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2019年8月8日木曜日

第13回 「妥当性」「酷」等の実質論の使い方 その2


(前の記事の続きです。→その1はこちらです。


2 妥当性論(実質論)をどのくらい書くか

 前回の記事の1で述べたとおり、妥当性論(実質論)は、法的安定性と対立する観点であり、これを偏重することはできません。しかも、何をもって妥当とするかは論者によって一定しない面もあります。

 したがって、妥当性を決定的な論拠として自説を論証することは基本的に避けるべきです。書くのなら、「・・と解するとなると~となって不当である。思うに、~であることからすると、〇〇と解する。」など、あくまで論拠の一つとして触れるにとどめるべきだといえます。



3 どこで妥当性について書くか

 先に述べたとおり、法適用は一定の妥当な結論を導くものでなければいけませんから、法適用のほどんどのプロセスにおいて、妥当性への配慮は必要です(ただし、常に答案に書く必要があるわけではありません)。


(1)法適用の基本構造内での整理

 これを、法適用の基本構造の各プロセスで具体的に考えます。


①法的根拠の指摘

 法的根拠は、基本的に条文の形で与えられているので、そのような場合には「妥当性」論が入る余地はありません。
 ただし、法的根拠が「明文のない法理論」の場合は、通常、当該法理論を支える根拠の一つとして妥当性も考慮されているはずです(妥当性を無視した法理論が、法的根拠として広く受け入れられるとは考え難いからです)。
 したがって、これに言及するのはあり得ます(ただし、妥当性が決定的な根拠になることはあまりないので、その言及は略してよいのが通常でしょう)。


②要件の列挙


 要件についても、基本的に条文の形で与えられているので、「妥当性」論が入る余地はありません。
 ただし、法的根拠が「明文のない法理論」の場合や、明文なき要件の場合には、解釈によって要件が定まることになります。このような場合、通常、当該要件を定立する論拠の一つとして妥当性も考慮されています。したがって、論拠の一つとして妥当性論に触れるのもあり得ます。




③要件を解釈して規範定立

 ここは、どのような論拠でどのような規範を立てるかについて明文等で定まったものがあるわけではないので、妥当性も考慮して規範定立することになります(ただし、常に答案上に書く必要があるわけではありません)。
 たとえば、現行民法534条1項(債権者主義)における制限説の根拠の一つとして妥当性を考慮する、などです。
 このような積極的論拠として挙げる他にも、試験問題の事例の特殊性から、一般的な判例学説等で言うような規範では不都合な結果が生じてしまうときに「修正規範が必要となる論拠」として妥当性に触れる、という場面も考えられます。



④あてはめ


 あてはめでは、基本的に「当該事案での事実関係が定立した規範に当てはまるか」をチェックしますから、その際、「当該事例における結論として妥当かどうか」というのは一切関係ありません
 「『侵入』とは住居権者の意思に反する立ち入りを言うと解する」と規範を定立したにもかかわらず、(住居権者の意思に反したかどうかについての認定もせずに)「~という事情から、甲は『侵入』したものと見るのが妥当である」などと書いてしまうと、論理性も何もあったものではなくなってしまいます
 あてはめにおいては、「妥当性は考慮せず、定立した規範に文字通りあてはまるかどうかだけを検討する」ということに注意が必要です。



⑤結論


 実務を想定すれば、「結論が本当に妥当なのか」は重大な関心ごとですから、自分が導いた結論が妥当性に不安を感じるようなものである場合、「何故それでも不当ではないのか」を言う必要があります。でないと、「実務での結論の妥当性を無視して形式的な法適用だけをする受験生だ」と試験委員に思われてしまうからです。

 したがって、自分が導いた結論について、常識的に考えて妥当性に不安があったり一方に酷だったりする場合は、「~の理由から、このような結論も不当ではない」「・・であるから、このような〇〇に酷な結論となることもやむを得ない」など、「結論の妥当性への配慮」を示す必要があります。


(2)よりコンパクトな整理


 以上、法適用の基本構造内で整理したものをよりコンパクトに整理しなおすと、妥当性について考慮するのは、

A『自説(特に規範定立)の論拠の一つとして挙げる』(上記①・②各後半部、③部分)
B『あてはめをして結論を出したうえで、その結論が不当でないことを述べ、結論の妥当性に配慮していることをアピールする』(上記⑤部分)
C『一般的に使われる規範では結論が不当になってしまう場合に、修正規範を定立する必要性の根拠として書く』(上記③部分)


の3つの場面に整理できることになります。(さらにまとめると、CはAの中に入りますが、3つに分けた方が見やすいかと思うのでこのように整理しました。)

 以上から、前の記事の冒頭の結論となります。



(3)答案で書くかどうかの判断について


 なお、これまで述べてきたとおり、基本的に「妥当性」は決定的な論拠にはならないので、上記のABCは、常に答案上に示す必要があるわけではありません。実際に答案に書くかどうかについては、以下のような整理でよいと思います。

 Aについては、基本的に略してよいです。最近の司法試験は、じっくりと自説を論証することはそれほど求められていないとみられるからです。

 Bについては、自分の導き出した結論の妥当性に不安があるときは、必ず書くべきです。そうでないと、結論の妥当性に配慮しない受験生だと思われてしまうからです。

 Cについては、該当する場面(普通の規範では結論が不当になるとき)では、必ず書くべきです。その不当性が、「一般的な見解を修正する必要性」を支える根拠だからです。



4 まとめ


 以上述べてきたとおり、妥当性については、限定された場面で補助的な指摘をするにとどめるのが適切と考えられます。
 少なくとも、「妥当性」を自説の決定的論拠に据えたり、規範定立→あてはめの流れを無視して妥当性だけで結論を出したりすることは避ける必要があります。









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