります。

「強制処分に当たるか」を検討する
   ↓
(a)強制処分に当たる場合⇒法定があるかどうかを検討し、結論を出す
(b)強制処分に当たらない場合⇒任意捜査の限界を超えないかどうかを検討する


 ここで重要なのは、まずは「強制処分に当たるかどうかの議論」から始める、ということです。
 なぜそのような順序で議論をするかというと、「任意捜査の限界の議論は、当該捜査が任意捜査である(強制処分でない)ことを前提にする議論だから」です。
 当該捜査が任意捜査なのかどうかが確定しないうちから「本件捜査は任意捜査の限界を超えないか」などといきなり書き始めないように注意が必要です。



ウ 実際の答案での流れ

 実際の答案では

「警察のした本件捜査は、強制処分に当たらないか」
   ↓
(a)「・・・から、本件捜査は強制処分に当たる。そして、本件捜査は法定がないので、197条1項但書に反し、違法である。」

(b)「・・・から、本件捜査は強制処分に当たらない。
もっとも、任意捜査の限界を超えないか・・・・・・(⇒任意捜査の限界の議論)」


などと書いていくことになります



(3)強制処分法定主義の規範とあてはめ

ア 採用する規範とあてはめのやり方について

 上記のとおり、当該捜査が「強制の処分」に当たる場合、それが個別に法定されていない捜査であれば、違法です。
 そこで、「強制の処分」の定義を述べて規範定立したうえで、本件でこれが満たされるかを検討することになります。

 この定義は各種あるかと思いますが、使いやすいのは、「意思に反して」「重要な権利を侵害する」といった定義かと思います。
 なお、規範として「重要な」というたいへん曖昧なものが出てきていますが、197条1項但書のような一般的な条項についての要件を具体化するのも限界がありますし、上記は学説上も普通に提唱されている定義なので、ここはこれで良しとしておいてよいです。


 ただ、実際のあてはめの際には、「捜索差押その他、法定されている強制処分に比肩するような権利侵害があるか」といった観点をもって重要性を認定するのが良いでしょう。この点は、以下の判例も参考になります。


イ 判例の規範について

 強制処分の定義について、判例は、「強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する」(最判昭和51年3月16日刑集第30巻2号187頁:リンクは裁判所ウェブサイト)などとしています(下線、太字は筆者)。

 この規範定立は、下線部で例示をしつつ、太字部分で一般的な定義を述べる、という形をとっています。
 ここでいう「特別の根拠規定」というのは、要するに、法定された強制処分(逮捕、捜索、差押等)を想定しているとみられます。
 すると、強制処分法定主義(197条1項但書)と併せ考えると、この判例は、「法定がなければ許容することが相当でないような手段は強制手段であり、法定がなければ許容されない。」ということを意味しており、この点に着目するとトートロジー的です。したがって、結局は、例示部分から読み取れる「意思制圧、権利侵害の重大性を考慮する」という面が規範として重要なのでしょう。


 このように考えると、結局は「意思に反するか」「権利侵害が重大か」を考慮して判断することになります。したがって、このような観点からしても、上記のとおり、通常の学説のような規範でよいといえます。
(議論として浅いようですが、答案を書く、という観点からはこの程度の整理でよいと思います。)


(4)任意処分の限界の規範とあてはめ

ア 採用する規範について

 これについては判例の規範で特に問題ないでしょう。
 すなわち、上記判例は、「強制手段にあたらない有形力の行使であつても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるもの」としており、任意処分の限界についての基準を立てています。

 「具体的状況の下で相当」という極めて曖昧な基準となっていますが、捜査についての一般条項である197条1項を解釈している関係上、あまり具体的な基準を立てるのは困難ですし、学説上もそれほど批判のある所でもないので、判例の規範で特に問題ありません。

 ただし、規範が曖昧である以上、あてはめが特に大切になってきます。


イ あてはめについて

 判例の規範では、あくまで「相当性」が軸であり、「必要性・緊急性など」はその考慮要素に過ぎませんから、メインで検討するのは、相当性です。

 ただ、そもそも「相当」とは何か、といえば、「何かと何かがふさわしいこと」です。そして、捜査の場面でいえば、衝突するのは「真実発見と人権保障」です。したがって、「捜査の必要性(緊急性)の程度」と「手段の人権侵害性の程度」を見比べて、ふさわしいかどうかを検討する、ということになります。

 ところで、これまでに何度か出てきているとおり、このような「相当」などという曖昧な基準に照らして判断する場合は、方向性に着目したあてはめが必要になってきます。

 たとえば、相当な捜査を超える、という結論を導くのなら、「~であるから、必ずしも捜査の必要性は高くない。他方、本件捜査によって害される利益を考えると、・・・であることからすると、『〇〇しているところを写真撮影されない期待利益』は大きいものというべきである。以上からすると、本件捜査は相当なものとは言えない。」などといった書き方が考えられます。(下線部分で議論の方向性を示しています。)

 このような場面では厳密な論理性を示すことは困難ですから、あまりそこにはこだわらず、事実をしっかり拾って議論の方向性を示し、「関係する事実関係をしっかり考慮して結論を出しましたよ」ということをアピールすることに注力するのが良いでしょう。



(3)補足:法定がないことと令状がないことの違いについて

 問題集の答案例などで、「本件で警察は、無令状で〇〇を行っているが、これは197条1項但書に反しないか」などといった問題提起がされているのを見ることがあります。こういった書き方については、「強制処分法定主義の議論なのに、なぜ令状の有無を指摘するのか?」という違和感を抱くことがあるかもしれません。

 この点、197条1項但書の要件から考えると、それは、「強制処分であること」と「法定がないこと」です。

 したがって、強制処分が違法となるための要件について197条に即して論じるのなら、「法定がないこと」が要件であり、「令状がないこと」は要件ではありません。(さらに言えば、「強制処分法定主義」は、捜査についての立法的統制を及ぼすもので、他方、「令状主義」は、捜査についての司法的統制を及ぼすものであり、その趣旨からしてそもそも別個の問題です。)

 この観点からすると、上記のような問題提起は不正確な表現ですので、避けた方がよいでしょう。
 答案に書く際は、素直に、「本件で警察は、法定のない〇〇という捜査を行っているところ、これは197条1項但書に反しないか。本件〇〇が強制処分に当たるか問題となる。」などと問題提起すれば足ります。


(次の記事では伝聞法則の思考整理について触れます。)



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