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2020年4月5日日曜日

第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その3


(前のページの続きです。→その1はこちらです。)


 再現答案、参考答案の読み方②・・論証、あてはめ等の実際の書き方/文例仕入れ

 答案の法理論的な骨組みが分かったとしても、実際の試験では、見出しだけ並べるのではなく、文章の形で答案を書かないといけませんので、具体的な文章表現を考える必要があります。

 この点、確かに、参考答案の言い回しを全部覚えていく必要は本来ありません。書くべきことは、問題提起の仕方、論点の論証、あてはめでの具体的な書き方など多岐にわたりますし、問題ごとに修正が必要となってくる部分が多いので、全てについてあらかじめ丸暗記するのは困難ですし、文章表現自体は実際に試験の現場で考えればよいからです。

 とはいえ、予め定型文句・定型表現を決めておけるならば、その方が試験場で言い回しを考える時間が短縮できるので、できる限りは事前に準備しておくべきです。

 そこで、例えば以下のような点について、具体的に参考答案でどんな表現がされているかを確認し、それを覚えていく、ということが有用になります。


(1)普通に論証パターンを覚える

 これは、参考答案ではなく論証集等で覚えても良いです。ただ、参考答案等ではある程度コンパクトな実戦的バージョンが使われていることが多いので、どのあたりが省略されているか、どのようにコンパクト化されているか、最低限必要なのはどこかを覚えるのに役立ちます。


(2)議論の始め方、つなぎ方を覚える

例:「甲の~の行為について、〇罪が成立しないか検討する。・・・」など


(3)実際の典型的論述パターンを覚える

 あてはめにおいては「肯定否定どちらの結論を採っても構わない」という場面も少なくありませんが、いずれの結論を採用するとしても、「考えようによってはそれなりに納得できる」というような論拠とともに自分の結論を導く必要があります。

 そのため、「こういう要件/こういう事例では、こういう論拠でこういう結論を導けば説得的になる」というパターンをできるだけ用意しておくのが良いです。例えば以下のような場面です。

〇例1:違憲審査基準の手段審査のあてはめで、「~の点で目的に資することは否めない。しかし、・・という目的を達成するには、~という、より制限的でない手段でも可能である。よって最小限度の手段を超える」とするような典型的な論述の流し方

〇例2執行停止の「損害」要件について、「~という損害は、事後的に金銭によって回復できるようにも思える。しかし、本件処分が失効されてしまうと、・・・といった健康被害や、ひいては生命侵害といった回復困難な損害が生じる恐れがある」とするような典型的な論述の流し方


(4)小括

 こういった表現・文例等をどれだけ覚えるのか、については程度問題なので、使用頻度(当該表現の便利さ)に応じて覚えていけばよいです。例えば、上記の手段審査のお約束の言い回し(「確かに目的に役立つ、しかし手段として過剰」パターン)などは大変便利なので、覚えておくのをお勧めします。

 上に述べたもののほかにも、参考答案等を見て「前にも別の答案例で見たことがある」というような言い回しや論理展開など、「使えそう」なものをどんどん覚えていくと良いです。







2020年3月1日日曜日

第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その2


(前のページの続きです。→その1はこちらです。)


3 再現答案、参考答案の読み方①・・答案の法理論的な骨組みの把握

(1)概要

 答案の法理論的な骨組みを把握するために、答案例を読む際にお勧めするのは、「再現答案・参考答案のどこに何が書かれているのかについて、全て見出しを付けてみる」ということです。


(2)見出しを付けるメリット

 再現答案・参考答案はあくまで「その問題についての」答案ですから、その答案の表現を一字一句覚えても意味がありません。しかし、答案には、「法適用の基本構造」や人権処理の手順」等、議論の大きな流れ(法理論的な骨組み)、というものがあります。

 参考答案等を読んだときに、どのような法理論上のパーツが答案に書かれているのか、また、それが答案上のどこに書かれているのかを理解できているのならば、見出しが付けられるはずです。逆に、見出しが付けられるのであれば、どこに何が書かれているのかを理解できている、ということが確認できます。
 したがって、見出しを付けることで、「答案のどこで何の議論がされているのか」(議論の骨格)を明確に整理することが可能となります

 そして、このように議論の骨格を整理することができれば、それを覚えれば、同種の骨組みで論じる問題において、自分でもそれが再現(真似)できるようになります。

 このような理由から、見出しを付けながら参考答案を読む、ということをお勧めします。


(3)見出しの付け方の具体的イメージ

ア 一般論

 上記のメリットが得られるようにするために、基本的に、「答案の議論の、法理論的な大きな流れがわかるような見出し」を「一言で」考えればよいです。例えば

・「請求の法的根拠」「要件の指摘」「規範定立」「あてはめ」「結論」といった、法適用の基本構造に沿った整理
・「問題とする自由の特定」「権利性」「権利制約」「公共の福祉等の指摘」「審査基準定立」「あてはめ:目的審査」「あてはめ:手段審査」「結論」といった、人権処理の手順に沿った整理

などです。
 どのような見出しを付けるかについては、当ブログで紹介している各科目ごとの「〇〇答案の基本構造」等を参照したり、いろいろな答案を読んでいく中で各人で作っていくのが良いです

イ 見出しの付け方の具体例

 例えば、以下のような刑法答案を考えます。よくある住居侵入の検討です。(理解のため、少し細かすぎる書き方をしています。)

*****参考答案の記述例*************
1 甲がV宅に立ち入った行為について
 この行為について、住居侵入罪(刑法130条)が成立しないか検討する。
 同罪の要件である「侵入」とは、住居権者の意思に反する立ち入りを言うものと解する。
 本件で甲は、V殺害の目的を持ってV宅に立ち入っている。ここで、通常、人は自身を殺害する目的の立ち入りを受け入れない、という経験則に照らせば、本件甲の立ち入りは、Vの意思に反していたものと言える。したがって、甲の立ち入りは、『侵入』にあたる。
 よって、住居侵入罪が成立する。
**************************

 この答案を、各パーツごとに分けて見出しを整理すると、

・「1 甲がV宅に立ち入った行為について」・・・①行為の特定
・「この行為について、住居侵入罪(刑法130条)を成立しないか検討する。」・・・②法的根拠の指摘
・「同罪の要件である『侵入』とは、」・・・③要件の指摘
・「住居権者の意思に反する立ち入りを言うものと解する。」・・・④規範定立
・「本件で甲は、V殺害の目的を持ってV宅に立ち入っている。ここで、通常、人は自身を殺害する目的の立ち入りを受け入れない、という経験則に照らせば、本件甲の立ち入りは、Vの意思に反していたものと言える。したがって、甲の立ち入りは、『侵入』にあたる」・・・⑤本件あてはめ
・「よって、住居侵入罪が成立する」・・・⑥結論の宣言

という流れになります。
 答案集を見るときは、少なくともこの程度くらいには記述を分析して読んでいくと良いです。
(このように文章で説明すると大変な手間のような気がしますが、実際には、参考答案の該当箇所ごとに、横の空きスペースに「規範定立」などと一言書き込めば足ります。また、慣れればそもそも実際に参考答案に書き込む必要すらありません。)


ウ 補足・・見出しの細かさについて

 上記の見出しの整理は、実はやや不十分です。より丁寧にするなら、あてはめの部分がもう少し細かく分かれます。(※あてはめの際の基本的な思考方法については、「第15回 あてはめの基本構造」を参照)

 「あてはめ」のやり方について重点的に勉強するために上記の答案例を読む際は、上記のあてはめ部分をもっと細かく分析し、

・本件で甲は、V殺害の意思を持ってV宅に立ち入っている。(⑤a あてはめ:本件事実の指摘
・ここで、通常、人は自身を殺害する目的の立ち入りを受け入れない、という経験則に照らせば、(⑤b あてはめ:事実評価ー根拠となる経験則の指摘
・本件甲の立ち入りは、Vの意思に反していたものと言える。(⑤c あてはめ:事実評価ー事実から何が言えるかの指摘
・したがって、甲の立ち入りは、『侵入』にあたる(⑤d あてはめ:規範に文字通り当てはまることの宣言

というくらいまでバラバラに分析して読むのが良いでしょう。
 要するに、「今、何に重点を置いて勉強したいか」に合わせて、どこまで細かい見出しを付けるかを決めればよいわけです。



(4)「合わない答案」について


 なお、答案の書き方は一通りではありませんから、自分の頭の中での整理とはなじみにくい書き方をしている答案に出会うこともあるかと思います。

 このような場合、合わない答案にはあまりこだわりすぎないようにして、同じ問題/類題について書かれた「他の参考答案」も見てみると良いです。(特に本試験再現答案なら他の答案例には事欠きません。)

 そして、いくつかの答案を見て、自分の整理と合致しやすいものから参考にしていけばよいです。
(※ただし、多くの答案が自分の整理と異なる書き方をしているのならば、それは自分の整理の方がおかしいことを疑うべきです。このような場合は、テキスト等で基本事項を確認したうえで、出題の趣旨や解説等で、論じるべき内容や議論の流れを再度確認すべきです。)


(次のページに続きます。)




2020年1月12日日曜日

第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その1


1 概説

 合格者の再現答案集や、問題集や答練の参考答案を見て、同じような書き方をしたい、と思っても、なかなかうまく真似られないこともあると思います。

 今回は、こういった参考答案等を読む際にどのような点を意識すればよいか、どこをどう真似ればよいのか、という点についてのお話です。


2 再現答案・参考答案等の重要性について

 近年の司法試験では、出題の趣旨や採点実感等において、「何をどう書くべきか」についてかなり具体的な指摘があり、目指すべき答案像を自分で作りやすくなってきています。しかし、答案の書き方にまだ慣れていない場合には、何の文例もなく答案を作成していくのは難しいと思います。

 そこで、再現答案・参考答案等を見てそれを真似る、というのが、答案の作り方の良い勉強になります。

 こういった答案例は、司法試験委員が作ったものではありませんから、「正解」答案、というわけではありませんが、優秀な合格者や予備校の先生方等が作ったものですし、前にも触れた(※)とおり「みんなが書くような普通の答案を目指す」という観点からも、どんどん真似ていくべきです。

 では、そういった答案例は、どのように読めば真似られるようになるのでしょうか。そもそも、どこを真似ればよいのでしょうか。

(※)「第18回 悩みどころ/悩むべきでないところ」など参照


3 再現答案・参考答案等の読み方の基本的な方針

 模範的な答案と全く同じものを書けるようになれば良いようにも思えますが、実際には、そもそも同じ問題は本試験で出ませんから、再現答案等を一字一句そのまま覚えてもあまり意味がありません。

 では、何を理解し/覚えるために再現答案等を読むのでしょうか。

 最終目的地は、もちろん「本試験の初見の問題で、時間内に合格答案を書けるようになること」です。

 そのためには、「どんな問題が出ても」「何度でも再現可能な形で」答案の書き方を身に付ける必要があります。

 そして、「(初見の問題での)再現可能性」に着目するならば、参考答案等を読む際に重要となるのは、「どこに」「何を」「どう」書いているかを把握することです。

 別の言い方をすれば、

①答案の議論の流れがどうなっているか(答案の法理論的な骨組み)
②あるトピックについて、具体的にはどのような書き方をしているか(論証、あてはめ等の実際の書き方/文例)

の2点が重要となるものと言えます。

 ①は「どこに」「何を」に対応し、②は「どう」書くかに対応します。

 以下、この2点に分けて、より具体的に説明します。


(次のページに続きます。)

第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その3

(前のページの続きです。→その1は こちら です。) 4   再現答案、参考答案の読み方②・・ 論証、あてはめ等の実際の書き方/文例 の 仕入れ  答案の法理論的な骨組みが分かったとしても、実際の試験では、見出しだけ並べるのではなく、文章の形で答案を書かな...