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2019年9月27日金曜日

第16回 憲法答案(14条・法令違憲)の基本構造 その3



(前回の記事の続きです。→その1はこちらです。


7 答案のフォーム例

 後段列挙事由に基づく差別がされている場合を例にすると、以下のような答案の流れになります。

 やや思考停止感がありますが、以下の、~、・・、〇の部分を埋めるだけで、一応の答案になります。


①「法〇条は、~という属性に着目して・・に差別的取り扱いを設けており、これは憲法14条1項に反し、違憲ではないか」
   ↓
②「14条1項は法適用の平等のみならず、法内容の平等も保障している。」
   ↓
③「また、同条は、相対的平等を定めたものであり、合理的差別を許容するものと解する。」
   ↓
④「そこで、合理的差別か否かの判断基準が問題となる。
   ↓
 本件法は・・・という属性に着目して取り扱いを異にしているところ、・・・は14条1項後段列挙事由に該当する。そして、後段列挙事由は歴史的に不合理な差別がされてきた事由を特に定めたものであり、これに着目した差別は違憲の疑いが強いことから、その合理性は厳格に審査すべきである。
 また、本件法により、Xは~という不利益を受けるところ、これは、・・・という点で憲法上重要な権利に対する差別的取り扱いであるから、この点からも、その合理性審査は厳格にすべきである。
 以上から、差別の目的が必要不可欠で、かつ、当該差別を設けるのが必要最小限度の手段といえる場合に限り、合理的差別と認める基準を用いるべきと解する。」
   ↓
⑤「これを本件についてみる。
ア 目的審査
 法〇条が差別を設けた目的は~であり、これは、・・・という観点からすれば、必要不可欠である。
イ 手段審査
 手段についてみると、本件法〇条により、・・・となることからすれば、上記の~という目的達成に資することは否定できない。
 しかし、単に~という目的を達成するのであれば、・・・という、より緩やかな手段によっても達成できるのであるから、本件法〇条は、手段として過剰であり、目的達成のための最小限度の手段とは言えない。」
  ↓
⑥「以上から、法〇条は、憲法14条1項に反し、違憲である。」



※後段列挙事由以外による差別の場合

 後段列挙事由以外による差別の場合の④(審査基準定立)の部分は、例えば以下のような書き方になります。この場合でも、簡単に緩やかな基準にしてしまうのではなく、生じる不利益の性質(差別される権利の性質)なども考慮して説得力を持たせるところがポイントです。

(論述例)
「本件差別は、後段列挙事由による差別ではないから、この点から、緩やかな基準が妥当するようにも思える。
 しかし、本件差別は、・・・という憲法上重要な権利に対して差別的制約を設けるものであり、その権利の重要性にかんがみれば、比較的厳しい基準で審査すべきと解する。
 よって、①本件差別を設ける目的が重要で、かつ、②本件差別という手段が、前記目的との間に実質的関連性がある場合に限り、合理的差別として許容されるものと解する」




8 まとめ

 以上述べてきたとおり、平等権の処理の場合は通常の人権処理の手順とは流れが少し変わってくるので注意が必要です。

 特に、基準定立の際や、あてはめの際などに、「権利制約自体が合理的かどうか」ではなく、「差を設けることが合理的かどうか」の問題を議論するのだ、ということを意識することが重要です。









2019年9月20日金曜日

第16回 憲法答案(14条・法令違憲)の基本構造 その2


前回の記事の続きです。→その1はこちらです。

今回は、平等権処理の手順のうち、

①問題とする差別の特定
②14条が法内容の平等も要求しているか(通常は省略可。)
③14条の平等が相対的平等であること(合理的差別を許容すること)の論述
④合理的差別かどうかの判断基準の定立 ←ココ
⑤あてはめ ←ココ

⑥結論 ←ココ


の解説です。)



4 審査基準の定立

(1)基準定立の論拠について

 平等権侵害の審査基準定立の際には、主に、①属性の性質、②差別を受けることとなる権利の重要性、③立法裁量の広狭、等を考慮します。


ア ①について

 ここは、平等権特有の論拠です。具体的には、後段列挙事由に当たる属性に基づく差別的取り扱いの場合には原則として基準を厳しくするべき、という方向での論拠として考慮します。

 このように基準を厳しくすべきであるといえる理由は、端的に言うと、「かつて不合理な差別をされてきた事由だから、多分、今回も不合理な差別なのだろう」ということです。もう少し丁寧に言うと、「後段列挙事由の各属性は、歴史的に不合理な差別がされてきた属性であり、これに着目した差別は、不合理である可能性が高いから、その合憲性はより厳しく審査すべき」ということです。

 この点は平等権特有の論拠となるので、忘れずに書く必要があります。

 実際に書く際には、「後段列挙事由に該当するかどうか」、また、「(列挙事由そのものには該当しないとしても)歴史的に不合理な差別がされてきた事由かどうか」、といった点に着目して基準を厳しくする/緩める論拠として提示していくことになります。


イ ②③について

 上記①に対して、②権利の重要性、③立法裁量については、通常の自由権の審査基準定立の論拠と概ね同様です。

 重要な権利への差別が生じるのなら基準を厳しく、立法裁量が広いのなら基準を緩く、といった形で議論の方向性を導き出すことになります。



(2)定立する基準について

 最低限度の合格答案を書く、という観点からは、基本的に、通常の自由権の場合の目的手段審査の基準とパラレルに考えればよいです。

 具体的には、例えば、①当該差別を設ける目的が必要不可欠であり、かつ②当該差別を設けることが目的達成のために必要最小限度の手段といえる場合に限って合憲とする、といった基準です。


 ここで注意が必要なのは、問題としているのは、「差別(ある属性に着目して取り扱いを異にしていること)」であり、「権利を制約していること」そのものではない、ということです。つまり、「権利制約自体」の目的手段の合理性を問題としているのではなく、「権利(制約)に差を設けていること」の目的手段の合理性を問題としている、ということです。
 この点の理解を誤ると、あてはめの際に「差を設けること」ではなく「権利を制約すること」の目的手段の合理性を検討してしまうことにもなりかねないので、注意しなければなりません。
 例えば、平等権侵害の審査基準で、「本件権利制約の目的が必要不可欠であり、かつ本件権利制約が必要最小限の手段といえる場合には合憲となる」といった書き方は誤りになります。(「差を設けていること」の合理性を検討できる基準となっていないからです。)



5 あてはめについて


(1)目的審査

 上記のとおり、「差別を設ける目的」の合理性を検討することになります。

 例えば前記の改正前民法900条4号但書の問題であれば、「非嫡出子の法定相続分を(絶対量として)減らす」ということではなく、「非嫡出子の法定相続分と嫡出子のそれとに差異を設けることの目的の合理性を論じることになります。

 この例で言えば、「法律婚の尊重」といった目的が考えられるので、このような目的の合理性を論じることになります。


(2)手段審査

 上記のとおり、「そのような差異を設けるという手段」の相当性を検討することになります。

 例えば上記の改正前民法900条4号但書の問題であれば、(1)と繰り返しになりますが、「非嫡出子の法定相続分を(絶対量として)減らす」ということではなく、「非嫡出子の法定相続分と嫡出子のそれとに差異を設けることとしたという手段の相当性を論じることになります。

 この例で言えば、「非嫡出子の法定相続分を相対的に減らしたところで、その不利益は親ではなく子にかかるものであるから、親が法律婚をするようにとの誘因にはなりにくいし、非嫡出子の発生防止に資するものでもない。よって、前記目的達成のための手段としてそもそも役立たない。したがって、手段の相当性は認められない」などといった書き方をしていくことが考えられます。



6 結論

 これは単純に、自身の基準であてはめをした結果を宣言すればよいです。


(次の記事では、答案の定型フォーム例を紹介します。)


2019年9月14日土曜日

第16回 憲法答案(14条・法令違憲)の基本構造 その1




0 議論の大枠について


 典型的な自由権侵害等の法令違憲答案の流れについては以前の記事で説明しましたが、今回は平等権侵害の法令違憲の場合の答案の書き方の説明です。

 平等権問題の処理は通常の自由権等とやや異なる手順となりますが、その大きな流れは以下のとおりになります。(以下、「平等権処理の手順」と呼びます。)

①問題とする差別の特定
②14条が法内容の平等も要求しているか(通常は省略可)
③14条の平等が相対的平等であること(合理的差別を許容すること)の論述
④合理的差別かどうかの判断基準の定立
⑤あてはめ
⑥結論


 各手順について、以下具体的に説明します。




 問題とする差別の特定

(1)概説

 議論の最初には、まずは差別の特定、すなわち、

・何法何条により(法令)
・どのような属性に基づいて(属性)

・どのような差別が設けられているか(差別内容)

を特定することになります。



2)法令の特定

 法令違憲を主張する以上、平等権を侵害している法令が何なのかを特定する必要があります。これは当たり前のことではありますが、忘れないように注意が必要です。



(3)属性、差別内容の特定が必要な理由

 14条違反の主張は、「特定の属性(何らかのカテゴリー(範疇)に属すること)」を理由に「一定の差別的取り扱いがされている」ことの違憲性を言うものです。

 したがって、「どのような属性に着目して」「どのような差別的取り扱いがされているか」を特定することが議論のスタートラインになります。

 例えば「非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする」としていた改正前民法900条4号但書で言うと、「非嫡出子という属性」に着目して「法定相続分を嫡出子の2分の1とするという差別的取り扱いがされている」ということを指摘することになります。



(4)論述例

 上記から、答案上では、「民法900条4号は、非嫡出子であることに理由に法定相続分を嫡出子の2分の1とするという差別的取り扱いを設けている。原告としては、これは憲法14条に反する、と主張することが考えられる。」などと書くことになります。



(5)補足:どのような属性を問題とすべきか

 後の議論の先取りになりますが、問題とする属性によって審査基準の厳しさが異なってきます。(例えば、「門地」といった後段列挙事由に当たる属性に着目した差別であれば、厳しい基準で審査されることになる、と見るのが原則です。)

 したがって、原告の主張を構成する場合は、基準を厳しくできるような属性を問題とするべきです。(基準を厳しくした方が違憲の結論を導きやすくなりますので、原告には有利です。)



2 法内容の平等が求められることについて

 上記のとおり、ここは略してもよい部分です。

 なぜなら、今時、本気で「14条は法適用の平等のみを定めたものである」などと主張する人はあまりおらず、このような(あまり反論が予想されない)議論については、厚く論じるメリットがないからです(読み手を説得する必要がない論点は厚く論じる必要がない、ということです。)

 そこで、書くとしても、「14条は法内容の平等も要求しているものと解する」などと自説の結論を書くだけでよいでしょう。




3 14条の「平等」が「相対的平等」であること(合理的差別を許容すること)

 ここも特に争いの生じるような部分ではありません。
 そこで、「個々人の差を無視して一律の取り扱いをすることはかえって個人の尊重(13条)に反するので、憲法14条は相対的平等を定めたものであり、合理的差別は許容されると解する。」など、普通の論証を書けば足ります



(次の記事に続きます。)


2019年9月6日金曜日

第15回 あてはめの基本構造 その3


(前の記事の続きです。→その1はこちらです。

前の記事での、

(3)②事実評価が必要な場合
ア 「問題文の事実関係をもとにして、一定の経験則に照らして事実を推認する必要がある場合
イ 「そもそも規範自体が評価的・抽象的であるなどの理由から、各事実がどのような意味・価値を持つのかを指摘する必要がある場合

の続き(イの例)からです。)







【例2 事実の持つ意味・価値を指摘する必要がある場合(イの例)】

 たとえば、「警察が、公道からは見えない被疑者宅の中庭を、近傍の高層マンションの屋上から、高精度の望遠レンズで撮影した」という行為が刑事訴訟法197条の「強制の処分」に当たるかが問題となる場合を考えます。

 規範としては、「意思に反して」「重要な権利を制約する」という見解で考えましょう。

 このうち「重要な権利を制約する」という部分のあてはめを考えます。

 仮に問題文でそのまま「警察は、甲の重要な権利を制約して本件撮影を行った」などと書かれていればあてはめも簡単ですが、そのようなことは、まずありません

 また、このような「重要な権利」というのは評価的かつ抽象的な規範ですから、あてはめの際には、問題文の事実を指摘して、それがどういう意味(価値)を持つ事実なのかを自分なりに評価したうえであてはめることが必須となります。

 そこで、ここでも問題文に書かれている事実をもとにし、一定の経験則や法原則等に照らして、当該事実の持つ意味(価値)を指摘していくことになります。


 この例であれば、以下のような書き方が考えられます。

 「本件で警察は、公道からは見えない被疑者宅の中庭を、近傍の高層マンションの屋上から、高精度の望遠レンズで撮影している。ここで、通常、公道から見えない部分についてはプライバシーへの期待が強いことや、その場所を高所から見られることがあったとしても、あくまで肉眼での視認にとどまり、高精度望遠カメラで撮影されることまで予測することは困難であることに照らせば、かかる撮影をされないプライバシーは重要な権利であるというべきである。よって、本件行為は重要な権利を制約するものと言える。」


 上記下線部を述べることで、「単に事実を指摘する」にとどまるのではなく、「その事実がどのような意味を持つのか」まで導き出し、そのうえで規範にあてはまることを指摘する、という流れです。


 なお、このように「事実の持つ意味(価値)」という評価的なものを導き出す場合は、前の記事で触れた例1のようにその思考過程を答案上で省略してしまうことはできません。なぜなら、このような導出過程は「価値判断」を含むものであり、「価値判断」は答案作成者一人一人のものだからです(すなわち、採点者との間で当然のものとしては共有されていない、ということです。採点者との間で共有できていない事項は、省略してはいけません。)。
 したがって、このような場合、「『どのような事実をもとに』『どのような経験則等に照らして』『その事実がどのような価値を持つと判断したうえで』あてはめをしたのか」を、省略せずに、はっきりと明示する必要があります。




3 まとめ

 上に述べてきたとおり、あてはめは、

①問題文の事実指摘 
②事実評価(場合によっては省略可)
③本件が、定立した規範に文字通りに当てはまることの宣言


という流れを取ります。


 実際の問題では、②の検討が要らないような要件も少なくありませんが、逆に、ここをしっかり書く必要がある場合も多いです。

 ②が必要な場合には、「当該事実がどのような意味(価値)を持つのか」といった事実評価を省いてしまったりしないように注意が必要です。(答練の添削コメント等で「あてはめが単なる事実の列挙となってしまっている」などといった指摘をされた経験がある場合は、特にこの点に注意するとよいでしょう。)



 手持ちの答案集などで、

・どのような事実が指摘されているか(①)
・事実評価のやり方(②)
・定立した規範とあてはめの結論部分との文字通りの対応があること(③)


の3点を確認し、特に②でどのような経験則や価値判断等を用いて事実評価を行っているかを見てみると勉強になると思います。








第15回 あてはめの基本構造 その2



(前の記事の続きです。→その1はこちらです。

前の記事では、

2 あてはめの基本構造

(1)概要
①事実指摘
②事実評価

③定立した規範に文字通り当てはまることの宣言


(2)基本的な考え方

(3)②の事実評価が不要な場合

まで説明しました。今回はその続きです。)




4)②の事実評価が必要な場合

 上記とは異なり、問題文に明示されている事実関係だけではあてはめができない場合もあります。

 このようなことが生じる代表的な場面としては、

ア 「問題文の事実関係をもとにして、一定の経験則に照らして事実を推認する必要がある場合

イ 「そもそも規範自体が評価的・抽象的であるなどの理由から、各事実がどのような意味・価値を持つのかを指摘する必要がある場合

などが考えられます。
(便宜上、典型的な2つの場合に分けて指摘していますが、整理の仕方によれば他の場面も出てくるかと思います。要するに、「問題文の事実そのままでは規範に当てはまるかの判別が不可能であり、『その事実から何が言えるか』まで指摘して初めてあてはめが可能になる場合」ということです。)


 抽象的に言うだけではイメージがしづらいと思うので、具体例を示します。



【例1 経験則に照らした事実推認が必要となる場合(アの例)】

 たとえば、住居侵入罪の「侵入」要件が問題となる場合を考えます。

 規範としては、「『侵入』とは、住居権者の意思に反する立ち入りをいう」という見解で考えましょう。

 仮に問題文に、「甲は、Vの意思に反してV宅に立ち入った」という事実が明示されていれば話は簡単です。問題文の事実をそのまま写して「本件で、甲は、住居権者Vの意思に反してV宅に立ち入っているから、『侵入』にあたる」などと書けばよいことになります。上記で言うと、①(事実指摘)と③(規範に当てはまることの宣言)だけであてはめが終わることになります。

 しかし、実際の問題文では、ここまではっきりと「意思に反して」などとは書かれておらず、例えば「甲は、Vを殺害する目的でV宅に立ち入った」(☆)などという事実指摘にとどまっているのが通常です。

 このような場合、単に問題文の事実(☆)を書くだけでは、「住居権者の意思に反したのか」の判断ができません
 そこで、問題文に書かれている事実をもとにし、一定の経験則に照らして推認できる事実を導き出すことが考えられます。

 この例であれば、「甲は、V殺害の意思を持ってV宅に立ち入っている。ここで、通常、人は自身を殺害する目的の立ち入りを受け入れない、という経験則に照らせば、本件甲の立ち入りは、Vの意思に反していたものと言える。したがって、甲の立ち入りは、『侵入』にあたる」などと書くことが考えられます。

 上記下線部を述べることで、問題文からは明らかでない事実(「甲の立ち入りが住居権者Vの意思に反していた、という事実」)を導き出し、そのうえで規範にあてはめる、という流れです。


 なお、上記下線部の経験則は言うまでもないような当たり前のこととも言えますし、紙幅も限られていますから、そのような場合は、答案では、「甲は、V殺害目的を持ってV宅に立ち入っており、これは住居権者Vの意思に反するといえるから、『侵入』にあたる」などとコンパクトに書いてしまうのも構わないでしょう。

 ただ、「当たり前」とまで言い切れない経験則の場合は、略さずにきちんと明示する必要があります
 また、仮に略すとしても、思考過程としては、上記のように、「『どのような事実をもとに』『どのような経験則に照らして』『何を導き出したうえで』あてはめをしたのか」を意識することが重要です。



(次に続きます。)



2019年9月4日水曜日

第15回 あてはめの基本構造 その1




1 今回の趣旨

 あてはめのやり方がよくわからない、という人もいると思います。例えば、答練の添削などで、「あてはめが事実の羅列になっている」「規範とあてはめが対応していない」などという指摘を受けたりしたことがあるかもしれません。

 当ブログでは、これまで「あてはめ」という言葉を特に断りなく使ってきましたが、あてはめのやり方、すなわち、実際に何をどう言えばあてはめをしたことになるのかには踏み込んでいませんでした。

 今回はここについての話です。



2 あてはめの基本構造


(1)概要

 あてはめにおいては、

①問題文に書かれている事実を指摘する

②当該事実を評価する(①の事実から何が言えるのか、①の事実がどのような意味を持つのかを、経験則等に照らして指摘する)

③事実または事実評価により、定立した規範に文字通り当てはまることを宣言する


というのが基本構造になります。
(要件の性質や当該問題での事実関係によっては、②が不要となる場合もあります。)

 以下、詳しく述べます。



(2)基本的な考え方

 これまでに法適用の基本構造の説明などでも触れてきたとおり、「あてはめ」は、「本件の事実関係が、定立した規範に文字通りあてはまるかどうか」を確認する作業です。

 したがって、あてはめ作業においては、

「①本件の事実を指摘」
したうえで、
「③それが定立した規範に文字通りあてはまることを宣言する」

というプロセスが基本になります。

 本当はこれだけであてはめを終えられれば一番良いのですが、問題文で明示されている事実関係だけでは「定立した規範に文字通りに当てはまるかどうか」の判別ができない場合もあります
 このような場合については、さらに「②事実評価」というプロセスも必要になってきます。


 以下、事実評価の要否に分けて説明します。



(3)②の事実評価が不要な場合

 上に述べたとおり、問題となる要件や、問題文での事実関係の適示の仕方によっては、上記の②(事実評価)が不要となることもあります。

 たとえば、民法の詐害行為取消権の要件のうち、「被保全債権が詐害行為以前に成立したものであること」という部分について考えてみましょう。(令和2年施行民法では、被保全債権が詐害行為よりも「前の原因」に基づいて生じたことが要件とされましたが、ここでは現行民法解釈を前提に解説します。)



 この要件検討においては、「詐害行為がいつされたか」と「本件の被保全債権が何年何月何日に成立したか」が特定できれば一義的にあてはめが可能です。そして、詐害行為日、被保全債権の成立日は、いずれも通常、問題文から特定できますから、答案では単純に①問題文の事実を指摘し、③定立した規範に文字通りに当てはまることを宣言すれば足りることになります。

 具体的には、例えば、「本件詐害行為は平成〇年〇月〇日にされているところ、被保全債権である〇〇債権は、平成〇年〇月〇日に成立している。したがって、本件被保全債権は、詐害行為以前に成立していたといえる」などとあてはめればよいことになります。


 なお、上記の下線部に示しているとおり、あてはめの結論(末尾)部分は、必ず「定立した規範を文字通りに繰り返す」形になっていることが必要です。そうでないと、論理的に書いたことになりません(詳細は、「第11回 『論理的思考』『論理的に書く』とは」の「キーワードのリンク」参照)。この点は、事実評価が必要となる場合でも同様です。



(次の記事に続きます)





2019年9月3日火曜日

第14回 刑事訴訟法答案の基本構造 その4

(前の記事の続きです。→その1はこちらです。



(3)伝聞法則・伝聞例外の答案上での実際の書き方

 伝聞法則の基本構造・伝聞例外の思考整理の仕方は前記のとおりですが、これだけでは実際の書き方のイメージがわきにくいかもしれません。

 答案での書き方は、これと決まった形があるわけではありませんが、大きく分けて、

伝聞証拠の定義及びそれが原則として証拠排除されることの指摘
どの供述部分を問題とするのかの特定
・当該部分が伝聞か非伝聞かの検討
・伝聞に当たるならば、伝聞例外の条文特定及び要件検討

(・再伝聞がある場合は、324条適用ないし準用の可否の指摘)

という4つ(または5つ)の情報が含まれている必要があります。

 前記の例で言えば、以下のような書き方が考えられます。各要件の論証部分など、省略している部分もありますが、特に太字で示した部分(議論の起こし方、議論のつなぎ方など)に着目すると参考になると思います


______事例(確認のため再掲)_________

法廷に提出された証拠:
「『AがVに日本刀で切りつける場面を撮影した防犯カメラ映像を見た』とBが言っているのを聞きました」という内容のCの供述書

立証趣旨:
「AがVに日本刀で切りつけたこと」

______論述例_________________



(1)Cの供述書全体について、伝聞証拠として証拠能力が否定されるのではないか。320条1項に当たるか問題となる。


 供述は知覚・記憶・叙述の過程を経て作成されるところ、その各過程には誤りの恐れがある。そのため、その供述を要証事実認定のための証拠とするためには、かかる誤りの有無を反対尋問によってテストする必要がある。
 そこで、320条1項によって原則として証拠能力を否定されることとなる伝聞証拠とは、反対尋問を経ない供述で、要証事実の立証には供述内容が真実であることが必要となるものを言うと解する。 


 本件では、・・・であることからすれば、Cの供述書の内容は、要証事実の立証にはその供述内容が真実であることが必要であるといえるから、伝聞証拠に当たり、原則として証拠能力は認められない




(2)では、伝聞例外が認められないか。321条1項3号を検討する。
→各要件の検討

(3)以上から、Cの供述書全体は、伝聞例外に当たり、証拠能力が認められる。



(1)もっとも、Cの供述にはBの「・・・」という供述が含まれているところ、この部分がさらに伝聞証拠に当たるのではないか。
 この点、・・・であることからすれば、Bの「・・・」という供述内容は、要証事実の立証にはその供述内容が真実であることが必要であるといえるから、伝聞証拠に当たる。

(2)かかる再伝聞の場合も各伝聞過程について伝聞例外が認められる場合には、伝聞例外が認められる(324条)
 そして、324条は公判「供述」について規定するものであるが、本件ではCの供述書は上記のとおり伝聞例外に当たり、伝聞法則との関係ではCが法廷で供述したのと同等に扱われることから、かかる供述代用書面の場合にも、324条2項が準用されるものと解する

(3)では、このBの「・・・」という供述部分に伝聞例外が認められるか。321条1項3号を検討する。
 →各要件の検討

(4)以上から、Bの供述部分は、伝聞例外に当たり、証拠能力が認められる


3 なお、Bの供述内容には、防犯カメラによる撮影・再生過程が含まれているが、これは機械的に行われるものであるから、供述ではない。したがって、この部分は再伝聞には当たらない。


4 以上から、Cの供述中のBの供述部分について、証拠能力が認められる。


以上
____ここまで論述例_______________








4 まとめ

 以上のとおり、刑事訴訟法においても「法適用の基本構造」どおりに検討するのが基本ですが、伝聞法則等、独特の思考整理を要するものもありますので、条文をスタートラインにおきつつ、思考を整理しておくとよいと思います。




第14回 刑事訴訟法答案の基本構造 その3


(前のページの続きです。→その1はこちらです。


(2)B 伝聞例外に当たるかの検討


ア 伝聞例外の基本構造

 これは、基本的には各伝聞例外の条文上の要件を一つずつ検討すればよいです。要件を列挙して各要件を検討する、という、法適用の基本構造」どおりの処理です。

 例えば321条1項3号であれば、「供述不能」「必要不可欠」「絶対的特信情況」(さらに場合によっては「署名押印」)の要件について、必要に応じて規範定立してあてはめる、という流れになります。




イ 再伝聞、再々伝聞・・の場合の思考整理について


(ア)概説

 再伝聞が含まれる場合の伝聞例外については混乱しやすい部分があるので、思考整理方法について触れておきます。すでに自分なりの整理方法が確立されているのであれば別ですが、そうでない場合は、参考になるかと思います。
(なお、ここでは、各伝聞過程の伝聞性が、伝聞例外によって払拭されるのであれば、324条の適用または準用により再伝聞等も認められる、という見解を前提に議論します。)


 大まかに言うと、

・伝聞過程の有無を検討し、各伝聞過程ごとに伝聞例外で橋渡ししていく
・伝聞例外で橋渡ししていくのは、「法廷に一番近い供述から」順番に行う

という思考整理です。



(イ)伝聞過程の特定

 伝聞法則の趣旨は、「その供述成立に至る知覚記憶叙述の中に過誤が生じる恐れがあり、その有無を反対尋問でチェックする必要があるから、それができない伝聞証拠の証拠能力を原則として否定する」というものです。

 したがって、伝聞過程を特定する際には、「その供述成立に至る知覚記憶叙述の中に過誤が生じる恐れがあり、その有無を本来は反対尋問でチェックする必要があるような過程」かどうかに着目することになります。
(ちなみにこれは、条文で言うと320条1項の『供述』文言の要件該当性の問題です。通常ここまで文言にこだわって答案上に示す必要はありませんが、意識はしておくと良いです。)


 では、再伝聞、再々伝聞等が存在する場合に、実際にどのようにして伝聞過程を特定したらよいでしょうか。上記の着眼点からすると、「一番最初の原体験から法廷供述(または供述書面)に至るまでの間に介入している、知覚記憶叙述の過程を探す」という方法をとることになります。


 例として、「『AがVに日本刀で切りつける場面を撮影した防犯カメラ映像を見た』とBが言っているのを聞きました」という内容のCの供述書がある場合を考えてみましょう。

 この供述の内容となる一番最初の原体験は「AがVに日本刀で切りつけた」というものですが、ここから法廷に提出されたCの供述書までには

(ⅰ)防犯カメラが現場を知覚・記録・再生
(ⅱ)Bが防犯カメラ映像を閲覧し、それを知覚・記憶・叙述して発言
(ⅲ)CがBの発言を聞き、それを知覚・記憶・叙述して書面化


という各過程を経ます。

 このように分解したうえで、伝聞過程がどこにあるかを調べましょう。

 (ⅰ)については、知覚・記録・再生は機械的に行われるものであり、類型的に過誤の恐れはない、といえますから、ここは伝聞過程には当たりません。


 (ⅱ)(ⅲ)については、B、Cがそれぞれ人力で知覚記憶叙述するわけですから、ここに過誤の入る恐れがあり、反対尋問によってこれをチェックする必要があります。
 より具体的には、(ⅲ)であれば、「本当にCはそのようなBの発言を聞いたのか?」という点で知覚記憶叙述の過誤が入りえますし、(ⅱ)であれば、「本当にBはそのような防犯カメラ映像を見たのか?」という点で知覚記憶叙述の過誤が入りえます。したがって、この二つは伝聞過程にあたります。
 そこで、この二か所を伝聞例外によって橋渡しする必要があることになります。



(ウ)伝聞例外の議論の進め方

 こういう場合には、法廷に一番近い伝聞過程から順番に伝聞例外を検討するとよいです。

 上記の例では、まず、「Cの法廷供述の代わりのCの供述書」というところが伝聞過程となります(Cは法廷には出てこないから、「本当にCはそのようなBの発言を聞いたのか?」を反対尋問でチェックできない、ということです)。したがって、321条1項3号の伝聞例外が認められないかを検討することになります。

 そして、仮にこの部分が伝聞例外によって橋渡しできたとすると、Cが法廷で「『AがVに日本刀で切りつける場面を撮影した防犯カメラ映像を見た』とBが言っているのを聞きました」と供述したのと同等になります

 すると、次に「Bの法廷供述の代わりのCの法廷供述」というところの伝聞過程が残ります(Bは法廷には出てこないから、「本当にBはそのような防犯カメラ映像を見たのか?」を反対尋問でチェックできない、ということです)。したがって、これについて、324条準用(※)、321条1項3号によって伝聞例外を検討することになります。
(※なお、直接適用とはならない理由については、次のページの答案例で示します。)

 この二つが橋渡しできると、このCの供述書及びその中のBの供述部分に証拠能力が認められることになります。

 この例で触れたように、伝聞例外が認められた場合には、(伝聞法則との関係では、)「その内容の法廷供述がされたのと同等になる」と考えると思考が整理しやすいと思います。



(エ)補足

 ところで、今回の例では「Cの供述書」を使いましたが、これが「Cの供述録取書」だとしたらどうなるでしょうか。

 供述を録取する過程を考えると、

・Cが話した内容を警察官等が聞いて、書面に書く


という過程を経ることになります。

 すると、「警察官がCの話を知覚・記憶・叙述して書面に書く」という過程が加わってきます。そこで、この部分の伝聞性(本当に警察官はCが話したとおりに書面に書いたのか?)が問題になりますが、この点は、321条1項柱書の「署名押印」によって正確性が担保されている、と考えればよいです。


(オ)小括

 以上述べてきたとおり、伝聞例外の検討の際には、どこに伝聞過程があるのかを特定し、各過程を伝聞例外によって橋渡しする、という意識で思考を整理することが有益です。


(次のページで答案での具体的な書き方に触れます。)


第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その3

(前のページの続きです。→その1は こちら です。) 4   再現答案、参考答案の読み方②・・ 論証、あてはめ等の実際の書き方/文例 の 仕入れ  答案の法理論的な骨組みが分かったとしても、実際の試験では、見出しだけ並べるのではなく、文章の形で答案を書かな...