第5回 憲法答案(人権問題・14条以外・法令違憲)の基本構造 その1
0 議論の大枠について
第1回で法適用の基本構造について紹介しましたが、憲法(人権問題)は、これがうまく使えない科目です。
人権問題の処理には独特の手順があり、その大きな流れは以下のとおりになります。(以下、当ブログでは、これを「人権処理の手順」と呼びます。)
①問題とする自由の特定
②上記①の自由が憲法上の権利であることの論証
③上記①の自由が制約されていることの指摘
④憲法上の権利も公共の福祉等の制約に服することの宣言
⑤違憲審査基準の定立
⑥あてはめ
⑦結論
各手順について、以下具体的に説明します。
なお、14条(平等権侵害)の場合や適用違憲等の場合は少し議論の流れが変わってきますので、今回は、比較的利用頻度の高い「14条以外の人権問題の法令違憲の処理方法」についての説明です。
1 ①問題とする自由の特定
(1)なぜ「自由の特定」が必要なのか
憲法問題では通常、「Xの憲法上の主張」が問われますが、そのような主張をするには、「国等の行為が、Xの何らかの憲法上の自由を侵害している」という主張を論じる必要があります。したがって、まずは議論のスタートラインとして、「どのような自由を問題とするのか」を特定する必要があります。
(2)どのような自由を問題とすべきか
問題とする自由については、「法〇条は、『表現の自由』を侵害しないか」といった抽象的な指摘ではなく、「法〇条は、『〇〇という場所において~の方法で意見を表明する自由』を侵害しないか」など、本件に即した具体的な自由を特定する必要があります。
その理由は、「ある程度具体的な自由を特定することで、その自由の持つ性質を具体的に検討することができるようになり、それがそのまま審査基準定立の根拠となってくる」からです。つまり、「通り一遍の抽象的議論ではなく、本件に即した具体的検討」をするためには、ある程度具体的に自由を特定する必要がある、ということです。
具体的にどのような自由を問題とするかは設問によりさまざまなので、問題集等でイメージを持っておくのが良いです。
2 ②権利性の論証
(1)権利性の論証が必要となる理由
憲法上の主張が問われているわけですから、①で問題とした自由が「憲法上保障される自由」であることを論証する必要があります。
(2)「憲法上保障される自由」とは
「憲法上保障される自由」と「憲法上保障されない自由」にはいくつか違いがありますが、決定的なのは、「憲法上保障されない自由は(基本的には)法律で制約し放題である」ということ(つまり法令違憲の根拠となりえないということ)です。他方、「憲法上保障される自由は、法律で制約するにも限度がある」ということです。
したがって、「憲法上保障される自由」にあたるには、それ相応の「権利としての重要度」が必要です。
(3)権利性論証の書き方
試験対策との関係では、「憲法第3章に列挙されている権利そのものに当たるか、それと同視できる性質をもつ重要な権利かどうか」といった視点で論じるのが良いでしょう。
よくある書き方を例にすると、「営業の自由は、それが保障されなければ、選択した職業において営業ができなくなるため、職業選択の自由を保障した意味がなくなる。したがって、営業の自由は22条1項で保障される」などとなります。
3 ③自由制約(権利制約)の指摘
違憲性を議論するためには、まずは当該法令によって権利が制約されていることが必要なので、ここの指摘が必要になります。
具体的には、「~する際には、法〇条により・・・の条件を課されるため、〇〇の自由は法〇条により制約されている。」などと指摘するのが考えられます。
ある行為を法令がはっきり禁止している場合は権利制約がわかりやすいのですが、そうではなく、間接的・軽微な負担を課しているにすぎない場合などもあります。そのような場合は、原告の主張する自由が、当該法令によってどのように制約されているかもしっかり指摘する必要があります。
(次の記事に続きます)
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