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2020年4月5日日曜日

第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その3


(前のページの続きです。→その1はこちらです。)


 再現答案、参考答案の読み方②・・論証、あてはめ等の実際の書き方/文例仕入れ

 答案の法理論的な骨組みが分かったとしても、実際の試験では、見出しだけ並べるのではなく、文章の形で答案を書かないといけませんので、具体的な文章表現を考える必要があります。

 この点、確かに、参考答案の言い回しを全部覚えていく必要は本来ありません。書くべきことは、問題提起の仕方、論点の論証、あてはめでの具体的な書き方など多岐にわたりますし、問題ごとに修正が必要となってくる部分が多いので、全てについてあらかじめ丸暗記するのは困難ですし、文章表現自体は実際に試験の現場で考えればよいからです。

 とはいえ、予め定型文句・定型表現を決めておけるならば、その方が試験場で言い回しを考える時間が短縮できるので、できる限りは事前に準備しておくべきです。

 そこで、例えば以下のような点について、具体的に参考答案でどんな表現がされているかを確認し、それを覚えていく、ということが有用になります。


(1)普通に論証パターンを覚える

 これは、参考答案ではなく論証集等で覚えても良いです。ただ、参考答案等ではある程度コンパクトな実戦的バージョンが使われていることが多いので、どのあたりが省略されているか、どのようにコンパクト化されているか、最低限必要なのはどこかを覚えるのに役立ちます。


(2)議論の始め方、つなぎ方を覚える

例:「甲の~の行為について、〇罪が成立しないか検討する。・・・」など


(3)実際の典型的論述パターンを覚える

 あてはめにおいては「肯定否定どちらの結論を採っても構わない」という場面も少なくありませんが、いずれの結論を採用するとしても、「考えようによってはそれなりに納得できる」というような論拠とともに自分の結論を導く必要があります。

 そのため、「こういう要件/こういう事例では、こういう論拠でこういう結論を導けば説得的になる」というパターンをできるだけ用意しておくのが良いです。例えば以下のような場面です。

〇例1:違憲審査基準の手段審査のあてはめで、「~の点で目的に資することは否めない。しかし、・・という目的を達成するには、~という、より制限的でない手段でも可能である。よって最小限度の手段を超える」とするような典型的な論述の流し方

〇例2執行停止の「損害」要件について、「~という損害は、事後的に金銭によって回復できるようにも思える。しかし、本件処分が失効されてしまうと、・・・といった健康被害や、ひいては生命侵害といった回復困難な損害が生じる恐れがある」とするような典型的な論述の流し方


(4)小括

 こういった表現・文例等をどれだけ覚えるのか、については程度問題なので、使用頻度(当該表現の便利さ)に応じて覚えていけばよいです。例えば、上記の手段審査のお約束の言い回し(「確かに目的に役立つ、しかし手段として過剰」パターン)などは大変便利なので、覚えておくのをお勧めします。

 上に述べたもののほかにも、参考答案等を見て「前にも別の答案例で見たことがある」というような言い回しや論理展開など、「使えそう」なものをどんどん覚えていくと良いです。







2020年3月1日日曜日

第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その2


(前のページの続きです。→その1はこちらです。)


3 再現答案、参考答案の読み方①・・答案の法理論的な骨組みの把握

(1)概要

 答案の法理論的な骨組みを把握するために、答案例を読む際にお勧めするのは、「再現答案・参考答案のどこに何が書かれているのかについて、全て見出しを付けてみる」ということです。


(2)見出しを付けるメリット

 再現答案・参考答案はあくまで「その問題についての」答案ですから、その答案の表現を一字一句覚えても意味がありません。しかし、答案には、「法適用の基本構造」や人権処理の手順」等、議論の大きな流れ(法理論的な骨組み)、というものがあります。

 参考答案等を読んだときに、どのような法理論上のパーツが答案に書かれているのか、また、それが答案上のどこに書かれているのかを理解できているのならば、見出しが付けられるはずです。逆に、見出しが付けられるのであれば、どこに何が書かれているのかを理解できている、ということが確認できます。
 したがって、見出しを付けることで、「答案のどこで何の議論がされているのか」(議論の骨格)を明確に整理することが可能となります

 そして、このように議論の骨格を整理することができれば、それを覚えれば、同種の骨組みで論じる問題において、自分でもそれが再現(真似)できるようになります。

 このような理由から、見出しを付けながら参考答案を読む、ということをお勧めします。


(3)見出しの付け方の具体的イメージ

ア 一般論

 上記のメリットが得られるようにするために、基本的に、「答案の議論の、法理論的な大きな流れがわかるような見出し」を「一言で」考えればよいです。例えば

・「請求の法的根拠」「要件の指摘」「規範定立」「あてはめ」「結論」といった、法適用の基本構造に沿った整理
・「問題とする自由の特定」「権利性」「権利制約」「公共の福祉等の指摘」「審査基準定立」「あてはめ:目的審査」「あてはめ:手段審査」「結論」といった、人権処理の手順に沿った整理

などです。
 どのような見出しを付けるかについては、当ブログで紹介している各科目ごとの「〇〇答案の基本構造」等を参照したり、いろいろな答案を読んでいく中で各人で作っていくのが良いです

イ 見出しの付け方の具体例

 例えば、以下のような刑法答案を考えます。よくある住居侵入の検討です。(理解のため、少し細かすぎる書き方をしています。)

*****参考答案の記述例*************
1 甲がV宅に立ち入った行為について
 この行為について、住居侵入罪(刑法130条)が成立しないか検討する。
 同罪の要件である「侵入」とは、住居権者の意思に反する立ち入りを言うものと解する。
 本件で甲は、V殺害の目的を持ってV宅に立ち入っている。ここで、通常、人は自身を殺害する目的の立ち入りを受け入れない、という経験則に照らせば、本件甲の立ち入りは、Vの意思に反していたものと言える。したがって、甲の立ち入りは、『侵入』にあたる。
 よって、住居侵入罪が成立する。
**************************

 この答案を、各パーツごとに分けて見出しを整理すると、

・「1 甲がV宅に立ち入った行為について」・・・①行為の特定
・「この行為について、住居侵入罪(刑法130条)を成立しないか検討する。」・・・②法的根拠の指摘
・「同罪の要件である『侵入』とは、」・・・③要件の指摘
・「住居権者の意思に反する立ち入りを言うものと解する。」・・・④規範定立
・「本件で甲は、V殺害の目的を持ってV宅に立ち入っている。ここで、通常、人は自身を殺害する目的の立ち入りを受け入れない、という経験則に照らせば、本件甲の立ち入りは、Vの意思に反していたものと言える。したがって、甲の立ち入りは、『侵入』にあたる」・・・⑤本件あてはめ
・「よって、住居侵入罪が成立する」・・・⑥結論の宣言

という流れになります。
 答案集を見るときは、少なくともこの程度くらいには記述を分析して読んでいくと良いです。
(このように文章で説明すると大変な手間のような気がしますが、実際には、参考答案の該当箇所ごとに、横の空きスペースに「規範定立」などと一言書き込めば足ります。また、慣れればそもそも実際に参考答案に書き込む必要すらありません。)


ウ 補足・・見出しの細かさについて

 上記の見出しの整理は、実はやや不十分です。より丁寧にするなら、あてはめの部分がもう少し細かく分かれます。(※あてはめの際の基本的な思考方法については、「第15回 あてはめの基本構造」を参照)

 「あてはめ」のやり方について重点的に勉強するために上記の答案例を読む際は、上記のあてはめ部分をもっと細かく分析し、

・本件で甲は、V殺害の意思を持ってV宅に立ち入っている。(⑤a あてはめ:本件事実の指摘
・ここで、通常、人は自身を殺害する目的の立ち入りを受け入れない、という経験則に照らせば、(⑤b あてはめ:事実評価ー根拠となる経験則の指摘
・本件甲の立ち入りは、Vの意思に反していたものと言える。(⑤c あてはめ:事実評価ー事実から何が言えるかの指摘
・したがって、甲の立ち入りは、『侵入』にあたる(⑤d あてはめ:規範に文字通り当てはまることの宣言

というくらいまでバラバラに分析して読むのが良いでしょう。
 要するに、「今、何に重点を置いて勉強したいか」に合わせて、どこまで細かい見出しを付けるかを決めればよいわけです。



(4)「合わない答案」について


 なお、答案の書き方は一通りではありませんから、自分の頭の中での整理とはなじみにくい書き方をしている答案に出会うこともあるかと思います。

 このような場合、合わない答案にはあまりこだわりすぎないようにして、同じ問題/類題について書かれた「他の参考答案」も見てみると良いです。(特に本試験再現答案なら他の答案例には事欠きません。)

 そして、いくつかの答案を見て、自分の整理と合致しやすいものから参考にしていけばよいです。
(※ただし、多くの答案が自分の整理と異なる書き方をしているのならば、それは自分の整理の方がおかしいことを疑うべきです。このような場合は、テキスト等で基本事項を確認したうえで、出題の趣旨や解説等で、論じるべき内容や議論の流れを再度確認すべきです。)


(次のページに続きます。)




2020年1月12日日曜日

第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その1


1 概説

 合格者の再現答案集や、問題集や答練の参考答案を見て、同じような書き方をしたい、と思っても、なかなかうまく真似られないこともあると思います。

 今回は、こういった参考答案等を読む際にどのような点を意識すればよいか、どこをどう真似ればよいのか、という点についてのお話です。


2 再現答案・参考答案等の重要性について

 近年の司法試験では、出題の趣旨や採点実感等において、「何をどう書くべきか」についてかなり具体的な指摘があり、目指すべき答案像を自分で作りやすくなってきています。しかし、答案の書き方にまだ慣れていない場合には、何の文例もなく答案を作成していくのは難しいと思います。

 そこで、再現答案・参考答案等を見てそれを真似る、というのが、答案の作り方の良い勉強になります。

 こういった答案例は、司法試験委員が作ったものではありませんから、「正解」答案、というわけではありませんが、優秀な合格者や予備校の先生方等が作ったものですし、前にも触れた(※)とおり「みんなが書くような普通の答案を目指す」という観点からも、どんどん真似ていくべきです。

 では、そういった答案例は、どのように読めば真似られるようになるのでしょうか。そもそも、どこを真似ればよいのでしょうか。

(※)「第18回 悩みどころ/悩むべきでないところ」など参照


3 再現答案・参考答案等の読み方の基本的な方針

 模範的な答案と全く同じものを書けるようになれば良いようにも思えますが、実際には、そもそも同じ問題は本試験で出ませんから、再現答案等を一字一句そのまま覚えてもあまり意味がありません。

 では、何を理解し/覚えるために再現答案等を読むのでしょうか。

 最終目的地は、もちろん「本試験の初見の問題で、時間内に合格答案を書けるようになること」です。

 そのためには、「どんな問題が出ても」「何度でも再現可能な形で」答案の書き方を身に付ける必要があります。

 そして、「(初見の問題での)再現可能性」に着目するならば、参考答案等を読む際に重要となるのは、「どこに」「何を」「どう」書いているかを把握することです。

 別の言い方をすれば、

①答案の議論の流れがどうなっているか(答案の法理論的な骨組み)
②あるトピックについて、具体的にはどのような書き方をしているか(論証、あてはめ等の実際の書き方/文例)

の2点が重要となるものと言えます。

 ①は「どこに」「何を」に対応し、②は「どう」書くかに対応します。

 以下、この2点に分けて、より具体的に説明します。


(次のページに続きます。)

2019年12月23日月曜日

第19回 勉強会の勧め その2



(前のページの続きです。→その1はこちらです。


3 勉強会を開く際の注意点

 答案の書き方は人によってさまざまですが、メンバーが個々の方法論に従って自由に意見を言うだけだと、勉強会の効果が薄くなってしまいます

 それは、
・答案の書き方や基本的な議論の流れが自分と大きく異なる相手に対しては、「どこをどう改善すればよいと思うか」を指摘し辛い
・「自分とは大きく異なる方法論に従って言ってもらった指摘」を自分の方法論の中で位置付けるのに苦労することになる
といった理由からです。


 したがって、勉強会をする場合、そのメンバーの間で、ある程度の基本的な答案の書き方が共有できている方が理想的です。

 そこで、合格者の講演・予備校の先生方が書いた本・当ブログで紹介している書き方など、何でも良いですから、ある程度の基本的な答案の書き方をメンバーで共有したうえで勉強会をすることをお勧めします。



4 私の場合

 参考までに、私の参加していた勉強会のうちの一つは、以下のような感じでした。前のページで説明した3点についてかなり勉強になったと思います。

メンバー:クラスメイト数人程度
内容:本試験過去問の研究発表+相互答案添削(事前に答案を見せ合っておいたうえで、勉強会において口頭でコメントし合う)
頻度:週1回
基本的な答案の書き方:本試験合格者による答案の書き方講義(メンバー全員受講済み)

※実はこれ以外にも別のメンバーと勉強会をしていたことがあったのですが、そちらでは答案の書き方についての考え方が共有できておらず、私個人としてはあまり身にならなかったと感じています。そのような経験もあって、上記のとおり、基本的な答案の書き方について共有することをお勧めします。


5 勉強会ができる環境にない場合

 例えば大学・ロースクールを卒業して下宿から実家に戻った、とか、社会人でまとまった時間を取りづらい人たちなど、勉強会ができる環境にない場合もあるかと思います。

 このような場合は、どこのものでもよいですから、予備校の答練や模試等を必ず受けるようにすることをお勧めします。これらを受ければ、合格者に自分の答案を読んでもらったうえで、添削コメントがもらえますから、前の記事で述べたような勉強会のメリット①②③の一部ないし全部を得ることができます。このように自分の答案を人に見てもらって意見をもらう機会は、必ず確保するべきです。

 なお、確かに答練や模試等は、添削者一人にしか答案を見てもらえませんし、「自分がどういう意図でそのような論述をしたか」を含めて相談するといった双方向的な機会は得られません。しかし、合格者による添削コメントが得られるという点では、より効率よく自分の不足部分を洗い出すことが期待できるというメリットもあります。(「自分の答案の悪い部分」が不明のまま終わってしまう確率が相対的に低い。)


6 まとめ

 以上のとおり、可能なのであれば、仲間たちと勉強会の機会を設けることをお勧めします。

 その際には、

・勉強会で何を得たいのか(書くことの選別、表現の修正、あてはめの相場観など)を意識すること
・基本的な答案の書き方を共有できているメンバーで勉強会を組むこと

等に留意するのが良いでしょう。

 そして、どうしてもグループで勉強会をするのが難しい場合は、必ず答練・模試等を受けるようにするのが良いです。




2019年12月8日日曜日

第19回 勉強会の勧め その1


1 概要

 司法試験受験生の中には、自宅での独学メインで勉強している人もいるかもしれません。しかし、可能であれば、勉強会等で、仲間と一緒に勉強する機会を確保することをお勧めします。

 そして、内容的には、少なくとも「答案を実際に書き、見せ合い、互いに意見を出し合う」といった勉強会をするのをお勧めします。もしもどうしてもその仲間が得られない場合は、予備校の答練や模試など、とにかく人に答案を見てもらう機会を確保するべきです。

 すでに勉強会を開いている人や、答練等を受講している人にとっては今回のお話はあまり参考にならないかもしれません。

 なお、後にも触れますが、勉強会を開く場合は、できれば「答案の書き方の方法論」について、ある程度グループ内で共有することをお勧めします。



2 勉強会をお勧めする理由

 勉強会をお勧めするのは、大まかに言うと、

①みんなが書くような内容を書けるようになる(書く内容の選別)
②自分の表現の不十分な部分を改善する(表現の修正・調整)
③あてはめの相場観を養う

ために勉強会がとても役立つからです。


(1)①書く内容の選別について

 「一生懸命書いた法律構成や論点が、模範答案では簡単に済まされていたり、そもそも触れられていなかった」という経験のある人も少なくないと思います。

 前回の記事でも触れましたが、実務法学は説得の学問ですから、「皆が悩む論点について」厚く論じることが求められます。(積極的な誤りでないならば、自分だけが気になるような論点を論じても別に構いませんが、加点にはつながりませんし、時間も紙幅も奪われて本来書くべきことが書けなくなってしまいます。)

 ですから、書く内容が独りよがりになってしまわないよう、「皆はどういう部分を気にするのか」に絶えず気を配っておく必要があります。


 実を言うと、書くべき内容を考える際には、例えば刑法で「より重い罪である強盗殺人が成立しうるからまずはこれを検討し、ひとまず殺人罪は検討しない」とか、刑訴法で「被疑者の同意が得られなかったからこそ強制処分である検証がされたのだから、任意捜査の原則は問題にならない」など、論理的に選別できる場合は多いです。

 しかし、実際には、「自分は気になるが、解説や参考答案では触れられていない」という点について、「なぜ触れられていないのかの理由」を自分で考えるのはそう簡単ではありません理由がわからないからこそ自分はそれを答案に書いたのですし、参考答案や解説でその点について触れられていない以上、なぜ触れないのかのヒントを得るのも難しいからです。

 こんな時、自分が気になる論点について、勉強会で話題に出してみれば、それに触れない理由についてのヒントを仲間から得ることが期待できます。(なお、答練でも、「何故それを書く必要がないのか」の理由について添削コメントで指導してもらえることはあるかと思います(少なくとも私が添削する場合はそこまでコメントしています)が、十分なコメントをもらえずにスルーされてしまう恐れもありますので、仲間と議論する機会も持つ方が良いです。)

 また、記載内容を論理的には選別しづらい場面であったとしても、周りの反応から、「ああみんなも全く気にならないわけではないが、教科書等で論点化されていないからひとまずこの点は無視しているようだ」とか、「ああこれはそもそも自分以外誰も気にしないことなのだ」などが分かります。それを積み重ねれば、相場観のようなものもできてきます

 以上のような理由から、勉強会を開くことは、記載内容の選別にとても役立ちます。



(2)②表現の修正・調整について

 書くべき内容を適切に選別することができ、正確な論点知識があったとしても、「それを答案上に適切に表現できるか」はまた別の問題です。

 まして司法試験では、限られた時間内で限られたスペースに答案を書く関係上、どうしても表現は雑になりがちなので、絶対に略してはいけない部分を略してしまったりする恐れもあります。例えば、行政法答案で「裁量処分であっても逸脱濫用がある場合には違法となる。これを本件について見る・・」などといった表現にとどめてしまい、「行訴法30条の指摘」や「どのような場合なら裁量逸脱濫用になるかの判断基準定立」といった点を書き洩らしたりするような恐れです。

 通常、自分の答案は、「自分が必要十分だと思った表現」で書いていますから、自分一人で答案を見直してみても、「必要十分な表現がされているじゃないか」と思ってしまう可能性が大きく、一人で表現を修正・調整するのはやや困難があります。(もちろん、とりわけ注意深い人であれば自分一人でも可能だとは思います。)

 このような場合、互いに答案を見せ合うことで、表現が誤っている部分、曖昧な部分、言葉足らずな部分などについて、互いに指摘し合うことができます。このような点でも、勉強会はとても役立ちます。



(3)③あてはめの相場観の養成について

 事例問題で結論を導くには「本件あてはめ」が必要で、あてはめの際には事実評価が必要となることが少なくありません。そして、事実評価とは、「あなたがその事実にどのような意味付けをするか」ですから、答案作成者個々人で異なってくることがあるのは当然です。

 しかし、だからと言ってあまりに無理のある事実評価をすることは避けるべきです。「読み手を説得するための」答案を書くのですから、「考え方によってはなるほどと思える」ような答案を書く必要があります。そのため、自分以外の誰も(またはほとんどの人が)納得しないようなあてはめは、避けなければなりません。

 具体的には、例えば「夜間無人の工事現場で、被害者が逃げられないようにバットで両足を強打し、首元にナイフを突きつけながら金品を要求した」という事例で、「被害者の両手は無傷で空いていた以上、手持ちの防犯ブザーで人を集めたり、携帯電話で警察に通報するなどの反抗の余地が残されていた。したがって、反抗抑圧に足る暴行があったとは言えない。(よって強盗罪の『暴行』は認められない。)」などという事実評価をするのはさすがに無理があります。ここまで無茶な評価をする人は少ないと思いますが、筆が乗るとつい乱暴な事実評価をしてしまうこともあります。

 そこで、このようなことを避けるため、勉強会で、自分の事実評価、みんなの事実評価を見比べることで、あてはめの相場観を養っていくのが良いです。



(次のページでは、勉強会を開く際の注意点等に触れます。)


2019年12月1日日曜日

第18回 悩みどころ/悩むべきでないところ その2



(前の記事の補足です。→その1はこちらです。


3 補足

 なお、「教科書を見ても論点化されていないけれども自分は気になる」点が出てきたときに、よく調べてみると実は最新の議論では問題提起されていた、ということがあります。

 また、本試験の現場で「見たこともないような論点」の検討が必要となることも多少はあります(例:通常の判例学説による処理だと不公平・不当な結果が導かれる場合で、一定の修正が求められる場面など)。

 このような場面があるのなら、やはり個人的な疑問点も大切にすべきではないのか?と思われるかもしれません。

 しかし、まずは「個人的な疑問・関心」はとりあえず脇に置いて勉強を進めるのをお勧めします。

 その理由は、以下の2つです。

・個人的な疑問は、自分以外誰も悩まないようなものである可能性が小さくないため、これにいちいち勉強時間・紙幅をつぎ込んでいると、効率が良くないこと
・①司法試験の出題では未知の論点のウェイトは大きくないし、②司法試験は相対評価であるため、みんなが書くようなことをしっかり書いていれば普通に合格できること


 「みんなが書くところをしっかり書く」ためには、「みんなが書けるところを落とさないこと」だけでなく、「みんなが書かないようなところに時間・紙幅をつぎ込んでしまわないこと」が重要です。ですから、自分の個人的な疑問点等はひとまず脇に置いておき、「受験生みんなが知っているような論点を全て自分も書けるようにし、他の受験生に書き負けないようにする」ことを目指していくのが効率的・現実的でしょう。


 受験生であればどこかで聞いたことがあるかもしれませんが、「すごい答案を書く必要はない」のです。




2019年11月24日日曜日

第18回 悩みどころ/悩むべきでないところ その1




1 概要

 答練を受けたり問題集や過去問の参考答案を見たりしていると、「自分の思ったのと異なる法律構成・論点が厚く論じられている」とか、「規範定立部分で悩みを見せて厚く書いたが、その分あてはめが薄くなってしまい、答練で悪い点が付いた」など、いったいどこを悩むべきでどこは簡単に書くべきなのかよくわからなくなってくることがあるかもしれません。

 今回はこれについての一般的な話です。(精神論に近い抽象的な話ですし、かなりニッチな話だと思うので、人によっては参考にならないと思います。)

 簡単に言うと、

・みんなが同じように考えるところは、簡単に書けばよい。
・みんなが悩むところは、悩みを見せつつ厚くしっかり書く必要がある。
・自分は気になるけれど、みんなはそもそもそんな所を気にしない、という部分は、書かなくてよい。

ということになります。

 たとえば「殺害目的を秘して住居に立ち入った」という事例なら、みんな特に悩むことなく満場一致で住居侵入罪を成立させるでしょうから、その論述は簡単に済ませればよいです。そこで省いた時間と紙幅は、他の論点等につぎ込むべきです。
 他方、「強盗の手段たる暴行脅迫がされてから数時間後、かつ何10キロも離れた場所でされた行為から致傷結果が生じた」という事例での強盗致傷罪の成否では、「強盗が人を負傷させた」といえるのかについて、手段説・機会説等のいずれの見解を採用するのかや、事実関係をどう評価するかで結論が変わりえますから、これらについてみんな悩むことになります。そのため、ここはしっかり厚く論じる必要があります。

 なぜこのように「みんな」を強く意識する必要があるのでしょうか。それは、「法学、特に実務法学の目的が、相手(みんな)の説得だから」です。

 この点は、司法試験を目指す方のうち大部分はすんなり理解できるのではないかと思います。ここまで読んで「そんなことは当然だ」と思える方は、今回のお話はスルーしていただければと思います。



2 実務法学は、相手を説得できるかが全て

 実務法学においては、裁判所としては「敗訴当事者や国民が納得できるような(少なくとも反論できないような)判決書を書く」、当事者としては「裁判所を説得して自分の望む判決を得る」などを目指すことになるので、「誰かを説得する」ことが不可欠になってきます。

 例えば自然科学の世界であれば、誰からも理解してもらえない独自の理論であっても実験室で結果を出すことができることもあるかもしれません。

 しかし、実務法学の世界では、人を説得せずに結果を出すことはそもそも不可能です。(説得失敗の典型的場面は、判決文で見かける「・・所論は独自の見解を言うものであって、採用できない。・・・」とかいうアレです。)

 このように、実務法学の世界では、誰かを説得して初めて結果になります。したがって、説得が必要な部分はしっかり書く必要がありますし、逆に、説得するまでもないこと(誰も反論しないようなこと)はあまり書く必要がありません。

 この点については生まれつき理解できている人が多いかと思いますが、あまり意識できていない人もいると思います。

 かく言う私は、勉強し初めたころはこの点があまりよく分かっておらず、無意味な部分にこだわって勉強時間や答案の紙幅を使ったり、逆にみんながしっかり書く論点を簡単に済ませてしまったりするようなことがありました。例えば、暴行罪の「暴行」の定義は「不法な有形力の行使」と解されていますが、「不法とはどんなのを言うのだろう?判断基準は要るんだろうか?」などと無意味に悩んでしまったりするなどです。

 しかし、あるとき気づきました。「みんなが悩まないことなら自分も悩まなくてよい。」

 例えば「常に一義的に正解が決まる」数学的思考や、「実際にモノで結果が出せる」自然科学系の思考になじんでいる人の一部には、「みんながどう考えるか」などという曖昧フワフワなものによって答案に何を書くべきかが変わってくることは奇異に映るかもしれません。言葉は悪いですが、クソゲーに見えるかもしれません。

 しかしそうではありません。目的が異なるから手段が異なるだけです。「人を動かす」ことが目的だから、「相手(皆)が関心を持つ論点について、相手(皆)の理解できるロジックで論じる」ことが手段になるのです。(受験生時代、「周りのみんなが書くような答案を書け」というような趣旨の指導を受けたことがありますが、それはこういう意味も含んでいたのだと思います。)

 数は多くないかもしれませんが、これまでこの点を意識してこなかった人たちも、意識してみてください。



 実務法学の世界では、独自の視点で独自の見解を叫んでも、何も変わりません。相手を説得できないからです。

 相手(みんな)を説得するためには、仮に個人的に多少納得できない部分があったとしても、「みんなと同じこと」を書けばよいのです。実務法学は哲学ではありませんから、「真に正しい法解釈」(そんなものが存在するのかわかりませんが)など気にしなくてかまいません。誰が見ても住居侵入が成立する事例なら、平穏説と新住居権説の論争など真面目に論じる必要はありません。みんなが「暴行」の定義を「不法な有形力の行使」と解して、「不法」の意味をそれ以上具体化せずに済ませているのだから、そこはそれ以上悩まなくてよいのです。

 悩まなくてよいところをいくら悩んで見せても時間と紙幅を取られるだけで加点にはつながりませんし、もしも他の部分と論理矛盾が生じる記述などしてしまえば減点さえされうることになってしまいます。

 悩まなくてよいところは悩まず、みんなが悩むところで悩みを見せてしっかり書くべきです。


(次の記事に続きます。)



第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その3

(前のページの続きです。→その1は こちら です。) 4   再現答案、参考答案の読み方②・・ 論証、あてはめ等の実際の書き方/文例 の 仕入れ  答案の法理論的な骨組みが分かったとしても、実際の試験では、見出しだけ並べるのではなく、文章の形で答案を書かな...