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2019年7月25日木曜日

第12回 刑法答案の基本構造 その2


(前回の記事の続きです。→その1はこちらです。


2 記述のコンパクト化について

(1)コンパクト化の必要性

 近年の司法試験刑法では、問題となる行為や犯罪が大量にあり、これを限られた時間内で処理する関係上、記述のコンパクト化が必要になります。



(2)どこをコンパクト化するか

ア 検討事項の選別について

 当該事案で特に問題となるような犯罪、要件に焦点を絞って検討することになります。
 具体的には、
・殺人等の重大犯罪が成立する余地があるかどうか
・見解によって結論が大きく変わるような要件かどうか
・問題文で多くの関係事情が具体的に述べられているような犯罪、要件かどうか
などといった点を考慮して、重点的に検討する犯罪、要件を選別していくことになります。


イ 規範定立、あてはめのコンパクト化について

 「本件事実関係が当該要件を満たすか」の部分(あてはめ部分)については、試験場で初めて検討することですから、ある程度丁寧に事実関係を拾って規範との対応を示して論述する必要があります。したがって、ここは削りにくいところがあります。

 他方、規範定立部分での典型論点の論証については、相当程度削ることができます。それは、前回の「論理的に書く」の話のところでも触れたとおり、ある程度削っても、「当該論点への理解は試験委員に伝えられる」(厚く書く優先度が低い)からです。


(3)「規範定立→あてはめ」の具体的なコンパクト化の方法

 具体的な書き方としては、以下のようなものが考えられます。

①・・・の要件は、~と解する見解がある。しかし、・・・という理由から、これは妥当でない。思うに~という理由から、・・・要件は、〇〇を言うと解する。これを本件についてみるに~であるから、〇〇を満たす。
反対説→自説の論拠→規範定立→本件あてはめ

②・・・の要件は、~という理由から、〇〇を言うと解する。本件では~なので〇〇を満たす。
自説の論拠→規範定立→本件あてはめ

③・・・の要件は、〇〇を言うと解する。本件では~なので〇〇を満たす。
規範定立→本件あてはめ

④本件では~であり、〇〇に該当するから・・を満たす。
本件あてはめのみ
(※④についてはこれだけだとイメージがわかないかと思うので例を書くと、「本件で甲は殺害目的を秘しており、住居権者Vの意思に反して立ち入っているといえるから『侵入』に該当する」などです。)


 下に行くほどにコンパクト化を進めた書き方になっていきます。最もコンパクト化を進めた④に至っては、規範定立自体を省いてしまっていますが、「本件特有の事情(殺害目的)」と、「一般的見解による規範(住居権者の意思基準)を知っていること」が最低限伝わるような書き方となっています。

 実際の答案では、②③④のいずれかを使っていくことになると思います。どれを選ぶかについては、「罪の重さ」「問題となる事実関係の多さ・複雑さ」「採用する見解によって結論に差が出るか」など、その論点の重要度を考慮して決めるのが良いでしょう。

 ただ、目安としては、

・基本的に②を使う(自説の論拠を簡単に書く)。
・どうしても余裕がない場合には③(自説の論拠は省いてしまう)を使う。このとき、住居侵入等の、特に争いもなく満場一致の結論が出るような場面では、④(規範定立も省いてしまう)を使う。

等が良いのではないかと思います。
 ここは結局程度問題であり、「みんながどのくらい書くか」(どのくらい書けばみんなに書き負けないか)の問題になるところなので、これが正解、という風に決めるのは困難です。上記の要素などを意識しつつ、答案集などで相場観を養っていくのが良いでしょう。


3 見解、結論の選択について

 出題の趣旨等を見る限り、基本的にはどの見解、どの結論をとるとしても、論拠が説得的であれば構わないはずです。

 ただ、刑法においては、構成要件、違法性、責任の各要件は単純な並列ではなく、「順番」に検討するような思考様式があります。
 したがって、例えば、「違法性阻却にかかわる事情が問題文に出ている」にも関わらず、構成要件該当性を簡単に否定してしまうと、違法性の議論がしづらくなってしまいます。(「以上から、実行行為性は否定される。なお、仮に構成要件が満たされると仮定したとしても、・・・により違法性が阻却されないか」といった書き方はやや不自然です。)

 このような観点から、答案政策上は、なるべくたくさんの事実関係を検討できるような見解・結論を採用していくのが良いでしょう。



4 まとめ

 刑法答案でも法適用の基本構造に従って書くのが基本ですが、上記のとおり、要件整理やコンパクト化等、刑法特有の注意点もあるので、答案を書く際や、答案集を読む際などにはこういった点も意識しておくとよいと思います。





2019年7月18日木曜日

第12回 刑法答案の基本構造 その1

第12回 刑法答案の基本構造 その1


1 法適用の基本構造の修正点

 刑法においても、法適用の基本構造の繰り返しで答案を書くのが基本となります。
 ただ、刑法においては、民法等のように「すべての経緯を考慮したうえでの現在の権利関係」を検討するわけではなく、「ある行為についての罪責」を検討する関係上、「行為の特定」が必要になります。
 また、刑法においては、独自の思考の整理方法があるため、「条文(各罰条)どおりに機械的に要件検討する」という書き方ではうまくいきません。
 
 これらの点について以下で詳しく述べます。



(1)行為の特定について


 刑法は、「ある行為について、それが刑法の要件を満たせば、該当する刑罰という法律効果が与えられる」という法律です。したがって、議論のスタートラインは「ある行為」の特定、ということになります。
 答案上でも、例えば
「第1 甲の罪責
  1 甲がVの腹部をナイフで刺した行為について
    この行為について、殺人罪(199条)の成否を検討する。
  (1)実行行為性・・・     」
など、検討の最初には、必ず「どの行為を問題とするのか」を書く必要があります。これは当たり前のことですが、忘れないように注意が必要です。



(2)刑法独自の整理について


ア 伝統的な思考整理方法

 刑法においては、構成要件・違法性・責任、という伝統的な整理の仕方や、構成要件だけとっても「実行行為性」「因果関係」など、条文上明示されていない要件があります。したがって、「単純に根拠条文の要件を検討する」というスタンスではうまくいきません。

 検討すべき要件は、具体的には「実行行為」「因果関係」「結果」「構成要件的故意」「違法性(正当防衛、緊急避難、正当行為に当たらないこと)」「責任能力」「期待可能性」・・など、多数にのぼります。


 なお、理想的には、こういった要件をすべて検討するのが良いのでしょうが、時間・紙幅の限界もありますし、争いが生じないような要件(読み手を説得するまでもない要件)まで詳しく論じてもあまりメリットがありません。
 そこで、実際には、特に問題となる要件について詳しく検討していくことになります。




イ 総論系の議論と各論系の議論の整理について


 答案を書く際にここで困っている人はあまり多くないかとは思いますが、一応説明しておきます。
 
 一般論としては、総論が通則的な議論で、各論では主に各罰条についての構成要件とその他の特則が議論されています。
 ですので、「各論で議論されている要件については各論に従って書く」「それ以外の要件は、総論に従って書く」という処理になります。


 例えば強盗の実行行為については各論の議論で「財物奪取に向けられ、犯行抑圧するに足る程度の暴行または脅迫により、財物の占有を自己または第三者に移すこと」などと定義されているので、これに従って規範定立します。
 他方、「殺人」の実行行為は各論の議論では定義されていないので、総論の議論に従い、「死亡結果を発生させる現実的危険性を持つ行為」などと規範定立して検討することになります。
 犯罪ごとに対応の方法(参照する議論)が異なるのは奇妙に見えるかもしれませんが、ここはあまり気にしなくてよいでしょう。(結果犯のうち、殺人罪のように行為類型を具体的に定義しづらいものについては原則論である「構成要件的結果発生の現実的危険性を持つ行為」という要素をそのまま実行行為の定義として用いている、などと言っても良いのでしょうが、深入りはしないでおきます。)


 実行行為以外の要件についても同様で、正当防衛や未遂犯、共犯等、「各論(各罰条)にない要件」が問題になるときは、適宜総論の議論を参照して論じることになります。



ウ まとめ


 以上のとおり、
(a)議論のスタートラインである「行為の特定」が増えること
(b)要件整理の際に各罰条の文言を読むだけでは足りず、刑法各論・総論の全体を見渡したうえで整理する必要があること

の2点が、法適用の基本構造からの修正点です。



(次の記事に続きます。次の記事では、論述のコンパクト化などについて触れます。)


2019年7月11日木曜日

第11回 「論理的思考」「論理的に書く」とは その4


(前の記事の続きです。→その1はこちらです。

(今回はやや細かすぎる議論なので、読んでみてもよくわからない、という場合は、この項目6については丸々無視してよいと思います。)


6 補足・・・論証の際に論拠をどこまで詳細に論じるべきか

(1)問題提起

 <第11回「論理的思考」「論理的に書く」とは その2>の記事の「焼損」の例では、下線部分以外の部分はとりあえず置いておきました。
 具体的には、「放火罪は公共危険犯的側面が重要であるから、公共の危険発生の有無で『焼損』に達したかを判断すべきである。そして、日本では木造家屋が多いため独立燃焼が可能となれば公共の危険は発生するといえる。よって、『焼損』とは、独立燃焼に達したことを言うと解する。」という論証のうち、下線部分が命題の骨格部分であるとして、

〔ア〕放火罪の『焼損』(A)=公共危険(B)の有無で判断する
〔イ〕独立燃焼(C)に達した=公共危険(B)は発生している
ゆえに
〔ウ〕独立燃焼(C)=『焼損』(A)

と命題を整理しました。

 そのため、「下線部分以外をなぜ無視するのか?三段論法としての位置づけは?」という疑問もあるかもしれません。今回の記事は、これについての説明です。

 司法試験で答案を書く際にはここまで細かいことを常に考える必要はないので、よくわからなければここは無視してもよいところと思います。ただ、「論理的に書く」ということの理解に役立つかと思うので、書いておきます。


(2)「命題」と「命題の根拠」について

 この下線部以外の部分は、「なぜその命題が成り立つのかの根拠部分」にあたります。
 たとえば、命題〔ア〕は、「放火罪の『焼損』(A)=公共危険(B)の有無で判断」というものであり、これに先立つ「放火罪は公共危険犯的側面が重要であるから」という部分は、「なぜA=Bという命題が成り立つのか?」についての根拠に当たる部分です。

 しかし本当は、命題〔ア〕の根拠としては、以下の事項の宣言が必要です。

①焼損=放火の要件・・・・・・P
②放火=公共危険犯的側面
③公共危険犯的側面=要件解釈の指針は公共危険の有無・・・・・・Q
よって、
④焼損=公共危険の有無が基準
(正確にはイコールばかりでつながるわけではありませんが、ここでは簡単のためにイコールでつないでいます。)

 以上の4つの小さな命題を宣言して初めて「焼損=公共危険の有無が基準」という命題が示されることになります。
 ただ、このうち、Pは刑法の条文に書かれていることですし、Qについても、論証中で犯罪の性格を指摘するのはそれを要件解釈の指針にするためであることは当然なので、わざわざ書く必要がありません。そこで、PQを省略した形で、「放火罪は公共危険犯的側面が重要であるから、公共の危険発生の有無で『焼損』に達したかを判断すべき」などと書いてしまうわけです。

 このように、命題の根拠においても三段論法は観念できますが、実際には一定の省略が行われていることが通常です。


(3)どこまで「命題の根拠」が必要なのか

ア どこまで「命題の根拠」が必要か

 ちなみに、さらに厳密に言うと、上の①~④の書き方では、例えば②で「放火は本当に公共危険犯的側面を持つのか?なぜそう言えるのか?」が述べられておらず、命題の根拠がありません。これは問題視すべきでしょうか。

 一般的に、「論証する」という行為には「論拠」が必要ですが、実は、どこまで論拠を深めていっても、「ここで終わり」とはっきり言うことはできませんどんな論拠に対しても「そのようにいえるのはなぜ?」という疑問を投げかけることができるからです。

 しかし、現実の世界で論証をするのは、相手を説得するための行為なので、このように無限の疑問にまで対応する必要はありません。すなわち、相手とすでに共有できている命題(常識的な命題)については、根拠なしに用いて構いません。民法の「もと所有」について、相手方の自白が成立するところより前の所有関係については議論不要となる、というのと似たイメージです。

 このように考えると、結局、現実の世界で論証する、ということは、「書き手と読み手との間で共有可能な命題を繋いで結論を出す」というのが基本になります。
 したがって、共有できている命題(具体的には、「通常の論証例で論拠として使われている命題」など)については、それ以上深めた論拠は不要です。

 上記②について見てみると、「放火罪が公共危険犯的側面を持つ」ということについては一般的に受け入れられていることなので、ここについて根拠が示されていないことは、問題視する必要がない、ということになります。


イ 「意思決定による命題」について

 ところで、以上のように「共有できている命題によって論証する」と考えると、「なぜ論者によって結論が異なってくるのか?」を疑問に感じるかもしれません。

 なぜこのようなことが起こるのか。語弊を恐れずに言うと、それは、「当該論者の意思決定によって提示される命題があるから」です。
 例えば民事訴訟法の「一部請求と過失相殺」の論点では、按分説は「訴訟物が一部に限られるという形式を重視すべきである」とし、外側説は「原告の合理的意思・一回的解決を重視すべきである」としており、この違いが、結論の差をもたらす決定的な要因になっています。これは、論者ごとの「べき論」(意思決定)に依存する部分です。

 以上のとおり、論証の際には、「共有可能な命題」のみならず、「論者個人の意思決定による命題」を積み上げていくことで、論者ごとの見解が出来上がることになります。


(4)まとめ

 以上述べてきたとおり、各命題の論拠を書く場合は、「共有可能な命題」「論者個人の意思決定による命題」を基本に、自明な命題は省略しつつ書いていくことになります。
 ただ、普段からこんなことまで細かく考えても試験との関係では時間の無駄なので、一度理解しておけばそれで十分ですし、もしもよくわからなければあまり気にしなくても構いません。

 地味な結論ですが、試験との関係では、「答案集などで書かれている程度の丁寧さ(他の受験生に書き負けない程度の丁寧さ)で論拠を示す」ということを重視しておけばよいでしょう。




2019年7月10日水曜日

第11回 「論理的思考」「論理的に書く」とは その3


(前の記事の続きです。→その1はこちらです。


4 形式論理性にあまり厳密にはこだわらないこと

 論証する際には、厳密な三段論法だけを重ねて結論を導ける場面ばかりではありません。「『AならばB』『BならばA』『A=B』の違い」など、厳密な形式論理性に目が行き過ぎると書きづらくなってくることもあるかもしれません。

 例えば、典型的なところでは、憲法(法令違憲)の違憲審査基準の定立です。

 権利の性質や規制態様を云々してみたところで、「目的が必要不可欠で、手段が必要最小限度(☆)」などという基準自体を引き出すことは困難です。

 権利が重要だから厳しく審査すべき、ということは言えるでしょうし、☆は厳しい基準である、ということも言えるでしょう。しかし、「厳しい基準ならば☆である(厳しい基準は☆のみである)」とは言えません(「逆」も「真」とは限りません)から、権利の重要性などを起点にいくら三段論法を重ねたところで、「だから☆の基準を採用することが必然である」というような一義的な論証はできません。

 そこで、このように厳密な三段論法による一義的な論証が難しい場面では、そのような論証は諦めて、「方向性に着目した論証」をしていくことになります。「その基準を採用する厳密な論拠はないけれども、そのような厳しい方向性の基準を採用する論拠を挙げる」ということです。

 例えば、実際の書き方としては、「権利が重要だから厳しく審査すべき。規制態様が強いから、この点からも厳しく審査すべき。よって厳しい基準である、『目的が必要不可欠、手段が必要最小限度の基準』を用いるべき」といったものになります。下線部のキーワード(方向性)がリンクしていることが確認できると思います。

 このように、論点の性質によっては、形式論理性(厳密な三段論法)にあまりこだわり過ぎないようにすることも重要です。


5 まとめ

 以上述べてきたとおり、論理的に書く、ということは、キーワードをリンクさせて三段論法だけを繰り返して結論を導く、ということです。
 しかし、上記4で触れたとおり、形式論理性(厳密な三段論法)に意識を向けすぎると書きづらくなる場合もあるので、答案作成上は、キーワードのリンクのほうに意識を向けて書くのが良いでしょう。
















2019年7月5日金曜日

第11回 「論理的思考」「論理的に書く」とは その2



(前回の記事の続きです。→その1はこちらです。



3 詳説(続き)


(3)キーワードのリンクの徹底(省略の可否)について

ア 法的三段論法について

 「法的三段論法では必ずキーワードをリンクさせる(規範とあてはめを文字通り対応させる)」ことが重要です。

 例えば、憲法で「目的が必要不可欠、手段が最小限度の基準」を定立したときに、あてはめの手段審査の最後が「・・・であるから、本件規制は相当な配慮がなされているといえる。」で終わっている場合は、キーワードがリンクしておらず、あてはめとしての得点は、本来的には0点です。
 このような基準を定立した場合は、あてはめの結論は、必ず「・・・であるから、本件規制は最小限度の手段といえる/最小限度の手段を超える」のいずれかにする必要があります。


イ 論点(規範定立)の論証について

(ア)典型論点の場合

 論点の論証においてもキーワードは基本的にリンクさせますが、時間・紙幅の関係上コンパクトな論証にとどめる場合は、常にキーワードのリンクを明示することは難しい面もあります。
 例えば、「窃盗においては、毀棄罪との区別のため、利用処分意思を要すると解する」という論証を考えてみます。
 この論証は、一応の論述のような気もしますが、特にキーワードはリンクしていません。本当は「窃盗=毀棄罪との区別が必要」「毀棄罪との区別ができる要件=利用処分意思」にも触れた方が良いのですが、ここを省略して「毀棄罪との区別のため」という一言で済ませているわけです。
 しかし、判例学説等の一般的な見解(論証)に従って書く場合は、キーワードのリンクにはあまりこだわらなくてよいでしょう。


(イ)典型論点以外(現場思考型論点)の場合

 他方、典型論点の論証にとどまらず、当該事例ならではの論証をする場合には、キーワードのリンクを示す必要があります。代表的なものは、違憲審査基準の定立です。



ウ 区別の理由

 以上のように考える理由は、以下のとおりです。

 まず、①近年の出題では大量の検討事項が与えられることが多く、何もかも完全に書くことは困難なので、メリハリをつけた論述が必要です。

 また、②問題となるのが典型論点の場合、試験委員は当然、一般的な見解を把握しているので、受験生としても「その論証をきちんと知っている」ことさえ答案上に示せれば、一定の理解を伝えられることが期待できます。したがって、あまり厳密な論理性まで示す必要はないといえます。

 他方、③違憲審査基準の定立のような、当該事例ならではの(アドホックな)論証をする場合、どのように論証していくかについて、試験委員と受験生との間に何ら共通認識はありません。したがって、「なぜそう考えるのか」の論拠がわかるように、キーワードのリンクを示して論証する必要があります(「権利が重要だから厳しく審査すべき」→「厳格審査基準」など)。

 また、④「当該事例の事実関係が当該規範に当てはまるかどうか」は、試験場で初めて検討することであり、これもやはり受験生と試験委員との間に共通認識はありません。したがって、答案上でキーワードのリンクを明確に示して初めて、「当てはまるかどうか」を言えることになります。「自分が立てた規範に責任を持ち、本件事実がその規範に当てはまることを明確に示す必要がある」ということです。

 以上①②③④を合わせ考えると、典型論点の論証の部分でキーワードのリンクにこだわるよりは、あてはめを充実させたり、他の論点を拾ったりする方が優先されるべきだといえます。


(4)小括

 以上から、

法的三段論法ではキーワードのリンクを明示する(定立した規範に責任を持ち、規範と文字通りに対応したあてはめをする)
典型論点以外の論証(当該問題の事例ならではの論証)においてもキーワードのリンクを省略しない
・典型論点の論証については、論証をコンパクトにするためにキーワードのリンクを省略してしまうのも多少はやむを得ない

という方針が適切だと考えられます。

 ただし、このような議論についてあまり細かく考え込んでしまうと、かえって答案を書きづらくなってくるかもしれません。
 そこで、実際に答案を作成する際には、さしあたり、「できるだけキーワードをリンクさせる意識を持ち、再現答案集や問題集の参考答案くらいの丁寧さで書く」というような意識で書けばよいでしょう。



(次の記事に続きます)




2019年7月3日水曜日

第11回 「論理的思考」「論理的に書く」とは その1

第11回 「論理的思考」「論理的に書く」とは その1


1 前説

 司法試験においては、出題の趣旨等で言われている通り、「論理的思考」が重要とされます。
 ですが、ひとことで「論理的」と言っても、具体的にどう書けば論理的に書いたことになるのかがいまいちよくわからない、ということもあると思います。
 今回は、論理的に書くとはどういうことか、についてのお話です。
 
 答練の添削などで「言葉足らずである」「論理が飛躍している」「論理的でない」「規範とあてはめが対応していない」などというコメントを受けたことがある人にとっては特に参考になるかと思います。



2 概説(要点)

 結論から言うと、論理的に書く、ということは、
「キーワードをリンクさせ、三段論法だけを繰り返して結論を出す」
ということです。


 以下、具体的に説明します。



3 詳説

(1)論理の流れの大枠

 三段論法による論証においては、例えば、「A=B、B=C、ゆえにA=C」「A=B、B=C、C=D・・・Y=Z、ゆえにA=Z」などといった形で論理を繋いでいくことになります。
 この中の各部分(「B=C」など)が一つの命題となり、必要な個数だけ命題を積み重ねて求める結論を得る、というのが論理の流れの大枠です。


(2)キーワードのリンクについて

 このように「〇=〇」を繰り返して用いていく関係上、論証過程中にあるキーワード(A~Z)は、全て2回ずつ出てくる、ということに注意する必要があります。

 本当はA=B=C=・・・=Zと書いて一気に終われればよいのですが、そのような書き方には無理があります。それは、通常の日本語の文章では、一文で一つの命題(「B=C」「~は〇〇である」など)しか伝えられないからです。

 ですから、複数の命題を積み重ねて結論を出す際には、論証過程中においてキーワードは全て2回ずつ出てくることになります。このように、キーワードが2回ずつ出てきてAからZまでがイコールでつながっていて初めて「論理的に書いた」ということができます
 このように、キーワードを複数の文に入れることによって、複数の文の持つ各命題を繋ぐ(リンクさせる)ことを、当ブログでは、「キーワードのリンク」と呼びます。

 抽象的な話だけではイメージしづらいと思うので、具体例で説明します。 

【例1 法的三段論法】
 例えば前にも触れた住居侵入罪の「侵入」要件についての法的三段論法を考えてみましょう。
 答案の書き方としては、「『侵入』とは住居権者の意思に反する立ち入りを言うと解する。本件行為で甲は~しており、住居権者Vの意思に反して立ち入っている。よって本件行為は、『侵入』といえる。」などが考えられます。

 これを命題ごとに分解して整理すると、
〔ア〕『侵入』(A)=住居権者の意思に反する立ち入り(B)
〔イ〕本件行為(C)=住居権者の意思に反する立ち入り(B)
ゆえに
〔ウ〕本件行為(C)=『侵入』にあたる(A)
となります。

 〔ア〕は、規範定立部分(及びそれに先立つ要件提示部分)、〔イ〕は、本件あてはめ、〔ウ〕は、結論です。
 やや大雑把に「=」の文字を使っているためにA、B、Cの順序が入り乱れていますが、A=B=C、というようにイコールでつながることはわかると思います。

 この書き方では、『侵入』、「住居権者の意思に反する立ち入り」、「本件行為」がそれぞれ2回ずつ出てきているのがわかるはずです。これが、キーワードのリンクです。
 なお、法的三段論法においては、必ずキーワードはリンクします(言い換えると、規範とあてはめが文字通りに対応する、ということです)。


【例2 論点の論証】
 また別の例で、放火罪の「焼損」の意義についての論証を考えてみましょう。
 例えば、「放火罪は公共危険犯的側面が重要であるから、公共の危険発生の有無で『焼損』に達したかを判断すべきである。そして、日本では木造家屋が多いため独立燃焼が可能となれば公共の危険は発生するといえる。よって、『焼損』とは、独立燃焼に達したことを言うと解する。」などといった論証が考えられます。
 このうち、命題の骨格部分(下線部分)の繋がりを整理すると、
〔ア〕放火罪の『焼損』(A)=公共危険(B)の有無で判断する
〔イ〕独立燃焼(C)に達した=公共危険(B)は発生している
ゆえに
〔ウ〕独立燃焼(C)=『焼損』(A)
となります。

 ここでもA~Cの各キーワードが2回ずつ出てきて各命題を繋いでおり、やはりキーワードのリンクを確認できると思います。

 論理的に書くためには、以上のように、法的三段論法(規範定立→あてはめ→結論)という大きな枠でも、規範定立の論証部分といった小さな枠の中でも、キーワードのリンクが重要になります。


(次の記事に続きます)







第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その3

(前のページの続きです。→その1は こちら です。) 4   再現答案、参考答案の読み方②・・ 論証、あてはめ等の実際の書き方/文例 の 仕入れ  答案の法理論的な骨組みが分かったとしても、実際の試験では、見出しだけ並べるのではなく、文章の形で答案を書かな...