行政裁量の司法的統制(裁量逸脱濫用の議論)については頻出論点なので、答案の書き方をしっかり確立し、準備しておく必要があります。
裁量には大きく要件裁量、効果裁量がありますが、今回は、「要件裁量の逸脱濫用」の場面を念頭に解説します。
1 裁量処分の司法審査の対象
具体的な処理方法の話に入る前に、大前提として、「裁量処分の司法審査の際には、いったい何が審査対象となるのか」を説明しておきます。
(1)要点
以下で長々と説明していますが、要点を言うと、「裁量処分の司法審査においては主に判断過程を対象に審査を行い、判断代置は行わない」ということです。
(2)裁量処分の司法審査の規律
ア 行政事件訴訟法30条の規律
裁量処分の司法審査について定めている行訴30条では、「裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその逸脱があった場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる」と規定しています。すなわち、裁量処分については、「裁量逸脱濫用があったこと」が処分の違法事由であり、裁判所の司法審査の対象は「裁量逸脱濫用の有無」ということになります。
ここで注意が必要なのは、「処分の根拠条文の要件該当性自体は裁判所は審査しない」ということです。(より具体的には、行政庁が行政庁なりに根拠法令を解釈して「本件が要件に該当する」、と判断したのなら、その「要件該当性」自体については、裁判所は異論をはさまない、ということです。)
イ 具体例
たとえば、「土地の合理的かつ健全な高度利用を図る必要がある場合には、・・処分をすることができる」といった条文に基づいて裁量処分がされた場合を考えます。
このような場合、他の科目と同じような通常の法適用の思考だと、答案では、「本件で『土地の合理的かつ健全な高度利用を図る必要』(☆)があったのかどうか」を検討したくなってしまうこともあるかと思います。
しかし、上記の行訴30条の規定から考えると、これは誤りです。同条からすると、審査の対象とすべきは、「☆要件に該当するか」ではなく、「裁量逸脱濫用があったかどうか」ですから、あくまで「☆要件該当性アリとした行政庁の判断に裁量逸脱濫用がなかったか」が問題となることに注意が必要です。
以上のとおり、「裁量を認める」ということは、結局、「条文の要件を満たすかどうかの判断自体は行政に任せ、裁判所としては審査しない」ということです。この点について、次に述べる判断代置と対比してはっきりと理解しておく必要があります。
(3)判断代置について
もしも仮に、ある裁量処分の適法性について、「裁判所としては、本件では『根拠法令の要件に該当しない』と判断します。そして、要件に該当しないにもかかわらずされた本件行政処分は、違法です。」という内容の判決を下すとしましょう。
そうすると、結局のところ、「(要件該当性について)裁判所の判断と異なる判断をした行政処分は、全て違法」ということになってしまいます。(このように処分の適法性審査をすることを、「判断代置」などと言います。「裁判所の判断を以て、あるべき行政判断だったとみなす」ということです。)
しかし、このように言ってしまうと、行政庁は「裁判所がするであろう判断」に拘束されることになり、結局、行政庁の裁量は認められない、ということになってしまいます。
裁量のない処分(羈束行為)の場合は、他の科目の法適用と同様にこのような判断代置方式の議論でよいのですが、裁量処分の場合には、判断代置をするのではなく、あくまで裁量逸脱濫用を論じるのだ、ということを意識しておく必要があります。
(4)裁量逸脱濫用審査の内実
以上述べてきたとおり、裁判所は、裁量処分においては「法律上の要件該当性の有無」は審査しないことになりますが、では、「裁量逸脱濫用の有無」の司法審査においては、具体的にどのような事情に着目して審査すればよいのでしょうか。
ここで出てくるのが、判断過程審査という発想です。すなわち、「事実の考慮不尽や、他事考慮、また、事実評価の誤り等があったか」といった判断過程を審査する、ということです。つまり、「裁判所は、本件が要件に該当していたかどうか自体には口を出さないが、判断過程がおかしかったのではないかについては審査する」ということです。
※なお、ここでは試験対策との観点から特に判断過程審査をクローズアップしていますが、裁量逸脱濫用の審査については、この他にも、平等原則違反、比例原則違反等、行政の判断内容に着目するものもあります。
(5)答案で問題提起、結論を書く際の注意点
※なお、ここでは試験対策との観点から特に判断過程審査をクローズアップしていますが、裁量逸脱濫用の審査については、この他にも、平等原則違反、比例原則違反等、行政の判断内容に着目するものもあります。
(5)答案で問題提起、結論を書く際の注意点
したがって、答案上でも以上の意識を正確に示す必要があります。具体的には、
(a)「本件では法〇条の要件を満たさないのではないか」といった問題提起
(b)「法〇条の言う要件Aは、『・・・』を言うと解する。これを本件についてみると、~という事実からすれば、・・・に当たらない。したがって、本件処分は要件非該当にもかかわらずされたものであり、違法である」といった規範定立及びあてはめ
のような書き方は、いずれも不正確です。(特に(b)の書き方などは、致命傷といってよいでしょう。)
(b)「法〇条の言う要件Aは、『・・・』を言うと解する。これを本件についてみると、~という事実からすれば、・・・に当たらない。したがって、本件処分は要件非該当にもかかわらずされたものであり、違法である」といった規範定立及びあてはめ
(c)「以上から、本件では法〇条の要件を満たす/満たさない」といった結論
正確には、
(A)「本件処分の際に法〇条の要件を満たすとした判断に裁量逸脱濫用がないか検討する」という問題提起
(B)「本件では、・・・という事実を考慮すべきであるのにこれを看過しており、裁量逸脱濫用がある」といったあてはめ
(C)「以上から、法〇条の要件を満たすとしてされた本件処分には裁量逸脱濫用の違法がある」という結論
などという書き方になります。
(B)「本件では、・・・という事実を考慮すべきであるのにこれを看過しており、裁量逸脱濫用がある」といったあてはめ
(C)「以上から、法〇条の要件を満たすとしてされた本件処分には裁量逸脱濫用の違法がある」という結論
などという書き方になります。
あまり細かい表現にまで神経質になる必要はありませんが、上(特に(b))のように不正確な書き方をしないように注意する必要があります。
(次の記事に続きます。)
0 件のコメント:
コメントを投稿