第3回 民法答案の基本構造(要件事実整理を除く)
0 総論(議論の大枠について)
民法の問題では、「甲は乙に〇の支払いを請求できるか」「甲は乙に〇〇の引き渡しを請求できるか」といったものに答えることが多いと思います。こういった問題での答案の基本構造は、第1回で述べたのと同様、
①請求の根拠条文を指摘する
②条文の文言上の要件を列挙する
③文言を解釈して、どのような場合なら当該要件を満たすかの判断基準を定立する
④本件で各要件が満たされるかを判断する
⑤法律が適用されるのならその法律効果を、適用されないのならその旨を宣言する
ということになります。
具体的な論述の仕方も、第1回で述べたとおり、
①甲は乙に対し、〇法〇条により、~を請求することが考えられる。
②同条の要件は、「A」である。
③ここで、「A」とは「・・・」をいうものと解する。
④本件でこれが満たされるかを見ると、~という事実から、「・・・」に当てはまるといえる。
⑤よって、〇法〇条の要件が満たされるから、甲の請求は認められる。
といった流れになります。これを繰り返すことで基本的には答案の形になります。
以下、説明を補足します。
1 ①根拠条文の指摘
基本的には素直に請求内容とその根拠となる条文を指摘すれば足ります。
例えば詐害行為取消を請求するのならば、その根拠である424条1項を指摘することになります。具体的には、「甲は、424条1項に基づき、A行為を取り消すことが考えられる」などです。
2 ②条文の文言上の要件の列挙
これも、素直に条文上の要件を列挙すれば足ります。
例えば424条であれば、「被保全債権」「詐害行為」「詐害意思」「受益者または転得者の悪意」「財産権を目的とする行為であること」です。
3 ③文言の解釈
第1回で述べたとおり、その内容が一義的に明確でない要件については、解釈して具体化することになります。
例えば、424条の「被保全債権」要件であれば、「被保全債権がいつの時点で成立している必要があるのか?(※)」「被保全債権は金銭債権でなくてもよいのか?」といった点が条文上不明ですから、これについて解釈を述べたうえで具体化する必要があります。具体的には、「詐害行為により害された、というためには被保全債権は詐害行為より前に成立していることが必要であると解する。また、責任財産の保全、という本条の趣旨から、被保全債権は金銭債権であることが必要であると解する」などとすることが考えられるでしょう。
他の要件についても、必要に応じて同様の作業をします。
(注)なお、上記※の被保全債権の成立時期要件については、令和2年施行の改正民法424条3項で、詐害行為より「前の原因」により発生したものであることが明文上の要件とされました。(ここでは改正前条文を前提に説明しています。)
4 ④本件で当該要件が満たされるかの検討(あてはめ)
見出しのとおり、本件で要件が満たされるかを検討します。
例えば、上記の「被保全債権」要件でいえば、成立が詐害行為前/後か、金銭債権かどうか、という、通常は判断のつきやすいものなので、素直に本件の事実を指摘してこれに当てはまるかを述べれば足ります。具体的には、「本件被保全債権は〇月〇日に成立しており、本件A行為以前の時点で成立していたといえるし、その内容も〇万円の支払請求権であって金銭債権に当たるから、『被保全債権』要件を満たす」などと書けば足ります。
この作業を、全ての要件について繰り返せばよいことになります。
なお、要件や問題文の事情によっては、事実を指摘するだけではなく、その事実の持つ意味(事実評価)まで指摘して初めてあてはめができるものもあります。このような場合のあてはめのやり方については、また機会があれば触れられればと思います。
5 ⑤本件での法適用の有無、法律効果の宣言
上記4の検討で全ての要件が認められる場合は、「当該条文の要件を満たし、請求が認められる」旨を宣言します。
通常はこのような書き方で答案が終わるのですが、その法律効果の内容について不明確な部分がある(詐害行為取消権でいえば、相対効かどうか、債権者自身への直接の引き渡しが認められるか、など※)場合には、その法律効果まで論じる必要があります。法律効果まで含めて初めて請求の根拠になるわけですから、この点の指摘も忘れずにする必要があります。
(注)なお、令和2年施行の改正民法ではこれらの効力(上記※)の内容について、424条の9、425条で明文化されています。(ここでは改正前条文を前提に説明しています。)
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2019年5月23日木曜日
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