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2019年7月5日金曜日

第11回 「論理的思考」「論理的に書く」とは その2



(前回の記事の続きです。→その1はこちらです。



3 詳説(続き)


(3)キーワードのリンクの徹底(省略の可否)について

ア 法的三段論法について

 「法的三段論法では必ずキーワードをリンクさせる(規範とあてはめを文字通り対応させる)」ことが重要です。

 例えば、憲法で「目的が必要不可欠、手段が最小限度の基準」を定立したときに、あてはめの手段審査の最後が「・・・であるから、本件規制は相当な配慮がなされているといえる。」で終わっている場合は、キーワードがリンクしておらず、あてはめとしての得点は、本来的には0点です。
 このような基準を定立した場合は、あてはめの結論は、必ず「・・・であるから、本件規制は最小限度の手段といえる/最小限度の手段を超える」のいずれかにする必要があります。


イ 論点(規範定立)の論証について

(ア)典型論点の場合

 論点の論証においてもキーワードは基本的にリンクさせますが、時間・紙幅の関係上コンパクトな論証にとどめる場合は、常にキーワードのリンクを明示することは難しい面もあります。
 例えば、「窃盗においては、毀棄罪との区別のため、利用処分意思を要すると解する」という論証を考えてみます。
 この論証は、一応の論述のような気もしますが、特にキーワードはリンクしていません。本当は「窃盗=毀棄罪との区別が必要」「毀棄罪との区別ができる要件=利用処分意思」にも触れた方が良いのですが、ここを省略して「毀棄罪との区別のため」という一言で済ませているわけです。
 しかし、判例学説等の一般的な見解(論証)に従って書く場合は、キーワードのリンクにはあまりこだわらなくてよいでしょう。


(イ)典型論点以外(現場思考型論点)の場合

 他方、典型論点の論証にとどまらず、当該事例ならではの論証をする場合には、キーワードのリンクを示す必要があります。代表的なものは、違憲審査基準の定立です。



ウ 区別の理由

 以上のように考える理由は、以下のとおりです。

 まず、①近年の出題では大量の検討事項が与えられることが多く、何もかも完全に書くことは困難なので、メリハリをつけた論述が必要です。

 また、②問題となるのが典型論点の場合、試験委員は当然、一般的な見解を把握しているので、受験生としても「その論証をきちんと知っている」ことさえ答案上に示せれば、一定の理解を伝えられることが期待できます。したがって、あまり厳密な論理性まで示す必要はないといえます。

 他方、③違憲審査基準の定立のような、当該事例ならではの(アドホックな)論証をする場合、どのように論証していくかについて、試験委員と受験生との間に何ら共通認識はありません。したがって、「なぜそう考えるのか」の論拠がわかるように、キーワードのリンクを示して論証する必要があります(「権利が重要だから厳しく審査すべき」→「厳格審査基準」など)。

 また、④「当該事例の事実関係が当該規範に当てはまるかどうか」は、試験場で初めて検討することであり、これもやはり受験生と試験委員との間に共通認識はありません。したがって、答案上でキーワードのリンクを明確に示して初めて、「当てはまるかどうか」を言えることになります。「自分が立てた規範に責任を持ち、本件事実がその規範に当てはまることを明確に示す必要がある」ということです。

 以上①②③④を合わせ考えると、典型論点の論証の部分でキーワードのリンクにこだわるよりは、あてはめを充実させたり、他の論点を拾ったりする方が優先されるべきだといえます。


(4)小括

 以上から、

法的三段論法ではキーワードのリンクを明示する(定立した規範に責任を持ち、規範と文字通りに対応したあてはめをする)
典型論点以外の論証(当該問題の事例ならではの論証)においてもキーワードのリンクを省略しない
・典型論点の論証については、論証をコンパクトにするためにキーワードのリンクを省略してしまうのも多少はやむを得ない

という方針が適切だと考えられます。

 ただし、このような議論についてあまり細かく考え込んでしまうと、かえって答案を書きづらくなってくるかもしれません。
 そこで、実際に答案を作成する際には、さしあたり、「できるだけキーワードをリンクさせる意識を持ち、再現答案集や問題集の参考答案くらいの丁寧さで書く」というような意識で書けばよいでしょう。



(次の記事に続きます)




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