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2019年6月30日日曜日

第10回 行政法答案の基本構造 その2


(前の記事の続きです。→その1はこちらです。



2 行政法答案の特質(規範が不明確であること)

(2)一義的なあてはめの困難さ

 前記のように、「処分」のような定義が明確でないものについてはその考慮要素(権利制約の強さ、権利救済の必要性など)も念頭に置く必要があります。 
 しかし、このような考慮要素を指摘したとしても、結局「どの程度の強さの権利制限があればよいのか」「権利救済の必要性がどの程度強ければよいのか」は出てきません。
 これは、そもそも「処分」の判断基準が、一義的なあてはめが可能なほどには具体化されておらず、程度問題として柔軟に判断されていることに由来するものと思われます。
  
 例えば、土地区画整理事業の事業計画決定に処分性が認められた判例(最高裁判所平成20年9月10日大法廷判決・民集62巻8号2029頁:リンクは裁判所ウェブサイト)を見てみます。

 ここでは、「・・・施行地区内の宅地所有者等は,事業計画の決定がされることによって,前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ,その意味で,その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべき・・」などと判示されています。

 判決ではこれ以前の部分で、建築制限や換地処分を受けるべき地位など、「宅地所有者等がどのような制限を受けることになるのか」について列挙したうえで、このように「法的地位に直接的な影響(☆)が生ずる」と言っており、☆を決定的な理由(の一つ)として処分性を認めているものとみられます。

 しかし、☆が認められるには、「どのような制限」が必須要件なのか。例えば、「換地処分を受けるべき地位に立たされることにはなるが、建築制限等は課されない場合」にも☆が認められるのかは判示からは不明ですし、実際問題、「法的地位に直接的な影響」といってみたところで、「法的地位」と「事実上の不利益」との境界や、「直接的」「間接的」の境界はあまりはっきりしません。したがって、実際のあてはめの際に、「なぜ『事実上』ではなく『法的』地位といえるのか?」「なぜ直接といえるのか?」に対してダイレクトに答えるような論拠を挙げるのは困難です

 以上のように、「処分」のように定義に幅のある要件のあてはめにおいては、一義的なあてはめが困難であることを意識する必要があります。(行政法でいえば、他にも「原告適格」要件も同じ類のものといえるでしょう。)


(3)答案でのあてはめのやり方

 では、以上のように、一義的なあてはめが困難な状況で答案に説得力を持たせるにはどうすればよいでしょうか。
 
 一つに、「議論の方向性に着目したあてはめをする」ということが考えられます。より具体的には、「考慮要素を広く指摘して、自分の結論に沿う要素を特に強調したうえで、根拠なしに『だから〇〇を満たす』などと言ってしまう」という書き方などです。
 
 これは、「結論に至るダイレクトな根拠がない」という点は仕方ないこととして受け入れるのを前提にします。その上で、「法的に意味のある事実関係についてはしっかり考慮しましたよ」ということを示すことで、できるだけ説得力を持たせよう、とするものです。明確な根拠は言えなくても、考慮すべき事実を考慮することはできるのだから、せめてそれを論じることで、可能な限りの最善を目指そう、ということです。

 具体的には、例えば上記の☆(「法的地位に直接的な影響」)についていえば、☆該当性を肯定するべき事情と否定するべき事情にそれぞれ触れたうえで、自身の結論に方向性が合致する事情を強調していく、というやり方です。

 ☆を肯定するのであれば、種々の権利制約の内容に触れたうえで、「権利制約が多いこと」「権利制約の程度が強いこと」などを強調したうえで、「以上から、法的地位に直接的な影響を生じるというべきである。」などと言ってしまう、といった書き方が考えられます。つまり、「どこまでの権利制約があれば☆が認められるのかは明言できないから、それ自体は諦めて、☆肯定方向の事情の評価の際に権利制約の強さ・多さ等を強調したうえで、根拠なしに『よって☆を満たす』との結論を出してしまう」といった書き方です。

 例えば「建築制限等・・・の制約を受けることになり、これは所有権への強い制約といえる。また、手続きが進めば換地処分により権利自体が当然に変動することになる点で、所有権に対して決定的な影響を持つものである。以上からすると、法的地位に直接的な影響を生じるといえる。」などといった書き方です。このように議論の方向性を強調すれば、論旨が明確になり、より説得力のある論述になるかと思います。


 なお、このように議論の方向性に着目した論述、というのは憲法の違憲審査基準定立の際にも触れたもので、「一義的な論証が難しいとき」に役立ちます。他にも、民法の無承諾転貸で「背信的行為と認めるに足らない特段の事情」のあてはめの際など、使える場面は少なくありませんので、意識しておくと役立つと思います。


(4)暗記事項について

 前記のとおり、「処分」のような要件については、その考慮要素まで念頭に置く必要があります。
 また、上記のとおり議論の方向性に着目したあてはめをするにしても、答案であまりに常識感覚からズレた判断を下すことは避けるべきです。

 以上から、
・「判例はどのような要素を考慮したか」(=考慮要素の参考としての判例)
・「判例は、具体的に『どの程度の事例で』要件該当性を認めたか」(=『程度問題』の線引きの目安としての判例)
の2点で、重要判例を参考にすべきです。「処分」のような一義的でない要件についての判例知識をインプットする際には、上記2点を意識するのが良いでしょう。



3 まとめ

 行政法の答案でも法適用の基本構造の繰り返しが基本になります。
 その際、「処分」「原告適格」等、一義的なあてはめが困難な要件については、③規範定立/④あてはめの際に、「考慮要素を念頭に置いたうえで」「議論の方向性に着目したあてはめをする」ということを意識することが有益です。




2019年6月27日木曜日

第10回 行政法答案の基本構造 その1

第10回 行政法答案の基本構造 その1


1 行政法答案の基本構造

 行政法においては、取消訴訟の訴訟要件の有無(処分性、原告適格等)、義務付けの訴えの要件、裁量逸脱濫用による違法事由の有無、その他、条文上の要件の検討が直接求められることが多く、このような場合、当ブログで述べてきた法適用の基本構造の繰り返しで答案の大枠ができあがります。

 例えば、わかりやすいところで言うと、「義務付けの訴え」の可否の検討が求められる場合、

①根拠条文である行訴37条の2を指摘する
   ↓
②同1項「重大な損害」、第3項「法律上の利益を有する者」、等の要件を列挙する
   ↓
③(例えば「重大な損害」要件で言うと、)「重大な損害」の判断基準が不明確だから、解釈する。この際、同2項に「回復の困難の程度を考慮するものとし・・・」という判断方法が書かれているので、これも指摘して規範定立する
   ↓
④本件あてはめ
   ↓
(他の要件についても「③規範定立→④あてはめ」を繰り返したうえで)
⑤結論の指摘

となります。これが基本的な形です。行政法でも、基本的にはこれを繰り返せば答案の形になります。


2 行政法答案の特質(規範が不明確であること)


(1)行政法の規範定立の特質(定義の曖昧さと考慮要素の重要性)

 行政法では、条文上の要件の定義がやや曖昧で、それだけではあてはめるのが難しいものがあります。

 例えば、代表的なものは「処分」です。これは、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」をいうと解されています。

 しかしこのような定義を示したとしても、特に後半(法効果性等の要件)部分について、「直接・・権利義務を形成し・・範囲を確定する」とはどのようなことか?「直接」とはどういうことか?権利義務に対してどのような影響があれば、「形成し・・・範囲を確定」することになるのか?が曖昧なままです。

 そこで、法効果性等を判断する際には、その考慮要素として、「生じる権利制限の強さ」「当該行政行為の段階での権利救済の必要性」などを念頭に置いていく必要があります。(このような考慮要素については、答案上の規範定立部分で常に明示する必要がある、とまでは言えませんが、少なくとも念頭に置いている必要があります。そうでないとあてはめができないからです。)

 このように、行政法分野では、「条文の文言の具体的意味(定義)は言えても、それで直ちにあてはめができるとは限らず、さらに具体的な考慮要素を念頭に置いておく必要がある」という場面が少なくありません。


※補足

 なお、上記では「法効果性について詳細な検討が必要となる場合」を念頭に置いています。
 逆に、例えば土地区画整理事業の換地処分のように、その法的効果が「権利の消滅」(土地区画整理法104条1項)や「土地の(所有権の)取得」(同条9項)等のような形で定められ、「権利義務の形成確定」であることが明らかな場合は、端的にその旨を述べて法効果性を認めれば足ります。




(次の記事で、「実際のあてはめのやり方」などに触れます。)


 

2019年6月26日水曜日

第9回 規範の立て方/選び方 その2

第9回 規範の立て方/選び方 その2


(今回は、前回の記事の続きで、定立すべき規範の条件のうち、
①あてはめに耐えるだけの具体的基準が示されていること
②判例・学説のいずれかで採用されている規範であること ←ココ
③判例を考慮したうえでの規範定立であること ←ココ
のお話です。)




2 ②判例・学説のいずれかで採用されている規範であること

(1)本試験での論理性重視

 そもそも論点において見解が分かれるのは、何が正解か一義的に決められないからです。
 また、試験委員はそれぞれの見解を持つ学者・実務家であるところ、司法試験は、どの試験委員に当たっても不公平にならないよう採点されているはずです。
 さらに、出題の趣旨等でも再三触れられているとおり、論理性が重視されています。

 以上から、「論理的な規範定立ができているならば、どの見解を採用するかは点数に影響しない」と考えられます。(※ただし、憲法でよくある「Xのすべき主張を論ぜよ」のように、ポジショントークが求められる場面では別です。第5回その2参照。)
 このような点からは、論理的でありさえすれば、見たこともないような独自の見解で書いても問題ないと考えられます。


(2)判例または学説で書くべき理由

 しかし、以下のとおり、不適切な(無理のある)規範定立を避けるために、答案上では判例学説をベースとした規範を定立すべきです。

 判例・学説の見解は、その論拠及び規範が、すでにこれまでに提唱されたうえで議論されてきています。言い換えると、「学界での批判にさらされたうえで生き残ってきた歴史がある」ということです。

 見解自体に大きな論理矛盾がある、抽象的過ぎて基準として機能しない、典型的に想定される事例をカバーできない、あまりに結論の妥当性を欠く、などといった致命的な問題のある見解はすでに淘汰されてきたと考えられます。したがって、これまでに提唱されてきた学説等を採用することで、そのような危険を避けることができます。

 つまり、単純に独自の見解で議論をすると致命的な問題のある規範を立ててしまう恐れが少なくありませんが、判例学説をベースにした規範を採用することで、これを避けることができる、ということです。
 このように、不適切な規範定立を防止するため、判例・学説ベースでの規範定立が適切であると考えます。

 なお、上記の事情からすれば、あまりに強い批判がされている判例については、自説としての採用は避ける方が無難でしょう。


3 ③判例を考慮したうえでの規範定立であること

 すでに繰り返しているように、司法試験は実務家登用試験ですから、「実務(=判例)がどうなっているか」を無視することはできません。

 裁判官の仕事で言うと、先例重視・判例ベースで判断をしていくのが基本になります(裁判は公務ですから、事件ごと/裁判所ごとに判断があまりにバラバラでは不平等・不当です)。
 また、弁護士・検察官の仕事で言っても、判例を前提に動いている裁判所を説得することが必要になりますから、判例を無視して独自の見解を主張しても、裁判所を説得して勝訴を勝ち取れる可能性はあまりありません。

 以上から、判例への理解を答案上で示すことは重要です。常に判例の見解を採用せよ、ということはもちろんありませんが、大きな論点では、判例と異なる見解を採用する場合には判例の見解にも言及すべきでしょう。


4 結論

 ある要件について規範定立しなければならないときに、判例学説を思い出せなければ自分なりに考えて何らかの規範を立てる、ということもあるかもしれません。
 しかし、このような対処はあくまで最終手段とみるべきです。
 上に述べてきたように、各論点について判例学説を正確に覚え、可能な限り、判例学説どおり(またはその修正で)規範定立するべきでしょう。





2019年6月23日日曜日

第9回 規範の立て方/選び方 その1


第9回 規範の立て方/選び方 その1


 今回は、どのような規範を定立すべきか、というお話です。
 簡単に言うと、「判例学説を正確に覚えて、可能な限り判例学説どおり(またはその修正で)規範定立すればよい」という結論です。この点がすんなり受け入れられる人は、今回の議論を読むメリットはあまりありません。逆に、「判例学説を正確に覚えて書くのが面倒だ。どうして自分で考えた規範ではダメなのか?」という気持ちがある方には参考になると思います。


0 三つのポイント

 どのような規範を立てるべきか、についてはいろいろ整理の仕方があるかと思いますが、私は、
①あてはめに耐えるだけの具体的基準が示されていること
②判例・学説のいずれかで採用されている規範であること
③判例を考慮したうえでの規範定立であること
が最も重要な3点であると考えます。
 その理由を以下述べます。


1 ①あてはめに耐えるだけの具体的基準が示されていること

 第1回でも述べたとおり、条文上の文言はその内容が一義的に明確でない場合が多いため、具体的事例をあてはめるためには文言を解釈してその内容を具体化する必要があります(これは規範定立、などと呼ばれます)。このような目的で規範定立するという事情から、定立する規範は、「具体的事例で当該要件を満たすかどうかの判断ができるだけの具体性のある基準が示されていること」が必要です。

 例えば、住居侵入罪の「侵入」でいうと、どういう場合がこれに当たるかが不明確なので、「住居権者の意思に反する立ち入り」などと解釈して具体化します。これにより、「意思に反するかどうか」という判断基準が得られ、具体的事例でのあてはめが可能となります。

 逆に、仮に「実質的に犯罪的な立ち入りであれば『侵入』に当たると解する」などという基準を立てたとしても、「実質的とはどういう場合か?」「犯罪的とはどういう態様か?」などが曖昧過ぎ、あてはめに耐えることができません。(仮にこのような曖昧な基準を使って裁判所のさじ加減であてはめたうえで有罪判決を下されたとしたら、被告人としては到底納得できないでしょう。)

 このように、規範定立の際には、「あてはめに耐えるだけの具体性のある基準を立てる」というのが基本になります。



(次の記事に続きます。)






2019年6月15日土曜日

第8回 民事訴訟法答案の基本構造 その2


(前の記事の続きです。→その1はこちらです。



(2)明文のない法理論を使う際の思考過程・書き方

 第1回で指摘したとおり、法適用の基本構造は、
①根拠条文(法的根拠)を指摘する
②条文の文言上の要件を列挙する
③文言を解釈して、どのような場合なら当該要件を満たすかの判断基準を定立する
④本件で各要件が満たされるかを判断する
⑤法律が適用されるのならその法律効果を、適用されないのならその旨を宣言する
という流れを取ります。

 明文のない法理論を使う場合に、これを「法適用の基本構造」の思考過程の中で整理するなら、「①法的根拠」の部分に、当該法理論が入ってくることになります。
 
 例えば、弁論主義の第1テーゼであれば、

根拠となる法理論の要件効果を指摘(「当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならない」など)+当該法理論が認められる根拠の指摘(「何故なら、私的自治の訴訟法的反映からである」など)
  ↓
(②判決の基礎にできなくなる要件(「当事者の主張しない事実」)を指摘)
  ↓
③「事実」の範囲が一義的に明確でなく、「間接事実であっても第1テーゼの適用があるのか」が不明なので、要件を解釈して具体化する(「・・であることから、第1テーゼは主要事実のみに適用されると解する」など)
  ↓
本件あてはめ(「本件で裁判所が心証を得た〇〇事実は・・という点で間接事実にすぎず、弁論主義は適用されない」など)
  ↓
結論(「よって、裁判所は、当事者の主張がなくても〇〇事実を判決の基礎とすることができる。」など)

という流れになります(※①の中で要件指摘もすることになるので、このような場合は②は略してかまわないでしょう)。


 ここで注意すべきなのは、「①法的根拠」の部分で、条文ではなく法理論を指摘する場合には、

・「要件(これこれの場合には)」だけではなく、「その効果(こう処理する)」も指摘すること(=上記の例なら、「判決の基礎としてはならない」も指摘する)
・当該法理論が認められる根拠を提示すること

の2点が必要である、ということです。

 単に要件を指摘するだけでは、「その要件を満たしたから何だというのか?どういう処理になるのか?」がわかりませんから、効果まで指摘する必要があります。
 また、法律家のよりどころは、第一次的には、条文です。にもかかわらず根拠なしに法理論を指摘するだけでは、「条文に書かれているわけでもないことを、何をさも当然のように答案に書いているのか?」となってしまいますので、当該法理論の根拠も示す必要があります。

 このように、「条文にない処理の検討をする場合」は、条文に書かれていない以上、その法理論の要件・効果・根拠を答案上に明示する必要があります。
 
 先に述べたように、民事訴訟法においては、条文にない法理論が「①法的根拠」の部分に来ることが少なくありません。その際には、このように「当該法理論による要件と効果」「当該法理論(処理)が認められる根拠」を共に指摘する必要がある、ということを意識しておくことが重要です。


(3)補足

 答案の「書き方」という話からは少し外れますが、上記のように、条文上にない法理論を使って問題を解く場合、その法理論(「条文上は明示されていないが、これこれの状況ではこのように処理する」)を知っていないと答えられない問題がかなり多くあります。
 このような問題の場合、条文上にはあまりヒントがありませんから、もしも知識がなければ手も足も出なくなってしまうことも少なくありません。これは、「どう書くか」以前の、知識の問題です。
 したがって、民事訴訟法においては、「条文上は明示されていないが、解釈論上、これこれの状況ではこのように処理すると解されている」というタイプの知識も特に意識的にストックしていくのが良いでしょう。


(4)まとめ
 
 以上のとおり、民事訴訟法においても「法適用の基本構造」どおりに書くのが基本ですが、その際、「①法的根拠の指摘」の部分で、明文にない法理論がかなり出てくる、ということに注意する必要があります。




2019年6月11日火曜日

第8回 民事訴訟法答案の基本構造 その1

第8回 民事訴訟法答案の基本構造 その1


1 総論と具体例

 民事訴訟法においても、法適用の基本構造のとおりに論じるのが基本です。

 例えば「甲の主張は、『時機に遅れた攻撃防御方法・・・』(民訴157条)に当たるとして却下されないか」を論じる場合には、
①法的根拠である157条の指摘
②「故意または重大な過失」「時機に遅れて提出」「訴訟の完結を遅延させる」要件の指摘
③「『時機に遅れて』とは・・・をいうと解する」などと規範定立
④本件あてはめ
⑤結論
となります。

 しかし、次に述べるように、民事訴訟法では条文から議論をスタートできない場面も数多く出てきます。したがって、この構造を前提にしつつも、注意すべき点があります。



2 民事訴訟法の特質

(1)明文のない法理論の重要性

 民事訴訟法では、明文上の根拠がない論点や法理論が少なくありません。すなわち、条文の個々の文言を解釈することで要件・効果を明らかにするのではなく、「要件・効果ともに解釈から導き出されるもの」が少なくないのです。(こういった法理論は、複数の規定または民事訴訟法全体についての解釈論から導かれる、とみてもよいのでしょうし、伝統的にそう解釈されてきたものが不文の規範となった、とみてもよいのでしょう。)
 
 例えば、代表的なものは、「弁論主義の第1テーゼ」です。これは「当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならない」というものですが、これを規定する明文はありません
 争いはあるものの、反射効や争点効などといった、明文上の根拠のない法理論は他にも少なくありません。

 また、弁論主義や反射効のように明確な呼び名のある法理論以外にも、例えば、

・「訴え提起時にすでに原告に訴訟能力が欠缺していた場合で、第一審の棄却判決に対して、訴訟能力欠缺を看過していたことを理由に訴訟無能力者が控訴した場合に、控訴を不適法却下すべきか」
・「主位請求棄却・予備的請求認容判決に対して被告だけが上訴した場合で、上訴審で主位請求に理由アリとの心証となったときにどう判決すべきか」

など、「これこれの場合(要件)に裁判所としてはどう処理すべきか(効果)」を、条文ではなく解釈論によって決めなければならないものも少なくありません。

 以上のように、民事訴訟法においては、「明文上の根拠がなく、要件効果ともに解釈論から導き出される」というものが少なくないため、条文のみの思考で答案を作ることはできません。これはどの科目でも多少はあることですが、民事訴訟法においては特に頻発するので注意が必要です。


(次の記事で、このような場合の思考過程の整理と、書き方の例について触れます。)





2019年6月5日水曜日

第7回 問に形式的に答える/問に実質的に答える


 今回は、科目を問わず、「問に答える」ということの意味についてのお話です。


1 問に形式的に答える、ということ

 司法試験に限らず、問に答える際にまず大前提として必要なのは、問われたことに対して答える、ということです。
 そして、問われたことに対して答えるためには、問に対応した形式で答えることが必要になります。
 もっと細かく言うと、「『質問文のうち疑問詞が付された部分』を自身の返答に入れ替えたうえで、質問文をオウム返しする」ということです。ややこしい言い方になっていますが、「誰が花瓶を壊したのか?」という質問に対しては、「山田君が花瓶を壊した。」などと返答する、という程度のことです。ここでは、これを「問に形式的に答える」と表現します。

 例えば、国に違憲な行為があってそれによりAが損害を受けた、という憲法事例を考えましょう。
 「Aの国家賠償請求は認められるか?」という設問に対する答案の結論としては、「Aの請求は認められる。」または「Aの請求は認められない。」の二通りしかありえません。
 ここで、もしも答案の結論が「当該国の行為は、違憲である。」で終わってしまっており、請求の当否について示されていないのであれば、問に形式的に答えたことにはなりません。どれほど論理構成、論点・判例の理解、事例へのあてはめ等が優れている答案であっても、問われていることに答えていない以上、本来的には0点です。(※ただし、本試験では途中答案でも一定の評価が与えられていることもあるようですから、実際に0点がつくとは限りません。)

 問に形式的に答える、ということは当たり前のことではありますが、当該設問で問題となる論点部分に目が行き過ぎると、つい忘れてしまうことがあるので注意が必要です。


2 問に実質的に答える、ということ

 上記の事例で言えば、答案にただ1行「Aの請求は認められる。」とだけ書けば、問に(形式的に)答えたことにはなります。しかし、実際にはこれではやはり0点です。司法試験において内容的に(実質的に)求められていることについて、何ら答案上に示されていないからです。

 すでに触れたように、司法試験は実務家登用試験であり、実務家として現実の事例で法適用するための基礎力の有無を試す試験です。ですから、試験では、その能力を答案上で証明する必要があります。ここまですることで初めて「問に実質的に答えた」ということができます。

 実務で法適用するための基礎力とはどのようなものか、もう少し具体的に言うと、大きくは、①「法的三段論法ができること」②「法適用の際に問題となる論点について、判例学説知識を前提にした論理的な議論ができること」③「結論の妥当性を図ることができること」の3点でしょう。

 このうち①は、当ブログで述べてきた「法適用の基本構造」に沿って答案を書けば、示すことができます。
 他方、②については、「論点を発見する能力」「判例学説知識」「論理的記述力」が必要となってきます。(「どうやって論点を発見するのか?」「どう書けば論理的に書いたことになるのか?」などは、また機会があれば触れたいと思います。)
 ③については、判例での相場感覚や常識的感覚等が必要となります。

 これらの基礎力があることを答案上に示すことで初めて、問に実質的に答えたことになります。


3 まとめ

 司法試験においては、問に実質的に答えることに注力するのがメインになりますが、他方で、つまらない失点を防ぐためにも、きちんと「問に形式的に答えられているか」についても常に意識していくべきしょう。
 一言で言うと、「問われたことに対する結論を忘れずにしっかり明示する」ということです。



2019年6月3日月曜日

第6回 憲法で、原告の主張、反論、私見に何を書くべきか

第6回 憲法で、原告の主張、反論、私見に何を書くべきか


 本試験の公法系第1問では、「原告の憲法上の主張を述べよ」「国の反論を想定しつつ・・あなた自身の見解を述べよ」といった指定があり(※ただし、平成30年度の出題などはやや異なる形式のようです)、どこで何をどれだけ書くかを迷うことがあるかもしれません。
 以下に、お勧めの整理の仕方と、その理由を説明します。


1 お勧めの整理の仕方


(1)原告の主張

 第5回で述べた人権処理の手順をすべて書く


(2)被告の反論

 原告の主張の②~⑥のうち、特に反論がある部分について、その反論の要旨だけ書く。この際、憲法解釈論上のどの段階の話をしているのか」(権利性、権利制約、審査基準、あてはめ等のどの話をしているのか)を明示する。
 例えば、原告の主張する厳格審査基準に反論する場合に、「被告としては、規制態様が弱いことや、立法裁量を重視すれば、緩やかな基準、具体的には合理性の基準を採用するべきと反論することが考えられる」などです。


(3)私見

 原告の主張、被告の反論を考慮したうえで、前回述べた人権処理の手順をすべて書く
 このとき、原告被告で特に争いのある部分については、自身がその見解を採用する理由も含めてしっかり書く必要があります。他方、争いのない部分は、「権利性については争いはない」などと簡単に書けば足ります。




2 なぜ上記の整理を勧めるのか(法令違憲事例を想定して説明します)


(1)原告の主張について

 まず、大前提として、(語弊を恐れずに言うと、)「国会が制定する法律は、おそらく合憲」です。それは、国民から選挙で選ばれた議員が、合憲性も含めて議論を重ねたうえで制定するのが法律だからです。

 したがって、原告としては、「おそらく合憲」なはずの法律の違憲性を主張することになりますから、「なぜそれが違憲なのか」を憲法解釈論の思考過程に沿って積極的に主張する必要があります

 そのためには、権利性、権利制約、審査基準、あてはめ等、人権処理の手順をすべて主張すべきです。実際問題、裁判で「法〇条は違憲だと思います」とだけ原告が主張したとしても、争点も何も決まりませんから、裁判所としては判断の下しようもありません。
 以上から、原告は、自己の憲法上の主張を理由あらしめるすべての主張(要するに、第5回で紹介した人権処理の手順①~⑦すべて)をすべきと考えます。



(2)被告の反論について

 本試験の設問文には、「反論を想定しつつ・・・あなた自身の見解を述べなさい」といった形式での出題が多く、あくまで「あなた自身の見解」が主眼であり、反論は、「想定」するにとどめることが求められていると考えられます。
 したがって、紙幅の関係もありますから、反論については、その要点の指摘にとどめるのが適切と考えます。

 ただ、憲法上の主張に対する反論をするわけですから、それが憲法解釈論上のどの段階の主張に対する反論なのかが明確でないと議論がかみ合いません。したがって、権利性、権利制約、審査基準、あてはめ等のどの段階の話をしているのかを明示する必要があります。



(3)私見について

 これは、原告被告両者の主張を考慮したうえでの判断が求められており、いわば「判決を下す裁判所の立場」からの判断を求められていると考えられます。

 このとき、「憲法を事例に適用して、合憲/違憲についての判断(結論)を下す」ということになりますから、その結論に至る憲法解釈論上の思考過程(すなわち人権処理の手順)も全て示す必要があります。

 ただ、裁判は主として争いのある部分についての判断を下す場所ですから、争いのない部分については、簡単に触れておけば十分です。

 逆に、争いのある部分については、原告の主張、被告の主張、第三の見解のいずれを採用するのかについて、しっかりと理由を付して論じる必要があります(でなければ敗訴した側は納得できないからです)。

 以上から、私見では、人権処理手順をすべて書く、争いのない点は簡単に書く、争いのある部分は厚く書く、というのが適切と考えます。




 以上、第5、6回で、憲法論文答案の基本的な書き方の紹介は終わりです。これに沿って書けば、14条以外の人権の法令違憲問題については、答案の形にできるはずです。
 比較的利用頻度が低い14条や適用違憲等の書き方や、実質的に(内容的に)どのようなことを論じるべきか、といった内容面に関することなどは、また別の機会に触れられればと思います。



第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その3

(前のページの続きです。→その1は こちら です。) 4   再現答案、参考答案の読み方②・・ 論証、あてはめ等の実際の書き方/文例 の 仕入れ  答案の法理論的な骨組みが分かったとしても、実際の試験では、見出しだけ並べるのではなく、文章の形で答案を書かな...