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2019年10月30日水曜日

第17回 行政裁量統制の処理方法(行政法) その3

(前の記事の続きです。→その1はこちらです。

今回は、裁量逸脱濫用の議論の流れのうち、

①問題とする行政処分の根拠条文を特定する

②当該判断について裁量権があることを論証する

③裁量があるとしても、裁量逸脱濫用がある場合には違法(取消事由)となる旨の宣言(行訴30条)

④裁量逸脱濫用の判断基準の定立  ←ココ

⑤本件の検討(あてはめ)  ←ココ

⑥結論  ←ココ


についての話です。)



(4)④判断基準の定立について

ア 基準定立の必要性

 単に行訴30条を指摘して「裁量逸脱濫用がある場合には違法となる」とだけ述べてみたところで、「どんな場合ならば裁量逸脱濫用があったといえるのか?」はわかりません。

 このように条文上の要件が不明確である以上、解釈して内容を具体化する必要があります。(「第1回 法適用の基本構造」等でこれまでに繰り返し触れてきたとおりです。)


イ 定立する基準について

 裁量逸脱濫用を判断する際の考慮要素についてはいくつもあるのですが、司法試験答案で書く、という場合の実用性を考えると、まずは、「事実誤認、考慮不尽、他事考慮、事実評価の誤り、などにより妥当性を欠く判断がされたどうか」に着目する基準を使えるようになっておくべきです。

 具体的には、例えば、「考慮すべき事実を考慮せず、または考慮すべきでない事項を考慮した場合や、事実評価の明白な誤り等により、社会通念上著しく妥当性を欠く判断がされた場合は裁量逸脱濫用があったものと言うべきである」(☆)といった基準です。(より丁寧には、最判平18.11.2民集60-9-3249など参照:リンクは裁判所サイト)

 事例にもよりますが、このような基準は、使用頻度が高く、また、あてはめもしやすいので、まずはこれをしっかり身に付けておくのが良いでしょう。

 なお、裁量逸脱濫用の検討においては、このような考慮要素の他にも、比例原則違反ではないか、平等原則違反ではないか、といった点を拠り所にして判断することもあります。そこで、問題文の事例において「行政上の必要性に比して処分の内容がやりすぎ」「他者と比べて差別的に処分されている」といった場合には、このような観点も加えて規範定立すると良いです。

 いずれにせよ重要なのは、「あてはめで使う視点を判断基準の部分にも入れておく」ということです。



(5)⑤本件の検討(あてはめ)について

 これは、普通に事実関係を指摘して、規範にあてはまるかどうかを検討するだけです。

 本試験においては、問題文中にある事務所の会議録や、相談者(処分の違法を主張する依頼人)の主張内容などから、「どういう部分が裁量逸脱濫用だと言いたいのか」は、示されることが多いと思います。

 したがって、それをベースに、「考慮すべきなのに考慮されていない」「考慮すべきでないことを考慮している」「重視すべき事実なのに軽視されている(事実評価の誤り)」などを具体的に指摘して、規範に当てはまることを述べればよいです。

 なお、その際には、「なぜそれを考慮すべきなのか」「なぜそれを重視すべきなのか」などもできるだけ具体的に指摘すべきです。

 例えば令和元年本試験問題を例にすると、「本件事業認定については、法20条3号により『土地の適正かつ合理的な利用への寄与』が要件となっているところ、土地の適正かつ合理的な利用という観点からは、土地収用による防災への影響も考慮すべきといえる。しかるに、本件事業認定処分の際には、本件事業により、周辺の防災目的の井戸が枯れてしまうのではないか、といった影響については調査されていない。ゆえに、この点に考慮不尽があり社会通念上著しく妥当性を欠く判断がされたといえる。」などといった書き方です。(一応、本問をまだ解いていない方へのネタバレ防止のため、文字の色を反転させておきます。ドラッグしてお読みください。)



 ところで、(4)で定立した☆規範には、「社会通念上著しく妥当性を欠く判断がされた場合」という部分もありますが、この部分は、あてはめにおいては上記例の下線部のとおり、簡単に結論を書くだけでよいと思います。理由は、「考慮不尽等があるにもかかわらず処分した、という時点で社会通念上著しく妥当性を欠く判断だと評価することが可能だから」です。(議論が浅いかもしれませんが、試験で合格答案を書く、という観点からはこの程度の思考整理で十分です。)



(6)⑥結論について

 これについては、「以上から、本件処分には裁量逸脱濫用の違法がある(取消事由がある)。」などと述べればよいです。



 なお、先にも述べたとおり、「法〇条の要件を満たすかどうか」自体を検討しているわけではないので、答案上で、「本件では法〇条の要件を満たさない」といった結論にするのは避けた方がよいです。「本件で法〇条の要件を満たすとした行政庁の判断には裁量逸脱濫用の違法がある。」といった書き方のほうがよいでしょう。

 細かい書き方にまで常にこだわる必要がある、というわけではないのですが、裁量統制の議論においては、「判断代置をするのではなく、判断過程審査をしているのだ」ということは答案上でもしっかり明示しておくべきです。



(次の記事で、補足とまとめに触れます。)





2019年10月21日月曜日

第17回 行政裁量統制の処理方法(行政法) その2


(前の記事の続きです。→その1はこちらです。


2 論述の基本的な流れ(要件裁量を念頭に説明します。)

 裁量統制の論述の大きな流れは以下のとおりとなります。

①問題とする行政処分の根拠条文を特定する

②当該処分について裁量権があることを論証する

③裁量があるとしても、裁量逸脱濫用がある場合には違法(取消事由)となる旨の宣言(行訴30条)

④裁量逸脱濫用の判断基準の定立

⑤本件の検討(あてはめ)

⑥結論



3 手順ごとの詳細

(1)①処分の根拠条文の特定

 処分の適法性を検討するわけですから、まずは処分の根拠となる法律を特定しないと議論が始まりません。したがって、根拠条文の特定が必要です。

 そして、根拠条文は、法律だけではなく、法律が委任した政令等までしっかり拾って示す必要があります。
(なお、「審査基準」「処分基準」などの行政内部の裁量基準がある場合、「そのような基準に基づいて処分の許否を決める」ということ自体が裁量権行使そのものなので、これらについては処分の根拠法規としての指摘は要りません。)



(2)②裁量権の論証

ア 裁量権論証の必要性

 裁量逸脱濫用の問題になるのは、当該処分が裁量処分の場合です(行訴30条)。つまり、裁量権があって初めて裁量逸脱濫用の問題になります。したがって、まずは当該処分につき行政に裁量権がある、ということを論じる必要があります

 そして、行政裁量は法律により与えられるものですから、根拠法律を解釈して行政裁量の有無を論じる必要があります。ここは、当たり前のことではありますが、書き忘れないように注意が必要です。


イ 論証のポイント

 法律による行政の原理という前提がありますから、行政裁量を支える根拠は、「法律がそのように定めた」ということです。

 そして、法律が行政裁量を認めているといえる根拠は、大きくは、

・条文が裁量を許すような抽象的な書き方になっている(形式的根拠)
・処分の際に専門的技術的な判断を要し、行政の裁量を認めざるを得ない(実質的根拠)

の2点です。答案で裁量権の論拠を書く際は、この二つを書けば必要十分です。

 実際に書く場合は、例えば、単に「法〇条は抽象的な文言を用いており・・」とするだけでは、どこがどう抽象的なのかわかりませんから、「法〇条は『土地の高度利用のために必要がある場合には』といった抽象的な文言を用いており・・」など、具体的な文言も指摘する必要があります。

 また、例えば、「本件処分には専門的技術的判断が必要であり・・」とするだけではやはりどこがどう専門的なのかわかりませんから、「本件処分においては、個々の土地利用の相互関係まで考慮して、地域全体の土地利用をいかに図るかについて総合的判断が必要であり、専門的技術的判断を要する」など、具体的な根拠も指摘する必要があります。


(3)③行訴30条の指摘

 ここは行訴法の条文どおりなので、「もっとも、裁量があるとしても、裁量逸脱濫用がある場合には違法(取消事由)となる(行訴30条)。」など、簡単に書けば足ります。ただし、絶対に書き落としてはいけません行訴30条こそが当該裁量処分の違法性を支える直接の法的根拠だからです。(ここを書き洩らしてしまった場合にどれほどの致命傷になるかはわかりませんが、減点になることは間違いないと思います。)


(次の記事に続きます。)

2019年10月9日水曜日

第17回 行政裁量統制の処理方法(行政法) その1




 行政裁量の司法的統制(裁量逸脱濫用の議論)については頻出論点なので、答案の書き方をしっかり確立し、準備しておく必要があります。

 裁量には大きく要件裁量、効果裁量がありますが、今回は、「要件裁量の逸脱濫用」の場面を念頭に解説します。



1 裁量処分の司法審査の対象

 具体的な処理方法の話に入る前に、大前提として、「裁量処分の司法審査の際には、いったい何が審査対象となるのか」を説明しておきます。


(1)要点

 以下で長々と説明していますが、要点を言うと、「裁量処分の司法審査においては主に判断過程を対象に審査を行い、判断代置は行わない」ということです。


2)裁量処分の司法審査の規律

ア 行政事件訴訟法30条の規律

 裁量処分の司法審査について定めている行訴30条では、「裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその逸脱があった場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる」と規定しています。すなわち、裁量処分については、「裁量逸脱濫用があったこと」が処分の違法事由であり、裁判所の司法審査の対象は「裁量逸脱濫用の有無」ということになります。

 ここで注意が必要なのは、「処分の根拠条文の要件該当性自体は裁判所は審査しない」ということです。(より具体的には、行政庁が行政庁なりに根拠法令を解釈して「本件が要件に該当する」、と判断したのなら、その「要件該当性」自体については、裁判所は異論をはさまない、ということです。)


 具体例

 たとえば、「土地の合理的かつ健全な高度利用を図る必要がある場合には、・・処分をすることができる」といった条文に基づいて裁量処分がされた場合を考えます。

 このような場合、他の科目と同じような通常の法適用の思考だと、答案では、「本件で『土地の合理的かつ健全な高度利用を図る必要』(☆)があったのかどうか」を検討したくなってしまうこともあるかと思います。

 しかし、上記の行訴30条の規定から考えると、これは誤りです。同条からすると、審査の対象とすべきは、「☆要件に該当するか」ではなく、「裁量逸脱濫用があったかどうか」ですから、あくまで「☆要件該当性アリとした行政庁の判断に裁量逸脱濫用がなかったか」が問題となることに注意が必要です。

 以上のとおり、「裁量を認める」ということは、結局、「条文の要件を満たすかどうかの判断自体は行政に任せ、裁判所としては審査しない」ということです。この点について、次に述べる判断代置と対比してはっきりと理解しておく必要があります。


3)判断代置について

 もしも仮に、ある裁量処分の適法性について、「裁判所としては、本件では『根拠法令の要件に該当しない』と判断します。そして、要件に該当しないにもかかわらずされた本件行政処分は、違法です。」という内容の判決を下すとしましょう。

 そうすると、結局のところ、「(要件該当性について)裁判所の判断と異なる判断をした行政処分は、全て違法」ということになってしまいます。(このように処分の適法性審査をすることを、「判断代置」などと言います。「裁判所の判断を以て、あるべき行政判断だったとみなす」ということです。)

 しかし、このように言ってしまうと、行政庁は「裁判所がするであろう判断」に拘束されることになり、結局、行政庁の裁量は認められない、ということになってしまいます。

 裁量のない処分(羈束行為)の場合は、他の科目の法適用と同様にこのような判断代置方式の議論でよいのですが、裁量処分の場合には、判断代置をするのではなく、あくまで裁量逸脱濫用を論じるのだ、ということを意識しておく必要があります。


(4)裁量逸脱濫用審査の内実

 以上述べてきたとおり、裁判所は、裁量処分においては「法律上の要件該当性の有無」は審査しないことになりますが、では、「裁量逸脱濫用の有無」の司法審査においては、具体的にどのような事情に着目して審査すればよいのでしょうか。

 ここで出てくるのが、判断過程審査という発想です。すなわち、「事実の考慮不尽や、他事考慮、また、事実評価の誤り等があったか」といった判断過程を審査する、ということです。つまり、「裁判所は、本件が要件に該当していたかどうか自体には口を出さないが、判断過程がおかしかったのではないかについては審査する」ということです。


※なお、ここでは試験対策との観点から特に判断過程審査をクローズアップしていますが、裁量逸脱濫用の審査については、この他にも、平等原則違反、比例原則違反等、行政の判断内容に着目するものもあります。




(5)答案で問題提起、結論を書く際の注意点

 したがって、答案上でも以上の意識を正確に示す必要があります。具体的には、

(a)「本件では法〇条の要件を満たさないのではないか」といった問題提起
(b)「法〇条の言う要件Aは、『・・・』を言うと解する。これを本件についてみると、~という事実からすれば、・・・に当たらない。したがって、本件処分は要件非該当にもかかわらずされたものであり、違法である」といった規範定立及びあてはめ

(c)「以上から、本件では法〇条の要件を満たす/満たさない」といった結論


のような書き方は、いずれも不正確です。(特に(b)の書き方などは、致命傷といってよいでしょう。)


 正確には、

(A)「本件処分の際に法〇条の要件を満たすとした判断に裁量逸脱濫用がないか検討する」という問題提起
(B)「本件では、・・・という事実を考慮すべきであるのにこれを看過しており、裁量逸脱濫用がある」といったあてはめ
(C)「以上から、法〇条の要件を満たすとしてされた本件処分には裁量逸脱濫用の違法がある」という結論


などという書き方になります。

 あまり細かい表現にまで神経質になる必要はありませんが、上(特に(b))のように不正確な書き方をしないように注意する必要があります。



(次の記事に続きます。)


第20回 再現答案・参考答案等の読み方 その3

(前のページの続きです。→その1は こちら です。) 4   再現答案、参考答案の読み方②・・ 論証、あてはめ等の実際の書き方/文例 の 仕入れ  答案の法理論的な骨組みが分かったとしても、実際の試験では、見出しだけ並べるのではなく、文章の形で答案を書かな...