1 総論
繰り返しになりますが、民法では、通常は、
①請求の根拠条文を指摘する
②条文の文言上の要件を列挙する
③文言を解釈して、どのような場合なら当該要件を満たすかの判断基準を定立する
④本件で各要件が満たされるかを判断する
⑤法律が適用されるのならその法律効果を、適用されないのならその旨を宣言する
というのが議論の基本構造になります。しかし、問題文に「要件事実を整理して・・・」というような趣旨の指定が付くときには、少し違いが出てきます。
第2回でも少し触れましたが、このような場合は、上記①~⑥のうち、②の部分が変わってきます。
より具体的には、「②要件の列挙」の際に、「明文上の列挙の有無」ではなく、「要件事実論に基づく整理」を基準に要件列挙が求められることになります。
しかし、それ以外の議論の出発点(①)や、その後、整理した要件が認められるかどうかの検討(③④⑤)においては、通常と変わりありません。
したがって、結局、②の部分の整理の仕方が変わるだけ、となります。
2 具体例と書き方
例えば、「甲の売買契約に基づくA機械引渡請求に対して、乙から錯誤無効(※)の主張がある」という事例で、「要件事実を整理したうえで、甲の請求が認められるか論ぜよ」との出題があった場合を考えます。
この場合の具体的な書き方としては、以下のようなものが考えられます。
「甲の売買契約に基づくA機械引渡請求権の請求原因は、(a)売買契約の成立である。本件では、甲は〇月〇日に、乙からAを〇万円で買うとの約束をしており、(a)は認められる。
次に、乙による錯誤無効の抗弁の要件は、(b)意思表示に錯誤があったこと、(c)当該錯誤が法律行為の要素の錯誤であること、である。では本件で(b)(c)が認められるか・・・」
などといった書き方です。
(さらに、この中で、必要に応じて、例えば「(c)『要素の錯誤』とは・・・と解する」などと要件を解釈して具体化したうえであてはめをすることになります。)
※令和2年施行の改正民法では、錯誤の効果は「無効」ではなく「取消」とされ、また、その条文上の要件も「要素の錯誤」ではなく「錯誤が・・・重要なもの」などと改正されましたが、ここでは現行民法を前提に解説しています。
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