記事タイトル一覧は、右の「記事一覧」リンク、または「ブログアーカイブ」の►ボタンから御覧ください。 

2019年7月18日木曜日

第12回 刑法答案の基本構造 その1

第12回 刑法答案の基本構造 その1


1 法適用の基本構造の修正点

 刑法においても、法適用の基本構造の繰り返しで答案を書くのが基本となります。
 ただ、刑法においては、民法等のように「すべての経緯を考慮したうえでの現在の権利関係」を検討するわけではなく、「ある行為についての罪責」を検討する関係上、「行為の特定」が必要になります。
 また、刑法においては、独自の思考の整理方法があるため、「条文(各罰条)どおりに機械的に要件検討する」という書き方ではうまくいきません。
 
 これらの点について以下で詳しく述べます。



(1)行為の特定について


 刑法は、「ある行為について、それが刑法の要件を満たせば、該当する刑罰という法律効果が与えられる」という法律です。したがって、議論のスタートラインは「ある行為」の特定、ということになります。
 答案上でも、例えば
「第1 甲の罪責
  1 甲がVの腹部をナイフで刺した行為について
    この行為について、殺人罪(199条)の成否を検討する。
  (1)実行行為性・・・     」
など、検討の最初には、必ず「どの行為を問題とするのか」を書く必要があります。これは当たり前のことですが、忘れないように注意が必要です。



(2)刑法独自の整理について


ア 伝統的な思考整理方法

 刑法においては、構成要件・違法性・責任、という伝統的な整理の仕方や、構成要件だけとっても「実行行為性」「因果関係」など、条文上明示されていない要件があります。したがって、「単純に根拠条文の要件を検討する」というスタンスではうまくいきません。

 検討すべき要件は、具体的には「実行行為」「因果関係」「結果」「構成要件的故意」「違法性(正当防衛、緊急避難、正当行為に当たらないこと)」「責任能力」「期待可能性」・・など、多数にのぼります。


 なお、理想的には、こういった要件をすべて検討するのが良いのでしょうが、時間・紙幅の限界もありますし、争いが生じないような要件(読み手を説得するまでもない要件)まで詳しく論じてもあまりメリットがありません。
 そこで、実際には、特に問題となる要件について詳しく検討していくことになります。




イ 総論系の議論と各論系の議論の整理について


 答案を書く際にここで困っている人はあまり多くないかとは思いますが、一応説明しておきます。
 
 一般論としては、総論が通則的な議論で、各論では主に各罰条についての構成要件とその他の特則が議論されています。
 ですので、「各論で議論されている要件については各論に従って書く」「それ以外の要件は、総論に従って書く」という処理になります。


 例えば強盗の実行行為については各論の議論で「財物奪取に向けられ、犯行抑圧するに足る程度の暴行または脅迫により、財物の占有を自己または第三者に移すこと」などと定義されているので、これに従って規範定立します。
 他方、「殺人」の実行行為は各論の議論では定義されていないので、総論の議論に従い、「死亡結果を発生させる現実的危険性を持つ行為」などと規範定立して検討することになります。
 犯罪ごとに対応の方法(参照する議論)が異なるのは奇妙に見えるかもしれませんが、ここはあまり気にしなくてよいでしょう。(結果犯のうち、殺人罪のように行為類型を具体的に定義しづらいものについては原則論である「構成要件的結果発生の現実的危険性を持つ行為」という要素をそのまま実行行為の定義として用いている、などと言っても良いのでしょうが、深入りはしないでおきます。)


 実行行為以外の要件についても同様で、正当防衛や未遂犯、共犯等、「各論(各罰条)にない要件」が問題になるときは、適宜総論の議論を参照して論じることになります。



ウ まとめ


 以上のとおり、
(a)議論のスタートラインである「行為の特定」が増えること
(b)要件整理の際に各罰条の文言を読むだけでは足りず、刑法各論・総論の全体を見渡したうえで整理する必要があること

の2点が、法適用の基本構造からの修正点です。



(次の記事に続きます。次の記事では、論述のコンパクト化などについて触れます。)


0 件のコメント:

コメントを投稿

第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その3

(前のページの続きです。→その1は こちら です。) 4   再現答案、参考答案の読み方②・・ 論証、あてはめ等の実際の書き方/文例 の 仕入れ  答案の法理論的な骨組みが分かったとしても、実際の試験では、見出しだけ並べるのではなく、文章の形で答案を書かな...