(前の記事の続きです。→その1はこちらです。)
4 補足・・審査基準、処分基準といった行政内部の裁量基準がある場合の位置付け
(1)このような基準の法的性質
前の記事でも少し触れたとおり、行政内部においては、裁量権行使の基準として、審査基準、処分基準といったものが定められていることも少なくありません。
このような場合、これ自体は「裁量処分において、『裁量をどう行使するか』についての行政内部での見解」を定めたものにすぎませんから、法規としての性質はありません。
では、実際に裁量逸脱濫用の検討をする際には、このような審査基準等をどのように位置づけたらよいでしょうか。
(2)裁量逸脱濫用の議論の中での位置づけ
上記のとおり、こういった裁量基準は法規ではありませんから、裁量逸脱濫用があるかの検討の際にはこれを無視して、普通に事実誤認や考慮不尽等の有無を検討すればよいだけのようにも思えます。
しかし、裁量基準が公表されている場合には、原則としてそれに従った裁量権行使がされるべきです。そうでないと、国民の予測可能性を無視したり、平等原則違反になってしまうからです。
そこで、裁量基準の位置づけとしては、「処分が裁量基準に従わずにされた場合、そのことに合理的な理由がない限り、平等原則違反となる」といった形で、裁量逸脱濫用の考慮要素の一つとなる、と考えることができます。
(3)答案での書き方
答案では、例えば
①「考慮不尽、多事考慮・・・等や、平等原則違反があることにより、その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合、裁量権の逸脱濫用したものとして違法となると解する」など、平等原則違反も意識した規範定立をする
↓
②「本件では〇〇という裁量基準が定められているところ、~という理由から、このような基準は、裁量の範囲を超える不合理なものとは言えない。」
↓
③「そして、本件においては、・・・であり、裁量基準の機械的適用を避けるべき合理的理由は見当たらない。」
↓
④「したがって、本件で裁量基準に従わずに本件処分をしたことは平等原則違反であり、その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものといえるから、裁量逸脱濫用の違法がある。」
といった書き方が考えられるでしょう。
5 まとめ
以上述べてきたとおり、行政裁量については、
・裁量逸脱濫用を論じる前に、そもそも「裁量があるのかどうか」を論じる必要があること
・裁量逸脱濫用審査においては、主に判断過程の審査(考慮すべきことを考慮したか、等の審査)を行い、判断代置は行わない、ということ
・裁量逸脱濫用の考慮要素としては、「考慮不尽、事実評価の誤り、平等原則違反」など、さまざまなものがあるが、判断基準定立の際には、自分が答案のあてはめで書きたい要素も含めておくこと
などに留意して、論理の流れを明確にして答案を書くようにすると良いでしょう。
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