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2019年5月30日木曜日

第5回 憲法答案(人権問題・14条以外・法令違憲)の基本構造 その4


(前の記事の続きです。→その1はこちらです。


9 答案の具体的な流れとチェックのやり方

(1)答案の具体的な流れ(定型フォーム)

 例えば、以下のような流れになります(やや思考停止感がありますが、以下の、~、・・・、〇の部分を埋めるだけで、憲法解釈の思考枠組に沿った一応の答案になります)。

①「法〇条は、~する自由を侵害し、憲法〇条に反し、違憲ではないか」
   ↓
②「~する自由は・・・という理由から、憲法〇条で保障される」
   ↓
③「法〇条は、~の際に・・・の条件を課しており、~の自由を制約している」
   ↓
④「憲法上の自由も、公共の福祉による制約に服する。では、いかなる制約なら合憲なのか。違憲審査基準が問題となる」
   ↓
⑤「・・・という点からすると、厳しく審査すべきである。もっとも、~という点を考慮すれば、基準をやや緩め、〇〇の基準を用いるべきと解する」
   ↓
⑥「これを本件についてみる。
ア 目的審査
 法〇条の目的は~であり、これは、・・・という観点からすれば、重要である。
イ 手段審査
 手段についてみると、本件法〇条により、・・・となることからすれば、上記の~という目的達成に資することは否定できない。
 しかし、単に~という目的を達成するのであれば、・・・という、より緩やかな手段によっても達成できるのであるから、本件法〇条は、手段として過剰であり、目的との間に実質的関連性は認められない。」
   ↓
⑦「以上から、法〇条は、憲法〇条に反し、違憲である。」


(2)チェックのやり方

 たくさん文章を書くと、書くべきことを書けているのか自分でも混乱してくることもあるかと思います。そのようなときは、自身の書いた答案の、議論のひとまとまり(段落など)ごとの内容を「一文に要約する」ことをしてみるとよいです。このときに、上記①~⑦の各情報がきちんと入っていれば適切に論じられていますし、情報が足りていなかったり、結論(論旨)がおかしくなっている場合は、不適切です。

 例えば、②のところで、自身の答案が「~する自由は、・・・という理由から、重要な権利である」などとなっている場合、(a)「憲法何条で保障されるのか」という情報が足りませんし、(b)結論(論旨)が「憲法で保障されるかどうか」ではなく「権利として重要かどうか」となっているので、これら2点から、不適切です。(権利の重要性は、審査基準定立のところで指摘すべきことです。)

 自身の答案をチェックする際には、この例のように「段落ごとの要旨を一文に」まとめたうえで、その主語、述語等に着目して、「上記①~⑦の各情報が過不足なく指摘されているかをチェックするのが良いと思います。

 以上で、人権問題・14条以外・法令違憲の処理手順の説明は終わりです。
 次回は、「原告の主張、反論、私見で何を書くべきか」について述べようと思います。


2019年5月27日月曜日

第5回 憲法答案(人権問題・14条以外・法令違憲)の基本構造 その3

(今回も、前回の記事の続きです。→その1はこちらです。

今回は、
①問題とする自由の特定
②上記①の自由が憲法上の権利であることの論証
③上記①の自由が制約されていることの指摘
④憲法上の権利も公共の福祉等の制約に服することの宣言
⑤違憲審査基準の定立
⑥あてはめ ←ココ
⑦結論 ←ココ
の説明になります。)


6 ⑥あてはめ

 一般的には目的手段審査の基準が使いやすいので、これを前提に説明します。


(1)目的審査

 問題文の事例で書かれている立法目的が、必要不可欠か(または、重要か、正当か)を論じます。なぜその目的が重要なのかの論拠は、常に必要、とまでは言えませんが、書けるほうが良いでしょう。(例えば「国民のプライバシー保護のために表現の自由に制約を加える」という場合であれば、「本件規制の目的は、他の国民の憲法上の権利であるプライバシー権を保障することであるから、その重要性を肯定できる」など。)


(2)手段審査

 当該目的を達成するのにその手段が最小限か(過剰な手段となっていないか)に着目して検討します。

 この点、単純に「手段が強いかどうか」ではなく、「目的達成するために最小限の手段かどうか(相当な手段かどうか)」を検討する、ということに注意が必要です。ですから、ある規制が大した人権制約にならないとしても、目的達成のためにより緩やかな手段があるのなら、その規制は最小限度の手段とはいえません。逆に、人権制約自体が大きくなってしまっても、それよりも緩やかな手段では目的達成できないのならば、その規制は最小限度の手段といえることになります。
 あくまでも目的達成の手段として最小限度かどうか」が問題となることに注意してください。

 なお、「最小限度」「実質的関連性」「合理的関連性」それぞれでの具体的なあてはめにおいては、前二者では「過剰な手段となっていないか(LRAがあるのではないか)」、最後については「一応目的達成に役立っているか」といった視点から検討するのが無難でしょう。前二者の処理に違いが出ないのは不自然な気もしますが、そもそも「厳格な合理性の基準」が言う「実質的関連性」の意味内容が不明確なため、この点はやむを得ないと考えています。これ以上の議論については、ご興味のある方は各自研究いただければと思います。


7 ⑦結論

 以上の議論を経たうえで、「本件〇法〇条は、憲法〇条に反し、違憲である」など、結論を明示します。


8 まとめ

 ここまで述べてきた①~⑦が、人権問題の処理の大きな流れになります。
 すぐにこのとおりに書くのは難しいかもしれませんが、手持ちの答案集などで、①~⑦の各議論がどのように書かれているかを確認してみるなどすると、思考過程が整理できると思います。


 次の記事で、具体的な書き方(答案の定型フォーム)、チェックの仕方をまとめます。



2019年5月26日日曜日

第5回 憲法答案(人権問題・14条以外・法令違憲)の基本構造 その2

(今回は、前回の続きです。→その1はこちらです。

今回は、
①問題とする自由の特定
②上記①の自由が憲法上の権利であることの論証
③上記①の自由が制約されていることの指摘
④憲法上の権利も公共の福祉等の制約に服することの宣言 ←ココ
⑤違憲審査基準の定立 ←ココ
⑥あてはめ
⑦結論
の説明です。)


4 ④公共の福祉等の宣言

(1)宣言が必要となる理由
 憲法上の人権は大切ですが、憲法は、13条等において「公共の福祉」による制約を想定していますし、実際、人権同士が衝突した場合、何らかの規制が必要です。
 そこで、人権にも制約がありうる(あらゆる制約が違憲だというわけではない)ということを宣言する必要があります。

(2)具体的な書き方
 ここは、答案上で簡単に述べれば足ります。例えば、「・・の自由も無制約ではなく、公共の福祉(12、13条等)による制約に服する。では、いかなる制約であれば合憲といえるのか、違憲審査基準が問題となる」などとして、審査基準の議論に続くことになります。


5 ⑤違憲審査基準の定立(法令違憲)

(1)他の科目と異なる理由
 違憲審査基準は、憲法答案における規範定立部分に当たりますが、憲法の文言が抽象的であることなどから、他の科目のように具体的な基準を定立するのは容易ではありません。
 そのため、伝統的に提唱されてきた基準から適切なものを選んで用いるのがまずは基本となります。

(2)各種の基準について
 よく使われる基準としては、目的手段に着目した「目的が必要不可欠で手段が必要最小限度の基準(厳格審査基準)」「目的が重要で、手段が目的との間に実質的関連性があるかどうかの基準(厳格な合理性の基準)」「目的が正当で、手段が目的との間に合理的関連性があるかどうかの基準(合理性の基準)」、LRAの基準、その他があります。


(3)基準の立て方について

ア 総論

 基準を立てる際に、どの基準を採用するべきか、というのは、見解によって異なりますし、試験委員も、それぞれに自説を持つ学者・実務家の方々ですから、「どの基準を定立するか」に着目して採点しているとは思われません。「説得的な論拠で基準を定立できているか」が重視されているものとみるべきでしょう。
 ただし、「原告(違憲を主張する)側の定立する基準はなるべく厳しいものとすること」「私見においては、反論も考慮する関係上、原告の主張と同じかそれよりは緩やかな基準とすること」というのが素直な思考かと思います。少なくとも、「特に明確な根拠なく、原告が緩やかな基準を採用している」というのは不適切と評価されても仕方ないでしょう。


イ 論拠について

 憲法以外の通常の科目であれば、当該条文の趣旨を解釈して、それに見合うような基準を立てる、というのが素直なのですが、憲法ではそのような思考が困難です。
 そこで、「基準を厳しくする方向の視点」「基準を緩める方向の視点」という、議論の方向性に着目して論拠を挙げることが考えられます。

 基準を厳しくする方向の視点としては、「民主過程の根幹だから」「傷つけられると回復できないから」「内容規制であって恣意的規制の恐れが大きいから」「規制の態様が強度だから」その他が考えられます。

 基準を緩める方向の視点としては、「経済的自由への制約は民主過程で回復しやすいから」「立法裁量の範囲が広い分野だから」「規制態様が弱いから」その他が考えられます。
(※なお、「規制によって得られる利益の重要度(反対利益の重要度)」など、基準定立の論拠としては使わない事情もあります。この点についてはまた別の機会に触れられればと思います。)


ウ 採用する基準について

 やや思考停止感がありますが、「最低限度の答案の書き方」という観点からは、まずは、
・原告の主張など、「基準を厳しくする理由しか挙げていない場合」
→厳格審査基準等の厳格な基準
・被告の反論など、「基準を緩める理由しか挙げていない場合」
→合理性の基準等の緩やかな基準
・私見など、「基準を厳しくする理由、緩める理由ともに挙げてある場合」
→厳格な合理性の基準等の中間的な基準
といった選び方が良いと思います。

 これを叩き台にして、この先、憲法知識を増やしたり答案作成法に慣れるにつれて、例えば関係判例の定立する規範を参考にした基準を立てるなど、よりブラッシュアップしていくのが良いでしょう。
 なお、伝統的な基準は、基準の名前とその内容を正確に覚えておくのが良いです(例:厳格審査基準=目的が必要不可欠、手段が必要最小限度)。


エ 審査基準定立のまとめ

 上記の通り、基準定立の際には、基本的には「基準を厳しくする理由、緩める理由を考慮して、厳格/緩やか/中間のいずれかの基準を定立する」ことになります。
 具体的には、例えば、「本件自由は・・・の点で重要な権利だから、この点からすると、基準は厳しくすべきである。しかし、その一方で本件では・・・という規制にとどまり、規制の態様は弱いことも考慮すれば、基準をやや緩め、厳格な合理性の基準によるべきと解する」などといった書き方が考えられることになります。
(※上記「・・・」の部分は、例えば、「本件自由は~の点で人格の尊厳そのものの根幹にかかわるものであって」とか、「本件の規制態様は、単に事前の届出を求めるにすぎず」など、問題文の事情に即した具体的な論拠を挙げる必要があります。)


(次の記事に続きます)




2019年5月24日金曜日

第5回 憲法答案(人権問題・14条以外・法令違憲)の基本構造 その1

第5回 憲法答案(人権問題・14条以外・法令違憲)の基本構造 その1


0 議論の大枠について

 第1回で法適用の基本構造について紹介しましたが、憲法(人権問題)は、これがうまく使えない科目です。
 人権問題の処理には独特の手順があり、その大きな流れは以下のとおりになります。(以下、当ブログでは、これを「人権処理の手順」と呼びます。)

①問題とする自由の特定
②上記①の自由が憲法上の権利であることの論証
③上記①の自由が制約されていることの指摘
④憲法上の権利も公共の福祉等の制約に服することの宣言
⑤違憲審査基準の定立
⑥あてはめ
⑦結論

 各手順について、以下具体的に説明します。
 なお、14条(平等権侵害)の場合や適用違憲等の場合は少し議論の流れが変わってきますので、今回は、比較的利用頻度の高い「14条以外の人権問題の法令違憲の処理方法」についての説明です。



1 ①問題とする自由の特定

(1)なぜ「自由の特定」が必要なのか
 憲法問題では通常、「Xの憲法上の主張」が問われますが、そのような主張をするには、「国等の行為が、Xの何らかの憲法上の自由を侵害している」という主張を論じる必要があります。したがって、まずは議論のスタートラインとして、「どのような自由を問題とするのか」を特定する必要があります。

(2)どのような自由を問題とすべきか
 問題とする自由については、「法〇条は、『表現の自由』を侵害しないか」といった抽象的な指摘ではなく、「法〇条は、『〇〇という場所において~の方法で意見を表明する自由』を侵害しないか」など、本件に即した具体的な自由を特定する必要があります。
 その理由は、「ある程度具体的な自由を特定することで、その自由の持つ性質を具体的に検討することができるようになり、それがそのまま審査基準定立の根拠となってくる」からです。つまり、「通り一遍の抽象的議論ではなく、本件に即した具体的検討」をするためには、ある程度具体的に自由を特定する必要がある、ということです。
 具体的にどのような自由を問題とするかは設問によりさまざまなので、問題集等でイメージを持っておくのが良いです。


2 ②権利性の論証

(1)権利性の論証が必要となる理由
 憲法上の主張が問われているわけですから、①で問題とした自由が「憲法上保障される自由」であることを論証する必要があります。

(2)「憲法上保障される自由」とは
 「憲法上保障される自由」と「憲法上保障されない自由」にはいくつか違いがありますが、決定的なのは、「憲法上保障されない自由は(基本的には)法律で制約し放題である」ということ(つまり法令違憲の根拠となりえないということ)です。他方、「憲法上保障される自由は、法律で制約するにも限度がある」ということです。
 したがって、「憲法上保障される自由」にあたるには、それ相応の「権利としての重要度」が必要です。

(3)権利性論証の書き方
 試験対策との関係では、「憲法第3章に列挙されている権利そのものに当たるか、それと同視できる性質をもつ重要な権利かどうか」といった視点で論じるのが良いでしょう。
 よくある書き方を例にすると、「営業の自由は、それが保障されなければ、選択した職業において営業ができなくなるため、職業選択の自由を保障した意味がなくなる。したがって、営業の自由は22条1項で保障される」などとなります。


3 ③自由制約(権利制約)の指摘

 違憲性を議論するためには、まずは当該法令によって権利が制約されていることが必要なので、ここの指摘が必要になります。

 具体的には、「~する際には、法〇条により・・・の条件を課されるため、〇〇の自由は法〇条により制約されている。」などと指摘するのが考えられます。

 ある行為を法令がはっきり禁止している場合は権利制約がわかりやすいのですが、そうではなく、間接的・軽微な負担を課しているにすぎない場合などもあります。そのような場合は、原告の主張する自由が、当該法令によってどのように制約されているかもしっかり指摘する必要があります。




(次の記事に続きます)

2019年5月23日木曜日

第4回 民法答案の基本構造(要件事実整理を含む)

第4回 民法答案の基本構造(要件事実整理を含む)


1 総論

 繰り返しになりますが、民法では、通常は、

①請求の根拠条文を指摘する
②条文の文言上の要件を列挙する
③文言を解釈して、どのような場合なら当該要件を満たすかの判断基準を定立する
④本件で各要件が満たされるかを判断する
⑤法律が適用されるのならその法律効果を、適用されないのならその旨を宣言する

というのが議論の基本構造になります。しかし、問題文に「要件事実を整理して・・・」というような趣旨の指定が付くときには、少し違いが出てきます。

 第2回でも少し触れましたが、このような場合は、上記①~⑥のうち、②の部分が変わってきます。
 より具体的には、「②要件の列挙」の際に、「明文上の列挙の有無」ではなく、「要件事実論に基づく整理」を基準に要件列挙が求められることになります。

 しかし、それ以外の議論の出発点(①)や、その後、整理した要件が認められるかどうかの検討(③④⑤)においては、通常と変わりありません。

 したがって、結局、②の部分の整理の仕方が変わるだけ、となります。



2 具体例と書き方

 例えば、「甲の売買契約に基づくA機械引渡請求に対して、乙から錯誤無効(※)の主張がある」という事例で、「要件事実を整理したうえで、甲の請求が認められるか論ぜよ」との出題があった場合を考えます。

 この場合の具体的な書き方としては、以下のようなものが考えられます。
 「甲の売買契約に基づくA機械引渡請求権の請求原因は、(a)売買契約の成立である。本件では、甲は〇月〇日に、乙からAを〇万円で買うとの約束をしており、(a)は認められる。
 次に、乙による錯誤無効の抗弁の要件は、(b)意思表示に錯誤があったこと、(c)当該錯誤が法律行為の要素の錯誤であること、である。では本件で(b)(c)が認められるか・・・」
などといった書き方です。
(さらに、この中で、必要に応じて、例えば「(c)『要素の錯誤』とは・・・と解する」などと要件を解釈して具体化したうえであてはめをすることになります。)


令和2年施行の改正民法では、錯誤の効果は「無効」ではなく「取消」とされ、また、その条文上の要件も「要素の錯誤」ではなく「錯誤が・・・重要なもの」などと改正されましたが、ここでは現行民法を前提に解説しています。




第3回 民法答案の基本構造(要件事実整理を除く)

第3回 民法答案の基本構造(要件事実整理を除く)


0 総論(議論の大枠について) 

 民法の問題では、「甲は乙に〇の支払いを請求できるか」「甲は乙に〇〇の引き渡しを請求できるか」といったものに答えることが多いと思います。こういった問題での答案の基本構造は、第1回で述べたのと同様、

①請求の根拠条文を指摘する
②条文の文言上の要件を列挙する
③文言を解釈して、どのような場合なら当該要件を満たすかの判断基準を定立する
④本件で各要件が満たされるかを判断する
⑤法律が適用されるのならその法律効果を、適用されないのならその旨を宣言する

ということになります。
 具体的な論述の仕方も、第1回で述べたとおり、

①甲は乙に対し、〇法〇条により、~を請求することが考えられる。
②同条の要件は、「A」である。
③ここで、「A」とは「・・・」をいうものと解する。
④本件でこれが満たされるかを見ると、~という事実から、「・・・」に当てはまるといえる。
⑤よって、〇法〇条の要件が満たされるから、甲の請求は認められる。

といった流れになります。これを繰り返すことで基本的には答案の形になります。
 以下、説明を補足します。



1 ①根拠条文の指摘

 基本的には素直に請求内容とその根拠となる条文を指摘すれば足ります。
 例えば詐害行為取消を請求するのならば、その根拠である424条1項を指摘することになります。具体的には、「甲は、424条1項に基づき、A行為を取り消すことが考えられる」などです。



2 ②条文の文言上の要件の列挙

 これも、素直に条文上の要件を列挙すれば足ります。
 例えば424条であれば、「被保全債権」「詐害行為」「詐害意思」「受益者または転得者の悪意」「財産権を目的とする行為であること」です。



3 ③文言の解釈

 第1回で述べたとおり、その内容が一義的に明確でない要件については、解釈して具体化することになります。
 例えば、424条の「被保全債権」要件であれば、「被保全債権がいつの時点で成立している必要があるのか?(※)」「被保全債権は金銭債権でなくてもよいのか?」といった点が条文上不明ですから、これについて解釈を述べたうえで具体化する必要があります。具体的には、「詐害行為により害された、というためには被保全債権は詐害行為より前に成立していることが必要であると解する。また、責任財産の保全、という本条の趣旨から、被保全債権は金銭債権であることが必要であると解する」などとすることが考えられるでしょう。
 他の要件についても、必要に応じて同様の作業をします。

(注)なお、上記※の被保全債権の成立時期要件については、令和2年施行の改正民法424条3項で、詐害行為より「前の原因」により発生したものであることが明文上の要件とされました。(ここでは改正前条文を前提に説明しています。)




4 ④本件で当該要件が満たされるかの検討(あてはめ)

 見出しのとおり、本件で要件が満たされるかを検討します。
 例えば、上記の「被保全債権」要件でいえば、成立が詐害行為前/後か、金銭債権かどうか、という、通常は判断のつきやすいものなので、素直に本件の事実を指摘してこれに当てはまるかを述べれば足ります。具体的には、「本件被保全債権は〇月〇日に成立しており、本件A行為以前の時点で成立していたといえるし、その内容も〇万円の支払請求権であって金銭債権に当たるから、『被保全債権』要件を満たす」などと書けば足ります。
 この作業を、全ての要件について繰り返せばよいことになります。
 
 なお、要件や問題文の事情によっては、事実を指摘するだけではなく、その事実の持つ意味(事実評価)まで指摘して初めてあてはめができるものもあります。このような場合のあてはめのやり方については、また機会があれば触れられればと思います。



5 ⑤本件での法適用の有無、法律効果の宣言

 上記4の検討で全ての要件が認められる場合は、「当該条文の要件を満たし、請求が認められる」旨を宣言します。
 通常はこのような書き方で答案が終わるのですが、その法律効果の内容について不明確な部分がある(詐害行為取消権でいえば、相対効かどうか、債権者自身への直接の引き渡しが認められるか、など※)場合には、その法律効果まで論じる必要があります。法律効果まで含めて初めて請求の根拠になるわけですから、この点の指摘も忘れずにする必要があります。

(注)なお、令和2年施行の改正民法ではこれらの効力(上記※)の内容について、424条の9、425条で明文化されています。(ここでは改正前条文を前提に説明しています。)


2019年5月22日水曜日

第2回 第1回の補足

第2回 第1回の補足


1 総論

①根拠条文を指摘する
②条文の文言上の要件を列挙する
③文言を解釈して、どのような場合なら当該要件を満たすかの判断基準を定立する
④本件で各要件が満たされるかを判断する
⑤法律が適用されるのならその法律効果を、適用されないのならその旨を宣言する

 前回述べたとおり、法適用の基本構造については上記のとおりです。多くの科目では、基本的にはこの基本構造を繰り返すことで答案を完成させることができます(特に会社法などはこれが顕著です)。
 ただし、例外もあります。以下で具体的にいくつか触れますが、よくわからない、という場合は、「第1回で述べた法適用の基本構造を繰り返せば基本的には答案の形になるが、科目、出題方法によっては異なる議論の流れになることもある」ということだけ理解しておいてください。


2 憲法(人権問題)

 憲法では、「違憲かどうか」を検討することが求められます。
 しかし、憲法の人権の条文は、その内容があまりに抽象的です。例えば21条1項を見ても、「・・・一切の表現の自由は、これを保障する」とあるにすぎず、言ってみれば、「表現の自由は大切だよ」くらいのことしか書かれていません。ですから、前回述べたように、「条文上の文言を解釈して要件を具体化」することがそもそも困難です。
 そこで、憲法では、権利の性質等を考慮して、「どのような場合ならば違憲となるのかの判断基準(違憲審査基準)」を定立する、という方法がとられています(審査基準の具体的な定立方法は後の記事で触れます)。


3 刑法(総論)

 刑法実務・学説においては、構成要件、違法性、責任、と整理する思考枠組が採られています。
 さらに、このうち例えば構成要件であれば、「実行行為性」「因果関係」「構成要件的故意」などの要件に整理して検討するものとされており、単純に「法〇条の要件を満たすか」という形だけで検討するわけではありません。


4 民事訴訟法

 民事訴訟法では、その根幹の一つをなす「既判力」の法律効果が条文上明らかでなかったり、「反射効」「争点効」などという、条文にない法理論が活発に議論されていることなどから、やはり単純に「法〇条の要件を満たすか」という形だけでは検討できない場面が少なからず出てきます。


5 民法(要件事実論)

 民法は、基本的には前記の「法適用の基本構造」の繰り返しで論じられる科目なのですが、出題に「要件事実を整理して・・」という指定がつくと、事情が少し変わってきます。
 具体的には、「要件を列挙」する際(上記②に当たる部分)において、「条文の文言上明示されているものを列挙」するのではなく、要件事実論に従って「請求原因を列挙」「抗弁を列挙」「再抗弁を列挙」・・・という形で整理することになります。
 例えば、415条の履行不能による請求であれば、条文上は「債務者の責めに帰すべき事由」が要件となっていますが、これを要件(請求原因)として指摘するのではなく、抗弁に整理します。このように、単純に「法〇条の要件を列挙してその該当性を検討する」という流れでは適切な議論ができないことになります。



第1回 法適用の基本構造


0 概要

 具体的な事例に法律を適用する際には、基本的な議論の構造(書き方)があります。ここは司法試験論文答案を作成するための大前提と言えるところなので、必ず理解しておく必要があります。
 そもそも答案をほとんど書いてみたことがない人や、答練等で「請求の法的根拠の指摘がない」「どの要件の議論をしているのかが不明である」「規範定立がないままにあてはめをしている」などといった指摘を受けたことがある人には、特に参考になるかと思います。


1 司法試験で問われること

 本試験においては、旧試験時代のような一行問題の出題はなくなり、ほぼ事例問題ばかりが出題されるようになったことからもわかるとおり、現在の司法試験論文では、法律を具体的な事例に適用する能力が問われています。
 これは、「実務においては日々具体的事例に法律を適用することが求められること」、及び、「司法試験が実務家登用試験であること」からも自然なことです。



2 「法律を適用する」ということ/「法的三段論法」について

(1)法律を適用する、ということ

 通常、法律には、「要件」と「効果」が規定されています。ですから、法律を適用する、ということは、「本件が法律の要件を満たすかを検討する(そして、適用されるのならばその法律効果を宣言する)」ということになります。したがって、基本的な議論の構造としては、

①根拠条文を指摘する
②条文の文言上の要件を列挙する
③文言を解釈して、どのような場合なら当該要件を満たすかの判断基準を定立する
④本件で各要件が満たされるかを判断する
⑤法律が適用されるのならその法律効果を、適用されないのならその旨を宣言する

という形になります。どの科目でも基本的にこれが議論の基本構造となります(ただし、憲法をはじめとして、科目や出題によってはやや異なる構造での議論となることがあります。この点は後の記事で触れます)。
 次に述べるとおり、この基本構造の中に、「法的三段論法」が組み込まれています


(2)法的三段論法について

 法的三段論法は、大前提(法規)に小前提(事実)をあてはめて結論を出す、というものです。より具体的には、「法律の要件はこうなっている」(大前提)→「事実はこうなっており、法律の要件を満たす」→「よって当該法律が適用され、その効果を生じる」(結論)という流れをとります。
 これは、上記の流れで言うと、根拠法規に関する①②③が「大前提」、本件事実に関する④が「小前提」、⑤が「結論」、にあたります。
 単に「三段論法」というと3段階の思考で終わるような気もしますが、実際に答案の書き方を考える際には上記5段階の思考で考える方が整理しやすいと思います。



3 なぜ要件解釈(上記③)が必要になるのか

 条文の要件が文言上一義的に明確であれば、要件解釈は必要ありません。極端な例でいうと、仮に「満20歳の誕生日を経過した者は、国に100万円請求できる」という規定があったとすれば、その要件は「満20歳の誕生日を経過したこと」だけですから、具体的事例でこれが満たされるかどうかは一義的に明確です。したがって、何ら解釈は必要ないことになります。

 しかし、通常、条文の要件は、文言上その内容が一義的に明確ではありません。そこで、「本件で本当に当該要件が満たされるのか」を判断する前提として、文言を解釈して、要件を具体化することが必要になってきます。(この際にしばしば、判例、通説、少数説などの各種の考え方が出てきます。「論点」と呼ばれるものの多くは、この要件解釈論に当たります。)

 例えば、民法192条の即時取得による所有権主張を考えてみます。同条による即時取得が認められるには、「取引行為」「平穏」「公然」「動産」「占有の開始」「善意無過失」の要件をすべて満たす必要があります。
 例として、この中の「占有の開始」要件について考えると、その内容は、条文の文言からは明らかではありません。
 具体的には、

・「占有」とはどのような範囲の占有を言うのか?占有改定も含むのか?それとも現実の引渡しが必要なのか?

といった問題が生じます。

 そこで、「192条の『占有』とは、占有改定では足りず、現実の引渡しを受けることを要すると解する」などとその内容を具体化して初めて、本件でこれを満たすかの判断ができることになります。このように、要件を具体化する作業は、「規範定立」などと呼ばれたりします。



4 まとめと具体的な書き方

 以上述べてきたとおり、論文答案を書く際には、上記①~⑤の基本構造を意識して書いていく必要があります。具体的な書き方としては、例えば

①甲は乙に対し、〇法〇条により、~を請求することが考えられる。
②同条の要件は、「A」である。
③ここで、「A」とは「・・・」をいうものと解する。
④本件でこれが満たされるかを見ると、~という事実から、「・・・」に当てはまるといえる。
⑤よって、〇法〇条の要件が満たされるから、甲の請求は認められる。

といった流れになります。

 ①根拠条文→②要件指摘→③要件の具体化→④あてはめ→⑤結論、という大きな流れがポイントです。
 これが法適用の基本構造であり、議論のひとまとまりになります。





第0回 当ブログの趣旨、対象とする読者について

第0回 当ブログの趣旨、対象とする読者について


 当ブログは、自身の司法試験合格経験や、多くの答案添削経験から、司法試験論文で合格するための最低限度の答案の「書き方」を紹介しようとするものです。

 対象としている読者は、司法試験を目指している方で、

・「たくさん答案を書いているのに答練で酷い点数が続く。自分にはセンスがないのかと不安に感じる」
・「知識量は人に負けないのに答練の点数が伸びない」
・「問題集や答練の解説を読んでも今一つピンとこない」
・「一通り教科書は読んだが、何から書いたらいいのか、答案の書き方がまったくわからない」

といった方です。こういった方たちに読んでいただければ参考になるかと思います。

 ただし、当ブログはあくまで「最低限度」の「書き方」に焦点を当てるものなので、「答練ですでに合格点付近まで取れているが、上位合格を目指したい」(=「最低限度」を大きく超える)、「そもそも条文知識、論点知識がまだあまりない」(=「書き方」を知るための前提知識が大きく欠ける)という方にはあまり参考にならないかもしれません。

 また、当ブログは論点への理解を深めることは目的にしていませんので、議論が浅い、最新の議論が反映されていない、と思われる部分もあるかと思います。あくまで答案の「書き方」に特化したブログであることをご理解の上でお読みいただければと思います。


当ブログの内容は、あくまで一合格者・一添削者の見解です。読んでいて納得できたり、試してみて役立ったと実感できた範囲で利用していただければと思います。


第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その3

(前のページの続きです。→その1は こちら です。) 4   再現答案、参考答案の読み方②・・ 論証、あてはめ等の実際の書き方/文例 の 仕入れ  答案の法理論的な骨組みが分かったとしても、実際の試験では、見出しだけ並べるのではなく、文章の形で答案を書かな...