(前回の記事の続きです。→その1はこちらです。)
2 記述のコンパクト化について
(1)コンパクト化の必要性
近年の司法試験刑法では、問題となる行為や犯罪が大量にあり、これを限られた時間内で処理する関係上、記述のコンパクト化が必要になります。
(2)どこをコンパクト化するか
ア 検討事項の選別について
当該事案で特に問題となるような犯罪、要件に焦点を絞って検討することになります。
具体的には、
・殺人等の重大犯罪が成立する余地があるかどうか
・見解によって結論が大きく変わるような要件かどうか
・問題文で多くの関係事情が具体的に述べられているような犯罪、要件かどうか
などといった点を考慮して、重点的に検討する犯罪、要件を選別していくことになります。
イ 規範定立、あてはめのコンパクト化について
「本件事実関係が当該要件を満たすか」の部分(あてはめ部分)については、試験場で初めて検討することですから、ある程度丁寧に事実関係を拾って規範との対応を示して論述する必要があります。したがって、ここは削りにくいところがあります。
他方、規範定立部分での典型論点の論証については、相当程度削ることができます。それは、前回の「論理的に書く」の話のところでも触れたとおり、ある程度削っても、「当該論点への理解は試験委員に伝えられる」(厚く書く優先度が低い)からです。
(3)「規範定立→あてはめ」の具体的なコンパクト化の方法
具体的な書き方としては、以下のようなものが考えられます。
①・・・の要件は、~と解する見解がある。しかし、・・・という理由から、これは妥当でない。思うに~という理由から、・・・要件は、〇〇を言うと解する。これを本件についてみるに~であるから、〇〇を満たす。
(反対説→自説の論拠→規範定立→本件あてはめ)
②・・・の要件は、~という理由から、〇〇を言うと解する。本件では~なので〇〇を満たす。
②・・・の要件は、~という理由から、〇〇を言うと解する。本件では~なので〇〇を満たす。
(自説の論拠→規範定立→本件あてはめ)
③・・・の要件は、〇〇を言うと解する。本件では~なので〇〇を満たす。
③・・・の要件は、〇〇を言うと解する。本件では~なので〇〇を満たす。
(規範定立→本件あてはめ)
④本件では~であり、〇〇に該当するから・・を満たす。
④本件では~であり、〇〇に該当するから・・を満たす。
(本件あてはめのみ)
(※④についてはこれだけだとイメージがわかないかと思うので例を書くと、「本件で甲は殺害目的を秘しており、住居権者Vの意思に反して立ち入っているといえるから『侵入』に該当する」などです。)
下に行くほどにコンパクト化を進めた書き方になっていきます。最もコンパクト化を進めた④に至っては、規範定立自体を省いてしまっていますが、「本件特有の事情(殺害目的)」と、「一般的見解による規範(住居権者の意思基準)を知っていること」が最低限伝わるような書き方となっています。
実際の答案では、②③④のいずれかを使っていくことになると思います。どれを選ぶかについては、「罪の重さ」「問題となる事実関係の多さ・複雑さ」「採用する見解によって結論に差が出るか」など、その論点の重要度を考慮して決めるのが良いでしょう。
ただ、目安としては、
・基本的に②を使う(自説の論拠を簡単に書く)。
(※④についてはこれだけだとイメージがわかないかと思うので例を書くと、「本件で甲は殺害目的を秘しており、住居権者Vの意思に反して立ち入っているといえるから『侵入』に該当する」などです。)
下に行くほどにコンパクト化を進めた書き方になっていきます。最もコンパクト化を進めた④に至っては、規範定立自体を省いてしまっていますが、「本件特有の事情(殺害目的)」と、「一般的見解による規範(住居権者の意思基準)を知っていること」が最低限伝わるような書き方となっています。
実際の答案では、②③④のいずれかを使っていくことになると思います。どれを選ぶかについては、「罪の重さ」「問題となる事実関係の多さ・複雑さ」「採用する見解によって結論に差が出るか」など、その論点の重要度を考慮して決めるのが良いでしょう。
ただ、目安としては、
・基本的に②を使う(自説の論拠を簡単に書く)。
・どうしても余裕がない場合には③(自説の論拠は省いてしまう)を使う。このとき、住居侵入等の、特に争いもなく満場一致の結論が出るような場面では、④(規範定立も省いてしまう)を使う。
等が良いのではないかと思います。
等が良いのではないかと思います。
ここは結局程度問題であり、「みんながどのくらい書くか」(どのくらい書けばみんなに書き負けないか)の問題になるところなので、これが正解、という風に決めるのは困難です。上記の要素などを意識しつつ、答案集などで相場観を養っていくのが良いでしょう。
3 見解、結論の選択について
出題の趣旨等を見る限り、基本的にはどの見解、どの結論をとるとしても、論拠が説得的であれば構わないはずです。
ただ、刑法においては、構成要件、違法性、責任の各要件は単純な並列ではなく、「順番」に検討するような思考様式があります。
したがって、例えば、「違法性阻却にかかわる事情が問題文に出ている」にも関わらず、構成要件該当性を簡単に否定してしまうと、違法性の議論がしづらくなってしまいます。(「以上から、実行行為性は否定される。なお、仮に構成要件が満たされると仮定したとしても、・・・により違法性が阻却されないか」といった書き方はやや不自然です。)3 見解、結論の選択について
出題の趣旨等を見る限り、基本的にはどの見解、どの結論をとるとしても、論拠が説得的であれば構わないはずです。
ただ、刑法においては、構成要件、違法性、責任の各要件は単純な並列ではなく、「順番」に検討するような思考様式があります。
このような観点から、答案政策上は、なるべくたくさんの事実関係を検討できるような見解・結論を採用していくのが良いでしょう。
4 まとめ
刑法答案でも法適用の基本構造に従って書くのが基本ですが、上記のとおり、要件整理やコンパクト化等、刑法特有の注意点もあるので、答案を書く際や、答案集を読む際などにはこういった点も意識しておくとよいと思います。